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他人の人生はモデルにならない。ビジネス書編集者を辞め、欧州で学んだ「キャリア」の意味

書店の写真

約6年間、筆者はビジネス書の編集者として働いてきた(写真はイメージです)。

GettyImages

「ビジネスパーソンとして出世するためのスキルとは」「人生100年時代を生き抜くキャリア術を身につけよ」……。

約6年間、私はビジネス書の編集者として日本経済新聞出版社(現・日経BP)で60冊以上の書籍を作ってきた。中でも大きな関心テーマが「キャリア」だった。

編集者として第一線で活躍する経済人に会うことで、「キャリアのモデルケース」を探していた部分もあった。

しかしある時、いくら成功事例を学んでも、私がその人生を歩むことはできないと、気がついた。

そして私は仕事を辞め、学びなおすために欧州に飛んだ。ベルギーで生活する今、あらためて感じているのが、「自分らしさ」はそれぞれ違っており、絶対に「キャリアに一つの正解なんてない」ということだ。

編集者時代に会ったリーダーたちから学んだこと

大学生の時から、いつも将来に不安を抱えていた。ワークライフバランスという言葉はどこでも叫ばれていたし、特に女性においてキャリアとライフの両立をするのは大変だといわれていたからだ。

成功するためには戦略的にキャリアを考え、ロールモデルを早いうちに見つけることと言われていた。

私は、仕事やプライベートで男女を含め色々な人に会ってきた。若くして起業を成功させた経営者、出産後も日本と海外を仕事で行き来する生活を実現させてきた女性、大胆なキャリアチェンジを実現した30代などなど。

しかし、どんなに探しても、「ロールモデル」なんていなかった。よく考えたら当然だ。自分の人生は自分だけのもので、誰かの人生を「参考」にはできても、同じ道を歩むことなどできないからだ。

1つ気づいたことがある。インタビューを重ねるなかで、誰もが悩んでもがいて、時に自分のコンプレックスと向き合い、「自分にとっての正解」を出していたことだ。私も30歳を機に、学んだことを自分でも実践してみようと思ったのだ。

学んだのはキャリアの「ヒント」

話をしている人

ビジネス書の編集を通して学んだことも少なくない(写真はイメージです)。

shutterstock/fizkes

たとえば、ジバンシィ・ジャパン代表(当時・現ZOZOエグゼクティブ・オフィサー)のクリスティン・エドマン氏からは「ガッツ」の使い方を学んだ。

在職中にオンラインで受講したイスラエル・テルアビブ大学のサマーコースや、世界の若者が参加するリーダー育成フォーラムOne Young Worldの選考は、直前まで英語の面接や準備に追われ、とにかく気持ちが重たかった。

そんな時、「どうせ無理」「恥をかくだけ」という心の声に打ち勝てたのは、エドマン氏の存在があったから。

「人生には時に『えいや!』で飛び込まないといけない瞬間がある」と彼女に教わった。挑戦には痛みが伴う。でも、行動しないと何も始まらないと。

エドマン氏だけではなく紹介しきれないほど、たくさんの方々から「キャリアのヒント」をいただいた。

留学を決めて変わった「何か」

正式なビザを取得するための仮ビザ

正式なビザを取得するための仮ビザと共に押されたスタンプ。入国後8日間しか有効ではない。

筆者提供

留学は、その意味では想定していたキャリアの延長にあったわけでもない。

ぼんやりと「いつかやりたいと思っていたけど、気づいたらできていなかった」リストのなかにあったものだ。

戦略を持ってしたものでもないし、卒業後に何をしたいか聞かれても、確固たる決意があるわけでもない。

でも、「それでいいじゃないか」と自信をもって言えるようになったのが今の自分だ。

ただし、2022年初に留学を決めてからは困難続きだった。

良さそうな学校が見つかっても、期日は目前で英語の試験は間に合わない。そもそもコロナも、ウクライナの戦争も先行きが不透明だった。加えて会社を辞めてからの収入も不透明だった。

ビザ取得のために15種類以上の書類を用意したが、発行されたのは仮のビザ。本ビザを得るため、現地でまた別の書類も求められ、その書類の取得に時間がかかったため、今後は仮ビザを4カ月延長 —— 。本ビザを発行してもらえたのは、延長した仮ビザがきれるわずか数日前だった。

その上、「全て授業は英語だから心配するな」と言われた大学院でも、休み時間になるとみんな流暢なフランス語で話しており、ひとりぼっちだった。

それでも、半年たってもなんとか生活しているし、むしろこの生活に満足している。「幸せの閾値」が下がったのかもしれないが、すこし違う気もする。

ベルギーでの生活の「何か」が私を変えたのだ。

ベルギー「交渉でルールを変える」

筆者が通う大学院

筆者が通う大学院。

筆者撮影

ベルギーにいると、実にいろいろな人にあうし、日々交渉することも多い。「みんな違って当たり前」だからだ。

例えば、1月の法学の試験では、「より課題に集中するために言語の壁を減らしたい」と特別な措置として、日本語に全訳した条約集や電子辞書を持ち込みさせてもらった。

ある同級生は、共同で作ったレポートスコアが、同じチームの私よりも1点低いことに不満を抱き、教授を呼び出した。

教授になぜ点差があるのか説明を求め、結果的には点数を1点あげてもらい、満足そうな顔で教室を出ていった。とにかく交渉が当たり前なのだ。

一方で、色々な国から年齢も異なる学生が来ており、背景が全く違うことを教授も当然のように受け入れている。

教科書を購入させられることもほぼなく、多くはPDFが配布される。言語や資金による障壁をなるべく取り除き、学生が集中できる環境作りを教授が心がけているのだ。

いまを犠牲にしない生き方

馬の写真

ベルギー留学中の筆者の自宅近くで飼育されている馬たち。

筆者提供

学生も多様だ。「仕事をしているから、2倍の時間かけて卒業する」というモロッコ出身の男子学生もいるし、「学校を1カ月休んでアジアを旅するの。人の目なんて気にしちゃだめよ。他人がどう思っても、それってあなたの人生に重要?」と言いながら「ノートみせてね」と笑顔で付け足したコンゴから来た女子学生もいる。

社会人になっても型にはまった人は少ない。

「平日は10時間も働いているから、週末に加えて月に6回の休みは当然」と、休みには部屋に引き込もってオンラインバトルゲームに熱中する30代のベルギー人男性もいる。

また自宅でサロン経営をしながら2児の子育てをするベルギー人女性は、夫が勤務するスーパーが閉店してしまい、決まっていた昇給の話が吹き飛んだ。それでも夫婦で「まぁ、なんとかなるよ」と酒のつまみに笑いながら話す姿には仰天させられた。

彼らの姿をみながら、そしてこちらで生活をするうちに「なんとかなるだろう」「ならなかったら交渉してみればいい」「それでもだめなら考える」……。こうした姿勢が私も身についてきたようだ。

残りの寿命を可視化した図

筆者の場合、あと約3100週で90歳を迎える。

「How many weeks until you die?」の画面をキャプチャ

それは、先のことを全く考えないわけではない。しかし、未来のために「今」を犠牲にし続けることも、自分を追い詰めすぎることも、しっくりこなくなってしまったのだ。

この図は90歳で死ぬとして、人生があとどれくらい残っているのかを可視化できるサービスを使ってみたもの。

私の場合はすでに3分の1が過ぎている。もっと早く死んでしまう可能性も、けがや事故に直面する可能性もあるだろう。

今を犠牲にしている暇はないのだ。

「将来は決まっていません」に苦笑い

卒業後について日本で聞かれることも多い。

そういうときは「決まっていません」と笑顔で答えるようにしている。そして大体の場合、ちょっと苦笑いをされる。

EUで望むような職を得る、というのは今の私には言語の面からもまだ高いハードルのようにも感じている。

しかし、友人の中には大学の学部を母国・パキスタンで卒業し、修士をフランスで取得。その後ベルギーで働き始めて3年が経過した男性や、バングラデシュで学部を卒業し、ベルギーの大学院に入学、現在は上級修士課程を共に学んでいる友人もいる。

彼女は、働きながら、毎週片道3時間かけて通っている。2人とも、英語のなまりはかなり強いが、物おじする様子はまったくない。

こうした自由なキャリア形成や、姿勢をみていると、「こうでなければいけない」という考え方から外れることに恐怖を感じていた自分が、少し可哀想になる。

人手不足の日本は戻れる場所

ANAの飛行機

shutterstock/Markus Mainka

欧州で職がみつからなければ世界のどこかで見つければいいだけだし、自分でビジネスを拡大してもいい。

少なくとも日本は少子高齢化による人手不足は続くだろうから、戻ったら何かしら困っている人はいるかもしれない。

これを「チャンス」と捉えて外に飛び出していった友人を、他にも何人か知っている。

「みんな違って当たり前」なのだから、他人に合わせるのではなく、自分のペースで「できない自分」を認め、周囲を頼ることも含めて、考え続けて行動すれば、何かしらの解決策はでてくるものだ。

なにより、その実感と自信を抱けるようになっただけでも、この半年の成果は私にとっては非常に大きい。

日本は全てが整っているし、ルール通りのことが多い。それはとても便利ではあるが、ときに「自分らしさ」を忘れそうになる。

今の自分にモヤモヤを抱えている人ほど、コロナの規制がなくなったいま、外に出てみてはどうだろうか。

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