メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ創業者兼最高経営責任者(CEO)。
Alex Kantrowitz
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)は2月19日、傘下のインスタグラム(Instagram)およびフェイスブック(Facebook)で新たにアカウントの有料認証サービスを提供すると発表した。
同社にとっては、リードタイムをさほど要することなく収益増を実現する手段になりそうだ。
米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のアナリストチームは2月21日付の顧客向けレポートで、この「メタ・ベリファイド(Meta Verified)」と呼ばれるサービスの課金アカウントが、2023年末もしくは24年初頭までに1200万件程度まで増えると予測している。
すでにオーストラリアとニュージーランドで試験導入が始まっており、月額料金はウェブサイトからの申込みで11.99米ドル、スマートフォンアプリからだと14.99米ドル。
前出バンカメのアナリストによれば、1年間の運用でおよそ17億ドルの売上増が期待され、「相当に利益率の高いビジネスになる」という。
課金認証済みのアカウントには青いチェックマークが付くだけでなく、オーディエンスへのリーチを向上させる優先表示、セキュリティを向上させるプライバシーツール、有人対応のカスタマーサポートなどが提供される。
アカウントを巡るトラブルに悩まされる(もしくはその経験のある)ユーザーからは、これらの機能拡充を要望する声が長いこと上がっていた。
なお、新サービスの導入以前からチェックマークを付与されていたアカウントについては、表示に変更はない。
メタは2022年11月に1万1000人規模、従業員総数の約13%に相当する大量解雇に踏み切り、その後もInsiderが過去記事で報じたように、福利厚生の見直しやオフィス規模の縮小、マネジメント職の重複解消などによるコスト削減を続けている。
また、同社は1月以降、最下位評価とする従業員の割合を15%前後まで広げた厳しい人事考課を進めており、事実上の戦力外勧告を突きつけられた従業員の退職も予想される。
メタ創業者兼最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏は、2021年10月にフェイスブックやインスタグラムを傘下に置く親会社を「メタ・プラットフォームズ」に社名変更。年間100億ドルをメタバース構築に投資すると宣言した。
しかし、翌22年に創業以来初めての売上高減を記録するなど深刻な業績不調を受け、同社は同年通期の決算発表の場で賞与支給総額を引き下げることを発表し、2023年を「効率化の年(the year of efficiency)」と位置づけた。
新サービス導入に好意的な声
ウォール街のアナリストらの見方は基本的にポジティブと言える。前出バンカメのアナリストは次のように指摘する。
「今回発表したメタ・ベリファイドだけでなく、コンテンツやコマースへにもサブスクを導入するなど、時間はかかるもののメタが収益源を多様化させるチャンスはまだ他にもあります」
また、米投資会社バーンスタイン(Bernstein)マネージングディレクター兼アナリストのマーク・シュムリク氏は、メタ・ベリファイドの導入で10億ドル以上の売上高を積み増すことができるなら、同社にとって「非常に大きな意味が出てくる」という。
ただし、実現可能かどうかは何とも言えないところだ。ソーシャルメディア市場では、ツイッター(Twitter)とスナップチャット(Snapchat)がすでにサブスクサービスを展開しているものの、メタのそれと直接比較するのは難しい。
テクノロジー専門ニュースメディアのインフォメーション(The Information、2月6日付)によると、イーロン・マスク氏による買収後に導入されたツイッターのサブスク「ブルー(Blue)」のグローバル契約者数は1月半ば時点で約29万人。認証済みチェックマーク付与とツイート投稿後の編集、長尺動画投稿以外の機能はまだ提供に至っていない。
公称250万人の有料会員を抱える「スナップチャットプラス(Snapchat+)」も、新たな関連プロダクトや機能を優先的に(あるいは独占的に)使える特典が中心で、メタの有料認証とはまた性質の異なるサービスだ。
ザッカーバーグ氏は、成長を続けるアフィリエイト・マーケティングをインスタグラムの収益源に育てようと試行錯誤してきた。
世界のB2Cマーケティング責任者がその有効性を評価して支出を増やすとしており、調査会社Insider Intelligenceによれば、2023年の市場規模は61億ドル超に膨れ上がる(22年推計は50億ドル)と予想される。
「ザッカーバーグ氏は近頃、ソーシャルメディアがより小さなグループやチャットに細分化していくとの持論を披露することがよくあり、そのシナリオにおいて、インスタグラムの役割は一種の放送・配信センターと位置づけられています。
ザッカーバーグ氏はその席から全体を眺めて考えているのでしょう。『ユーザーはウチのプラットフォームを使ってくれている。でも、エンゲージメント指標がトリクルダウン的に細分化していくだけで、アップサイド(上振れ余地)が見えてこないな……』と」
そんなメタはここ数カ月、クリエイターやインフルエンサー向けの新たな機能を立て続けに発表している。
インスタグラムで新たに展開する「ブロードキャストチャンネル(Broadcast Channels)」は、クリエイター側が「ボイスノートを使って最新情報や舞台裏を共有したり、投票を作成してファンからのフィードバックを集めたりする」(ギズモード日本版、2月19日付)ことができる機能。
「通常のフィードとの違いは、視聴者のインタラクションに制限があることが大きな特徴」という(同)。
また、ユーザーからクリエイターへの直接送金を可能にする「ギフト・オン・インスタグラム(Gifts on Instagram)」機能と、クリエイターが独自にサブスクベースのオーディエンスを獲得できるツール「サブスクリプションズ(Subscriptions)」も、2022年末にリリースした。
メタ・プラットフォームズの従来のコアビジネスは広告であり、今後もそうであり続ける可能性が極めて高い。
ただ、前出バーンスタインのシュムリクに言わせれば、メタはインフルエンサーを「収益源として十分に活用してこなかった」面があり、今回のサブスク導入によって、「投稿する側が顧客になる」点が大きいという。
「インスタグラムを主戦場とするクリエイターやインフルエンサーのほとんどがこの新たなサブスクを受け入れるでしょう。そう考えるのが理にかなっています。オーディエンスへのリーチを増やし、レリバンス(関連性のマッチング)の的確性を向上させる本当に有効な機能があるなら、クリエイターはお金を払うものです」