対話型人工知能(AI)「ChatGPT」への注目が爆発的に高まり、関連企業の株式に資金が急激に集まっているが……。
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人工知能(AI)が世界の話題や関心を独占しているとまでは言えないものの、米ウォール街の注目を一身に浴びていることだけは間違いない。
2022年、テキストから画像を生成する「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」や「Craiyon(クレヨン、旧DALL-E Mini)」がブームとなり、あらためてAIの可能性に関心が集まった。
そして2023年、米研究団体OpenAI(オープンエーアイ)の開発した対話型AI「ChatGPT(チャットジーティーピー)」が世界中でバズり、注目だけでなくカネも集まり始めた。以前からOpenAIに出資していたマイクロソフト(Microsoft)は、総額100億ドルにおよぶ追加投資を発表した。
ChatGTPの急激な広がりは、問題含みの異様なアート作品から社会の破滅に至る大予想までさまざまな反応を呼び起こし、それを目撃した投資家がAI分野に殺到するというゴールドラッシュさながらの様相を呈している。
例えば、ここひと月ほどの間に、音声認識および対話型AI技術のSoundHound(サウンドハウンド)、AIおよび機械学習(ML)向けデータエンジニアリングのInnodata(イノデータ)などのAI関連銘柄は時価総額を倍増させた。
AI駆動データ分析ソリューションのBigBear.ai(ビッグベアドットエーアイ)は年初来330%超(2月27日終値)の株価上昇を記録している。
こうした動きは、ブロックチェーンやメタバースといった聞き覚えのあるテーマを彷彿とさせる。いずれも数々のバズワードを生み出し、短期的な株価高騰を経験しながら、少なくともビジネスの世界を一変させるには至っていない。
AIはそれらのテーマと違って研究開発の歴史が長く、目新しい技術というわけではない。それでも、最近の盛り上がりは明らかに過去より一段上のステージに達した感がある。
フランクリン・ダイナテック・ファンド(Franklin DynaTech Fund)の共同運用責任者として長年にわたって競合ファンドをアウトパフォームする実績を築いてきたマシュー・モバーグは、Insiderの取材にこう語る。
「流行りや注目されるテーマというのはテクノロジーの世界では常にあるものです。本当に素晴らしい、その新規性に目を瞠(みは)るような技術でも、現金化する出口がないというケースは珍しくありません。相応しいビジネスモデルがまだ十分に見つかっていないだけの話で、ブロックチェーンはその代表例と言えるでしょう」
それでも、ハイテク分野の投資家たちは、AIがいずれ巨大な市場を生み出すことを信じて疑わない。膨大なデータの中から人間では決して見抜けない有益なパターンを発見したり、コーディング、カスタマーサービス、デザインなどの業務を人間よりはるかに速く、安くこなしたり……AIが企業活動に貢献できる能力や範囲はあまりに大きいからだ。
ハイテク株の強気筋として知られる米資産運用大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のダン・アイブスによれば、マイクロソフトにとって出資するChatGPTを含むAI部門の価値は1500億ドル(約19兆5000億円、1ドル130円換算)相当にも上るという。
また、著名投資家のキャシー・ウッド氏率いる資産運用会社アーク・インベストメント・マネジメント(Ark Investment Management)は、年次包括調査レポート「ビッグアイデア」2023年版の中で、2030年までにAIが可能な用途の100%で採用された場合、世界の労働生産性は200兆ドル(2030年の予想GDP世界合計額に相当)向上すると指摘する。
ただし、それらは強気シナリオをたどった場合の話だ。弱気シナリオや最悪シナリオに陥る可能性も当然ある。
実際、ここまでAI分野をリードしてきたグーグル(Google)が近ごろ発表した対話型AI「Bard(バード)」はプレゼン段階で手痛い失敗を犯したし、ChatGTPの技術をいち早く採用して覇権を握るかと見られたマイクロソフトも、検索エンジン「Bing(ビング)」のアップデート版が欠陥だらけで先行き不透明になってきた。
何にせよ、両社とも近いうちにAIから巨額の利益を得られるとの想定では動いていないように思われる。
大きな資金が限られた銘柄に流入している現況で、AIの将来性をどう評価し、どのような投資戦略を展開しているのか、Insiderはモバーグ氏らハイテク分野をカバーするファンドマネージャー4人に話を聞いた。
【ポイント1】ピック・アンド・ショベル戦略
AI関連投資のアプローチとして一般的なのは、数年後に大勝ちする製品そのものを生み出す銘柄を狙う「ピュアプレイ」ではなく、AI関連製品の開発に取り組む数多くの企業に利用されるテクノロジーに着目して投資する「ピック・アンド・ショベル」だ。
カラモス・インベストメンツ(Calamos Investments)の「フィニアス・ロングショート・ファンド(Phineus Long/Short Fund)」を運用するマイケル・グラント氏はこの手法を推奨する。
「AIの演算処理に必要とされる莫大な計算能力(を実現するGPU)を提供するエヌビディア(Nvidia)は、このアプローチの観点から言えば、圧倒的に最良の投資先です。現在のChatGPTの学習環境は約2万5000個のエヌビディア製GPUで構成されており、同社にとっては数億ドル相当の売上高を意味します」
米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)によれば、グラント氏のファンドは運用残高9億3500万ドル。2月21日までの直近3年間の年平均リターンは11%で、ベンチマークを倍以上アウトパフォームした。
このテーマの恩恵を受ける半導体チップメーカーはもちろんエヌビディアだけではない。
グラント氏によれば、同社に続く大きな利益を得る可能性があるのは、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(Advanced Micro Devices、AMD)だ。マーベル・テクノロジー(Marvell Technology)やインテル(Intel)にも追い風が吹く。
では、AI市場を最後に制する企業はどこか。グラント氏はその問いに答える段階にはないとするものの、近ごろAIをめぐる浮き沈みが激しいグーグルの親会社アルファベット(Alphabet)は、さすがに良いポジションにつけていると評価する。
長年にわたりAIに積極的な投資を続け、サンダー・ピチャイ氏のCEO就任以降は「AIファースト」を標榜する同社は、AIの学習用データをどこよりも豊富に抱えている。
「グーグルはすでにAIを消費者に直接役に立つ形で適用できるビジネスを展開していますが、マイクロソフトはまだその段階にありません。このリードを維持できるかどうかは、グーグル次第です」
【ポイント2】チョークポイント(難関)
米資産運用会社ジェイコブ・アセット・マネジメント(Jacob Asset Management)の会長兼最高投資責任者(CIO)で、ハイテク分野のベテラン著名投資家として知られるライアン・ジェイコブは、自社ビジネスでのAI活用を検討している企業は、彼が「チョークポイント(難関)」と呼ぶところの潜在的な課題に向き合う必要に迫られていると指摘する。
「AIは以前から存在していた課題と向き合うことになるでしょう。反復的な機械学習をベースとするAIアプリケーションはより強力な演算能力を必要とし、レイテンシー(データ転送に要する通信時間の遅延)が高くなるので、大容量のストレージも必須です」
ジェイコブ・アセット・マネジメントは現在、株式ファンド3本と上場投資信託(ETF)1本を運用しており、強気相場やハイテク株の好調期には滅法強いものの、逆にそれ以外の時期の運用成績は芳しくなく、ある意味でメリハリのある投資戦略で知られる。
ジェイコブ氏によれば、先述の(演算能力の必要など)チョークポイントの解消を支援する企業が今後利益を伸ばしていく。具体的な推奨銘柄としては、クラウドフレア(Cloudflare)とモンゴDB(MongoDB)が挙げられるという。
「当社の保有銘柄で組み込み比率が大きいのはクラウドフレアです。同社はレイテンシーの低減や帯域幅(コスト)を節約するソリューションを提供しています。数多くの有力AI企業がすでに同社のサービスを利用しており、今後もその数は増えていくと思われます」
一方、モンゴDBはAI活用企業が必要とする非構造化データの(NoSQLデータベースによる)管理ソフトウェアを提供する。こちらも機械学習の効率向上に資するソリューションで、チョークポイントの解消に大きな役割を果たす。
【ポイント3】利益を出す企業の見極め
マイケル・ルーカス氏は米資産運用会社トゥルーマーク・インベストメンツ(TrueMark Investments)のCEO。同社は3年前(2020年2月)にローンチした上場投資信託「トゥルーシェアーズ・テクノロジー・AI&ディープラーニングETF(Trueshare Technology , AI & Deeplearning ETF)」向けの助言業務を行う。
同ETFの資産残高は1600万ドル規模、21銘柄から構成される。2023年の年初来リターンは13.61%(2月28日終値)。ルーカス氏はInsiderの取材に対し、「ハイパーグロース」銘柄を狙い、AIの重要分野で圧倒的な覇権を握る企業に投資すると戦略を語っている。
「では、どんなビジネスモデルが、あるいはどんな企業が、AI技術の発展の恩恵を受けるのでしょうか。潜在的に最も大きなアップサイド(上振れ余地)もしくは最も長い繁栄を期待できるのは、AIを高度に使いこなす企業です」
ひとまず一連の有望な銘柄を保有し、競争を抜け出しそうな有力株が出てきたら保有銘柄を入れ替えるというのがルーカス氏の戦略。先述のトゥルーシェアーズETFで、現在最大の構成比率となっているのは、製造業向けにIoT(モノのインターネット)プラットフォームを提供するサムサラ(Samsara)だ。
ルーカス氏の考えでは、AIの将来は消費者向け(B2C)アプリケーションより企業間取引(B2B)向けテクノロジーにかかっている。
例えば、計算科学ソリューションのシュレーディンガー(Schrödinger)や抗体発見プラットフォームのアブセレラ(AbCellera)は、製薬大手向けのビジネスを大きく伸ばす可能性があるという。
【ポイント4】過剰な資金流入
前出フランクリン・ダイナテック・ファンドのモバーグ氏は、エンドマーケット(末端市場)の発掘に重点を置く。AIにはヘルスケアはじめ多様なエンドマーケットが想定されるが、いずれも現時点ではまだ潜在的な市場にとどまっている。
「AIは間違いなく素晴らしいテクロジーなのですが、投資家である私たちとしてはやはりこう問わねばなりません。『どんな活用先がありますか?』『その技術を使ったどんなビジネスモデルが考えられますか?』『どうしたら利益を出せる投資先になりますか?』と。
実際、そのあたりはまだはっきりしていないのです」
現時点で言えるAI分野への賢い投資法としては、まずはビジネスを成功に結び付けられそうな企業が登場するのを待ち、トレンドに乗る前に投資することだとモバーグ氏は強調する。
前出のデータ分析ソリューションBigBear.ai(ビッグベア・ドットエーアイ)のような小さな企業が、足元ですでに大きなリターンを生み出していることを考えると、何を悠長なことを……と思うかもしれないが、AIの真のポテンシャルが開花するのはまだ数年先だとすれば、その間には危機や挫折があることは容易に想定される。
「イノベーションに特化している投資家であっても、今すぐ手を付けるという観点からは、おそらくAIより他の分野に目を向けたほうがいいのかもしれません。AI分野はいままさに急成長を遂げており、総じて言えば流行の真っただ中であり、持ち上げられすぎなのです」(モバーグ氏)
カラモス・インベストメンツのグラント氏も、モバーグ氏と同じようなスタンスだ。
グラント氏は先述のように演算処理能力の面からAIを支えるエヌビディアを推奨銘柄としているものの、AI関連の売上高は同社の手がける全事業のごく一部にすぎない現状で、年初来41%の株価上昇はブームという下駄を履いた結果に他ならないと指摘する。
また、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン(Amazon)などの巨大テック企業は、いずれも今後数年間かけてAI分野に巨額投資を行う計画で、その回収もしくは利益の積み上げは当面後回しと考えている。今日の段階で投資リターンを期待されても困るだろう。
「テクノロジーの変化は、究極的には人間を支えるためのものですが、得てして人間の変化をはるかに上回る速さで起きるという事実を市場は見落としがちです。消費者ひいては商品やサービスを提供する企業の多くに影響が出てくるような変化に至るには10年以上の時間が必要でしょう」(グラント氏)