「老後資金」作り、正しく実行するための4ステップ

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退職前の収入の70〜80%を毎年賄えるだけの貯蓄が一般的な目安だ。

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  • 老後資金のために目標とすべき貯蓄額は、支出や現在の給与などによって、個々に異なる。
  • 多くのファイナンシャルアドバイザーは退職後を睨んで、毎年所得の15~20%、遅く始めた人はそれ以上、貯蓄に回すことを推奨している。
  • 複数の収入源を持ち、貯蓄から保守的に引き出せば、お金を使い果たすことはない。

何十年も仕事に人生をささげてきた後で迎えるリタイアメントは、長らく待ちわびた人生の節目だ。だが、このリタイア期を支える十分な金額を貯めるには、何年にも及ぶひたむきな貯蓄が必要である。

最近ギャラップ社(Gallup)が行った調査によると、米国退職者の平均年齢は62歳だった。つまり、85歳まで生きた場合、少なくとも23年間にかかる全費用(およびリタイア後の目標)を賄う十分なお金が必要なのだ。それと、長期的に貯蓄額へ確実に影響を与えるインフレのような要因も忘れてはならない。

リタイアに向けていくら必要か?

ざっくりといくら必要かと言うのは簡単だが、実のところ個人の老後資金の目標額は、兄弟姉妹や隣人、あるいは同僚であってもかなり異なる。というのも、必要額は重要な複数の個人的要素に基づいて決まるからだ。

だが、誰にでも当てはまる大事な経験則がある。早く貯蓄を始めるほど、目標への到達に必要な労力は少なくて済み、人生の後半を良い状態で迎えられるということだ。

では、貯蓄がいくら必要かを決める4つの重要なステップを順番に見ていこう。

1. リタイア後に貯蓄で賄う支出を計算する。

どのようなリタイア生活を送りたいかによって、そのライフスタイルを維持するために必要な金額が決まる。世界中を豪遊しようと思っている人の予算は、毎朝裏庭でバードウォッチングを楽しもうと考えている人とはやや異なるだろう。

退職したら、退職前に払っていたのと同じ項目の多くを貯蓄で賄わなければならない。例えば、次のような支出だ。

  • 食費
  • 住居費
  • 交通費
  • 衣服
  • 贈り物
  • 光熱費
  • 保険(医療保険を含む)
  • 旅費

退職前と後でこうした支出項目をさほど変えないつもりならば、いくら必要になるかわかりやすい。だが、リタイア後に壮大なプランがある場合は、新しい生活水準にどれくらいお金がかかるのか判断することが肝になる。

ヒント:退職後も住宅ローンを払い続ける高齢者が増えている。リタイアまでに完済しない場合には、貯蓄の中に毎月の住宅ローン返済額を必ず組み入れておこう。

また、自分や配偶者の医療費、あるいは子供や孫への資金的援助といった、予期せず必要になる費用も必ず頭に入れておこう。

「退職者が見逃しがちな(あるいは、忘れているか予算に組み込んでいない)最も一般的な支出が、終末期の医療費だ」と、メインストリート・ファイナンシャル・プランニング(MainStreet Financial Planning, Inc.)のジム・ルドウィグ氏は言う。こうした費用には、在宅介護士に係る費用、老人ホームや高度介護施設への入居費が含まれ、人生で最も高額な部分だ。また多くの場合、長生きをしてこうしたケアを受ける期間が延びれば、貯蓄のかなりの部分を使い果たしかねない。

次に、どこに住むかを考えよう。小さい家に住み替えたいかもしれないし、ずっと夢見ていた終の棲家を購入したいかもしれない。いずれにせよ、こうした費用も予算に必ず織り込んでおこう。

それから、インフレと、それが貯蓄に及ぼす影響も忘れずに考慮しよう。例えば2021年だけで、インフレ率は数十年ぶりの高水準である6%を超えている。これは平均を優に上回るが、年率2%ぐらいのインフレ率は加味しておいた方が良い。

注:近年、米国における平均退職年齢は、男性が62歳から64歳、女性が60歳から62歳へと着実に上がっている。

2. 毎年いくら貯蓄すべきかを分析する

いくら必要かがわかったら、毎年いくら貯蓄すべきかを計算できる。

目標額を決める簡単な方法は、今の年収の何倍を目指すかだ。予想される退職後のコストや、年金ポートフォリオでどのような運用をするかによっても実際の金額は変わる。だが、この方法はざっくりとした目標額を決め、現状への理解を深めるのに役立つ。

次の表は、投資運用会社のフィデリティ(Fidelity)が、リタイア後の目標達成に向けて、10年ごとにいくら貯蓄しておくべきかをまとめたものである。

年齢 年収の何倍を貯蓄しておくべきか
30 1〜2倍
40 3〜4倍
50 6〜7倍
60 8倍
67 10倍以上


マネーのプロの多くは、この目標額に到達するために、毎年所得の15~20%を貯蓄に充ててるべきだという。だが、リタイア後にどのような生活を送りたいか、退職後にどういった金融負債を負うつもりがあるか、いまいくら資産を持っているかによっては、もっと貯蓄が必要になるかもしれない。

早く貯蓄を始めるほど、貯蓄の複利効果が得られやすく、リタイア年齢までに目標を達成しやすくなる。

3. リタイア後に頼れる他の収入源を計算する

リタイア後に向けて、考えておくべき複数の投資や収入源がある。どの収入源を利用できるかによって、いまの貯蓄額が変わってくる。

日本の年金制度は一般的に3階建てと言われる。1階部分に相当するのが、20歳~60歳の全国民が一律1万6260円を毎月負担する国民年金だ。その上の2階部分に相当するのが厚生年金基金で、会社に勤めている人が毎月定率の保険料を会社と折半で負担する。こうした年金は退職後の安定した収入源として機能する。

例えば、国民年金に加入する第1号被保険者の場合、65歳から月額5万7000円(基礎年金)、厚生年金に加入する第2号被保険者の場合、65歳から月額15万4000円(平均)の年金を受給できる。第2号被保険者ならば、年間180万円近くの費用をこれら年金で賄える。

また、3階建て部分に相当する私的年金も大事な収入源だ。私的年金は、企業が提供する企業型確定給付年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)だ。企業型DCで、加入者の拠出額まで企業が負担するマッチング拠出を採用しているものもある。

勤め先に企業型年金がない場合でも、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入しているかもしれない。iDeCoや確定拠出年金は受け取り方が「年金」「一時金」「年金と一時金の組み合わせ」の3種類あり、どれが最も有利か考えよう。また、保険会社が販売する年金商品も、老後のキャッシュフローとして活用できるだろう。

他にもアパート経営などで老後の安定収入を確保する、副業を営むといった方法もあるが、年金が退職者にとって最も一般的な収入源と言える。

4.リタイアの計画時に利用できる経験則を知っておく

人はみな、それぞれ状況もニーズも異なるが、大半のファイナンシャルアドバイザーが従う重要な経験則がいくつかある。リタイアに向けていくら貯蓄するかを決める際にはこうした経験則を活用すると良いだろう。

退職所得を、退職前の所得の何割にするか?

退職後の毎年の所得を、退職前7~8割にすることを多くのマネーのプロが推奨している。つまり、今の年収が6万ドル(約840万円)なら、退職後は毎年の支出額を4万2000~4万8000ドル(約580~670万円)に抑える。

これは誰にでも当てはまるルールではなく、もっと切り詰めなければならないこともある。ルドウィック氏は「退職後の収入源(すなわち貯蓄や投資)で、退職前の支出の8割、9割あるいは全額を賄わなければならない人が多い」という。すべては、今と退職後の具体的な支出によって変わる。

毎年所得の15%を貯蓄する

早くから退職に向けて貯蓄を始めれば、毎年所得の15%を貯蓄することで十分目標を達成できるだろう。だが始めるのが遅ければ、それに追いつくために毎年の貯蓄額が多く必要になる。

カリフォルニアに拠点を置く米国の金融アドバイザリー会社、フィンデック(FinDec)の最高投資責任者(CIO)であるトーレン・テイゲン氏は言う。

「年を取るにつれて、同じ最終目標に必要な貯蓄額は10年ごとに倍になる。だから、貯蓄を10年遅らせて40歳から開始したとすると、退職時に同じ目標を達成するための年間の貯蓄割合は、30歳で始めた場合の8~10%ではなく、16~20%に上昇する」

リタイアまでに所得の10倍を貯める

上述のように、多くのファイナンシャルアドバイザーやフィデリティのような運用会社は、退職までに年収の約10倍の貯蓄を推奨する。実際にこれほど必要ないかもしれないが、リタイアに向かう中で頭の片隅に入れておくと良いだろう。この金額は、退職後に予想されるニーズに応じていつでも調整できる。

4%ルール

リタイアしたらお金が尽きてしまうのでは、と心配する退職者は多い。そうならないために、4%ルールは心強い指針になるかもしれない。

4%ルールとは、リタイア1年目に老後資金から引き出せる額を4%までにするというものだ。例えば200万ドル(約2億6000万円)の老後資金がある場合、1年目は8万ドル(約1000万円)引き出せる。2年目はこの8万ドルにインフレ率を加味した金額だけ、老後資金から引き出す。

さまざまな要因が実際の引出しプロセスに影響する可能性はあるものの、お金を使い果たさないようにするなら、4%ルールから始めるのが良いだろう。

ヒント:4%ルールは標準だが、実際の引出し割合は3~5%と言うファイナンシャルアドバイザーもいるかもしれない。

老後資金は人それぞれ

老後資金に対して、すべてに当てはまる万能なアプローチはない。人によってニーズは異なるので、いつ始めるか、毎年いくら貯蓄するかといった貯蓄アプローチもさまざまだ。CFPやリタイアのエキスパートに相談するのが、自分のニーズを理解する最善の方法なのだ。

「前もって計画を立て、努力をすることが、退職期に向けて十分な金額を貯める鍵になる。75歳になってお金を使い果たしたことに気づき、弟や妹のところに身を寄せざるを得ないのは危険だ」と、ルドウィック氏は言う。

彼の助言はこうだ。

「人に頼らずに暮らしたいなら、前もってやるべきことをしよう。起こり得るあらゆる可能性を考えよう。それがもし起こらなければあなたはラッキーだ。子どもや孫にすばらしい贈り物を残してあげられるのだから」

マネーに関するポイント

リタイアに向けて十分な金額を貯める第一歩は、そもそもいくら必要かを決めることだ。つまり、現在および将来の支出を分析し、毎月いくら蓄える余裕があるかを決めるのだ。また、多種多様な貯蓄や投資商品、収入源を活用できるだろう。

退職年齢に到達するまでに、いまの年収の10倍程度の貯蓄を目標にしよう。退職前にできるだけ年間の支出額を減らせば、老後資金をさらに長持ちさせられるだろう。

いつものことだが、信頼できるファイナンシャルプランナーに相談し、自分のニーズを決め、それに合った老後資金戦略を決定するのが賢明なのだ。

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