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日本IBMが「障害は個性であり、多様な能力のひとつ」と考える理由。実践者が語る、推進のための2つのポイント

多様な人材が集まる職場

ESG経営の重要性が叫ばれ、優秀な人材の確保やイノベーションの創出など、さまざまな理由から多くの企業がDE&I(ダイバーシティー、エクイティ&インクルージョン)の推進に注力している。この分野を牽引する企業のひとつが、IBM。1899年に女性および黒人の採用を開始し、1914年にはハンディキャップがある人の雇用も開始した。いずれも、大量生産の時代を突き進むアメリカで、大量の人材確保が必要だったことが背景にある。

そのDNAを受け継ぐ日本IBMも、2012年には『日経WOMAN』が実施した「企業の女性活用度調査」で、3年連続の1位を達成。男性の育児休暇取得は1987年から開始するなど、日本国内におけるDE&Iの先駆け的存在といえる。

今回は、障害者の支援に関する取り組み「Diverse Ability(ダイバース アビリティー)」をリードする同社取締役副社長CDO(チーフ・ダイバーシティー・オフィサー)の福地敏行さんの言葉から、目指す組織のかたちや推進を進める上での大切な視点について考えたい。

「多様な能力」が新しい価値を生み出す

福地敏行さん

日本IBM 取締役副社長 CDOの福地敏行さん。

画像提供/日本IBM

日本IBMの取り組みの中に、「Diverse Ability」という活動がある。直訳すると「多様な能力」だ。取り組みを始めた当初は、障害を持った社員を総称して「PwD =People with Disability」と呼んでいたが、現在は「PwDA=People with Diverse Ability」と呼んでいる。直訳すると、「障害を持った人たち」から「多様な能力を持った人たち」である。

「Disability(障害)」というワードではなく、あえてDiverse Abilityとしているのは、障害は個性であり、多様な能力のひとつという考えからだ。採用も同様の考え方で、障害者採用枠はあえて設けていない。障害を制約とせず、誰もが個々の能力を発揮して働ける組織を目指す。コンサルタントや、ITスペシャリストとして活躍している人もいるという。

「IBMのフェローで、2021年に日本科学未来館の館長に就任した浅川智恵子さんという方がいます。彼女は視覚障害があるのですが、1997年にホームページを声で読み上げるソフトウェアを開発しました。それまで点字でしか情報が得られなかった視覚障害者の方も、インターネットから膨大な情報を得ることができるようになったのです。まさに、Diverse Abilityが生み出した新しい世界です」

また、2014年より障害者向けインターンシップ・プログラム「Access Blue Program」もスタートした。障害者手帳を持つ大学生、大学院生、既卒者5年目までを対象とした、ビジネス体験やスキルを学ぶ約7カ月間のプログラムだ。

「障害をお持ちの皆さんは、アルバイトを通した就業経験を持たない方も少なくありません。そのため、ビジネスにおいてどのようなスキルが必要か、自分は何ができるのかを知らないという人がほとんどです。このインターンシップ・プログラムを通して、働くことへの気づきを得る体験は、参加者にとって大きな意義があるようです

プログラムでは、プログラミングやアプリ構築、AIの基礎スキル習得、さらにはIBMの最新技術を学ぶ授業もある。また、コミュニケーションやプレゼンテーションスキルの獲得、他企業への営業・交渉体験など、その内容は多岐に渡る(2020年、2021年はすべてオンラインにて実施)。

「彼らは人からサポートされることが圧倒的に多いと思いますが、Access Blueでは、自分が仲間をサポートすることもあります。インターン生同士がお互いの得意な分野で補い合う姿から、私たちも毎回多くのことを学んでいます

プログラムやセミナーを通してDE&Iを「自分ごと化」する

多様な人材が働く職場

Photo via GettyImages

DE&Iの機運は高まっているが、実際にその概念を自社のカルチャーとして根付かせ、組織の成長に結び付ける際に課題を抱えている企業は少なくない。その背景のひとつに「自分ごと化できない」という点があるだろう

日本IBMのDiverse Abilityの取り組みは、この課題をクリアするうえで非常に有効に機能しているという。

「Access BlueでのOJTや入社されたPwDAの方々と一緒に働くと、社内全体に気づきが生まれます。多様な視点をもつインターン生やPwDAの皆さんから学ぶ視点は多い。話すスピードを変えてみたり、表現方法を変えたりすると、コミュニケーションにポジティブな影響があるのは間違いありません

DE&Iは『トップがそう言っているから』『人事がやっている活動だから』など他人事と捉えていると、絶対に進まない。とはいえ、マネジメント層の意識はとても重要です。もし配属先の上司がダイバーシティーへの関心が薄かった場合、チームで意識が醸成されなくなります」

また、Diverse Abilityの取り組みのひとつに、「ノーマライゼーションの施策」がある。多様な働き方に関する制度の導入や、職場環境整備の実施、安全確認のための事業所内ツアーなどだ。これら障害者の方が働きやすい環境やインフラの構築は、全社員にとってメリットにつながっているのだという

さらに、日本IBMでは社内向け、社外向けを問わずさまざまなセミナーを行っており、その活動も多くの社員の理解を深める機会となっているという。

「当事者が登壇して体験談を話したり、パネラー同士で課題を話したり。300人近くのセミナーを行うこともあります。違いを知る機会をたくさんつくることも、非常に重要だと感じます」

DE&Iを進める際の2つのポイント

最後に福地さんは、これまでに感じたDE&Iを進める際のポイントとして以下の2点を挙げた。

1.アンコンシャスバイアスを自覚する

アンコンシャスバイアスは、必ず誰しもが持つものだ。自分の言動や行動の中に、思い込みがないか振り返ること。そして、間違った発言や行動をしたと気づいたらその場で謝ることが重要だという。「周りの人も、誰かの言動に違和感があったら、迷わず、勇気をもって指摘することも重要です。moment of truth. その“瞬間”がとても大切なのです」

2.違いを知る

福地さんが「これがもっとも大事なポイント」と話すのが、周囲の理解だ。「双方が自分の考えを発信すること。自分の考えや痛みは、発信しないと伝わりません。その上で、お互いが違いを理解し合うことが、よりよい環境づくりにつながっていくと考えます

これらの視点は、障害に関わる取り組みだけに留まらず、全てのDE&I推進において大きなブレイクスルーになることだろう。

活動を他企業にも波及させていくために

日本IBMは、こういった一連の取り組みをさらに他企業にも波及させていくためのアクションにも注力している。その一例が、同社の代表取締役社長 山口明夫さんが代表理事を務める「企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE:Accessibility Consortium of Enterprises)」。人事担当者や障害のある社員向けのセミナーやワークショップの開催、教育冊子の発行などを通じ、当事者への啓蒙活動、ロールモデル輩出、経営者や社会への提言を実施する組織だ。

2010年から2014年にかけて日本IBMの研修施設で開催された経営者向けのアクセシビリティ・フォーラムから生まれた提言に端を発したもので、ACEの行動指針は以下に定めている。

企業の成長に、そして社会の発展に資する、真にインクルーシブな環境を実現するため、私たちはダイバーシティーを尊重し、新しい障害者雇用のモデルを提唱します

Diverse Abilityは企業の成長と、さらには社会の発展に資するもの。一人ひとりが活躍できる豊かな社会をつくために、企業間を超えた取り組みがより広がっていくことを願う。

MASHING UPより転載(2022年12月26日公開


(文・取材:島田ゆかり)

島田ゆかり:ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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