米労働省が発表した1月の消費者物価指数(CPI)は市場予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが過熱した景気を十分冷やすに至っていないことが判明。株式市場にとってはネガティブなニュースとなった。
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米経済は、連邦準備制度理事会(FRB)の厳格な金融引き締め政策が続く中でも、今のところ底堅く推移している。
FRBの意図したペースでインフレが減速していれば、投資家にとっては今ごろポジティブな展開が眼前に広がっていたはずだ。
ところが、米労働省が発表した直近1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.4%の上昇と、前月からごくわずか低下(12月は6.5%)するにとどまった。そのように底堅い景況がある限り、FRBは利上げを継続して消費者の飽くなき需要に冷や水を浴びせざるを得ない。
最終的にはそれが経済成長の足かせとなり、株価に打撃を与えることになると、資産運用世界大手ブラックロック(BlackRock)は2月21日付のコメンタリーで指摘している。
ブラックロック・インベストメント・インスティテュート(BII)の責任者、ジーン・ボイバン氏の分析はこうだ。
「当社としては、インフレ率が政策目標(の2%)に落ち着く軌道に乗ったとは考えていません。インフレ抑制には景気後退入りが必須と思われます。したがって、堅調な経済活動を示す足元のデータは、あくまでインフレにどう影響を及ぼすかという視点から評価すべきです。
実際の文脈に置き換えれば、経済成長を予感させるポジティブなニュースが相次ぐ現在の状況は、インフレ減速のために金融引き締め政策を通じて成長にブレーキをかける必要があることを意味しています。
そして、それはリスク資産(を保有する投資家)にとってネガティブな状況ということでもあります」
2022年、FRBは政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、4回連続で0.75ポイント引き上げ、ゼロ付近から4.5%とした。過去数十年で最速のペースだ。
この引き締めの効果はまだ十分経済に浸透していないとする見方が多く、FRBもインフレ率を目標の2%まで引き下げるにはさらなる利上げが必要と考えている。その結果、米ウォール街の複数の大手金融機関が、米経済は2023年中に景気後退入りする可能性が高いと予測している。
最近のインフレおよび労働市場の動向、それが株価と景気にもたらすリスクを踏まえ、ブラックロックのボイバン氏らは、今後6~12カ月の投資戦術について「新たな戦略」を立案した。
リターン確保とダウンサイド(市場の下振れ)対策の両方を見据え、具体的に二つの投資を推奨しているのが特徴だ。
低成長期に有効な二つの投資
一つ目は、短期米国債への投資。米国債の利回りはすでに十分高い水準にあり、したがってこれ以上の大幅な値下がりは考えられない上、(金利収入が大きなバッファになるので)リターンも魅力的な水準にあるという。
「(ここからの戦略としては)短期米国債をオーバーウェイトに。利回りの急上昇(2年物米国債の利回りは1年前の1.5%から4.6%に上昇)による投資収入を期待できます。
また、マクロ環境や市場レジームのボラティリティが高まる中、この高利回りを利用して資金を温存する効果も期待できます」(ボイバン氏)
上場投資信託の「バンガード米国短期国債ETF」「シュワブ短期米国国債ETF」は、短期米国債へのエクスポージャーを取る手段として挙げられる。
二つ目に、新興国株への投資。先進国市場の銘柄より新興国市場のそれのほうが来るべき景気後退を織り込んだ値動きをしていることがその理由という。
「新興市場ではリスクが織り込み済みです。新興国の中央銀行による利上げはピークに近づいており、ここ数カ月、米ドルは対新興国通貨で広く軟化傾向です。また、中国経済再開の影響も反映され始めています。
中央銀行による利上げの影響が十分に浸透していない主要先進国の市場とは対照的な上に、(先進国の)企業業績見通しは楽観的にすぎるというのが当社の見解です」
新興国市場の銘柄にエクスポージャーを取る手段としては、「iシェアーズ MSCIエマージング・マーケットETF」「SPDR ポートフォリオ新興国株式ETF」が挙げられる。