ある研究ではフロリダ近海のマナティーからPFASが検出された。
James R.D. Scott/Getty Images
- 地球上の動物、鳥、魚が永遠の化学物質で汚染されていることが新たに報告された。
- 有機フッ素化合物(PFAS)は、人間に健康上のリスクをもたらすだけでなく、動物にも害を及ぼす。
- 125の査読済み研究論文を当てはめた地図を見ると、地球上の広範囲に生息する野生生物が汚染されていることが分かる。
新しい調査レポートによると、南極大陸を除くすべての大陸で、動物たちが有害な「永遠の科学物質」で汚染されていることが明らかになった。
トラ、ホッキョクグマ、レッサーパンダ、ハタネズミ、海中のプランクトンなどのさまざまな生物が魚を食べたり、水を飲んだり、空気を吸ったりするだけで有機フッ素化合物(PFAS、ピーファス)が体内に蓄積され、危険にさらさる可能性があるという。
PFASは食品の包装や衣類、泡沫消火剤、(以前は)テフロン加工の鍋など非常に多くの製品に含まれている可能性が高い。PFASは耐水性、耐熱性、耐汚染性などに優れてはいるが、環境中で分解されないため、「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれている。
そして、地球上の降雨や土壌には、安全ではないレベルのPFASが含まれる可能性がある。
ワシントン州シアトルで撮影されたレッサーパンダの子ども。中国ではこれらの動物からPFASが検出された。
Elaine Thompson/AP
家庭用化学物質の研究とアドボカシー活動を専門とする非営利団体、環境ワーキンググループ(Environmental Working Group:EWG)が2023年2月22日に発表したレポートによると、PFASが生物に与える影響が広がっているという。
EWGの研究者は、野生動物からPFASを検出したという過去5年間の125の査読済み研究論文を集めた。EWGのシニアサイエンティスト、デビッド・アンドリューズ(David Andrews)によると、研究対象となった動物、鳥、魚からPFASが検出されなかった例はひとつもなかったという。
PFASに汚染された野生生物のいた場所が記録された地図。
Copyright © Environmental Working Group, www.ewg.org. Reproduced with permission.
多くの研究では、消火設備基地や産業施設など、PFASが検出されそうな場所の近隣でテストが行われていた。そして多くの場合、対照群として機能する汚染されていない動物集団を見つけることができなかったとアンドリュースは話している。
「これは本当に世界的な汚染問題だ。PFASはあらゆる場所で野生生物に影響を及ぼしている可能性が高い」と彼はInsiderに語っている。
世界中の野生生物は生息地を失ったり、気候変動や時には密猟と闘っている。この新しい報告では、「永遠の化学物質」による汚染が、多くの種の生存に対し新たな脅威をもたらす可能性を示唆している。
PFASは動物の健康を脅かす可能性がある
北極圏に暮らすホッキョクグマからもPFASが検出された。
Mathieu Belanger/Reuters
動物の健康に対するPFASの影響はまだ十分に研究されてないが、人間場合はいくつかのがん、甲状腺疾患、生殖能力の低下、発達の遅れ、肝臓障害、高コレステロール、免疫反応の低下と関連しているという研究報告がある。
その結果、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、最も悪評の高い PFOA(ペルフルオロオクタンスルホン酸 )とPFOS(ペルフルオロオクタン酸)という2つのPFASを「有害物質」とみなし、飲料水中の存在量を減らすための規則を策定している。
アンドリュースは世界中の動物が人間と同じような健康のリスクに直面することを懸念している。
彼の懸念を示唆する研究もある。ノースカロライナ州で行われたある研究では、PFASの血中濃度が高いワニの免疫力が弱いという兆候を示している。
PTASを多量に含む可能性のあるナマズをワニが飲み込んでいる。
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PFASの危険の度合いを理解するには、さらに多くの研究が必要だ。ラットの研究で人間の健康状態を予測できないように、ワニの研究でホッキョクグマの健康状態を予測することはできない。
「これらの化学物質が、動物にどのような害を及ぼすかに関しては、確かに不確実で、種によってばらつきがありそうだ」とアンドリュースは言う。
「それはこれらの化学物質の独特な側面でもある。身体のさまざまな部分や生態に影響を与え、害を及ぼす可能性がある」
遅々として進まない「永遠の化学物質」からの脱却
ペンシルバニア州ホーシャムで開催されたPFASコミュニティステークホルダーミーティングで、一般市民の意見を聞くアメリカ環境保護庁の職員。
AP Photo/Matt Rourke
アメリカの製造業者は、すでにいくつかのPFASを段階的に廃止しているが、現状では何千種類もあるPFASの多くはまだ使用されている。アンドリュースは、これらのPFASを代替物質に置き換えることを呼びかけている。
しかし今も工業施設はPFASを大気中に放出し、水を垂れ流している。このような排出源を一掃することがより多くの化学物質が環境中に蓄積されることを食い止める鍵になる。
2023年1月、欧州連合(European Union)は1万種類のPFASの製造、販売、使用を禁止する提案を発表した。この提案は現在審議中だ。
アメリカでは、環境保護庁が2023年末までに、法的強制力のある最大汚染限度を含むPFAS に関する国の飲料水規制を発表する予定である。
「このような化学物質への依存から市場全体と国を脱却させるには、規制措置が必要となる」とアンドリュースは話している。