Primakov / Shutterstock.com
メタ(Meta)は2月、インスタグラム(Instagram)でのライブショッピングを3月中に終了すると発表した。この決定は、インスタグラムがアプリ内の「ショップ」タブを削除し、ショッピングに関する取り組みを後退させた直後に行われた。
この動きには、多くの人が首をかしげている。インスタグラムのショッピングに何が起きているのだろうか?
その答えを尋ねるのにうってつけの人物がいる。インスタグラムの元ショッピング・パートナーシップ・マネジャーであるメガーナ・ダール(Meghana Dhar)だ。
2021年までインスタグラムのショッピング・パートナーシップ部門に勤務していたダール。
Courtesy Meghana Dhar
ダールはテック業界で10年にわたるキャリアを築いてきた。イーベイ(eBay)や小売スタートアップのベータ(b8ta)で経験を積んだ後、インスタグラムに転職。ショッピング・パートナーシップ・チームの立ち上げメンバーでもあったという。
インスタグラム在籍時、ダールは同アプリの初期のショッピング機能を担当していた。ブランドのオンボーディングから、人気アーティストのジョン・メイヤー(John Mayer)とランドリー会社ザ・ランドレス(The Laundress)とがコラボしたライブショッピングイベントの開催まで、多岐にわたる実績を挙げた。
「どうもジョン・メイヤーは洗濯が好きみたいなんですよね」とダールは言う。このイベントは、ダールがインスタグラムに在籍していた2017〜2021年の期間でとりわけ高い成果を挙げたライブショッピングだったという。
ダールはその後、インスタグラムからスナップ(Snap)へ転職してグローバルパートナーシップチームの責任者となり、現在はスタートアップ企業のアドバイザーをしている。
Screenshots/Instagram/@
インスタグラムを退職して数年経った今でも、ソーシャルショッピングはダールの心を掴んでいる。
「自分たちがECの未来を変えるんだ、という強い信念をずっと持っていました」
インスタグラム時代をそう振り返るダールは、今もその信念を持ち続けている。
「私はまだ楽観的です。信じられないかもしれませんが、インスタグラムならできると、いまだに強気に考えています」
とはいえ、インスタグラムの戦略上には欠点もある、とダールは手厳しい。いわく、メタはせっかちであり、インスタグラムをスーパーアプリに育て上げることに集中しすぎているというのだ。
以下では、インスタグラムのショッピングがいまだ勝利を収められない理由を、ダールに3つ指摘してもらった。
1. 成果を焦りすぎた
ダールは2017年にインスタグラムに入社したとき、同アプリがショッピング機能に取り組むと知ってワクワクしたという。
インスタグラムは「ディスカバリーコマース」だとダールは言う。要するに、インスタグラムは実用性ではなく、ユーザーが何かに目を留めて商品を購入する気になる(たいていはインフルエンサーに触発されて)という、独特の場を提供する立ち位置にいたわけだ。
「あれほど大きなチャンスがあったのに、焦りからそれを失ってしまいました」(ダール)
2016年以降、インスタグラムはアプリ内の直接購入、ショッパブルポスト、クリエイターグッズの統合など、一連のショッピング機能を開発してきた。
しかし、インスタグラム(およびフェイスブック)のライブショッピングやアフィリエイトマーケティングのように、ショッピング機能を立ち上げては終了するという傾向もあった。
フェイスブックは2021年「Live Shopping Fridays」をローンチした。
Meta
インスタグラムがショッピングを推し進めるなか、PMF(product-market fit:顧客が満足する商品を最適な市場で提供できている状態のこと)がまだない、という大きな問題があった、とダールは言う。インスタグラムのショッピング事業は、消費者とブランド双方のニーズを満たせていなかったのだ、と。
「プラットフォーム側は業者から多くのものを得ていましたが、業者が求めているような成果を出せていませんでした」
しかしそれは、時間をかければ改善できる可能性がある。
「エンジニアが開発し、プロダクト・マネジャーが体系化するというように、進化には時間がかかるものなのです」
2. すべてを目指してしまった
写真からメッセージング、アプリ内ショッピングまで、メタはインスタグラムを次なる「スーパーアプリ」に育てようとしたと、ダールは言う(「スーパーアプリ」という言葉は、中国のウィーチャット〔WeChat〕を指してよく使われる)。
問題はインスタグラムが「あまりにも多くのことを、あまりにも早くやろうとしていた」ことだと、ダールは最近リンクトイン(LinkedIn)に書いている。「そして、それが原因で燃えてしまった」(ダール)のだ、と。
特にインスタグラムの動画製品はやり過ぎだ、とは、インスタグラムのトップであるアダム・モセリ(Adam Mosseri)も過去に認めているところだ。
また、インスタグラムが業界にディスラプションをもたらすようなビジネスをしていないことは、追加された新機能にも表れているとダールは指摘する。
「(メタのような大規模なプラットフォームは)自分たちの業界を破壊するような立ち位置はとらず、興味もありません。新たな機会を探索することよりも、自らのテリトリーを守ることを考えているのです」
3. 経済的な逆風とiOSの変更がイノベーションを停滞させる - これはメタに限った話ではない
経済的な逆風が吹けば、それに対応すべく企業は安定志向になる。加えて、アップルが2021年にiOSのプライバシーポリシーを変更したことで、メタの広告戦略全体に大きな影響が及んだ。この状況では、リスクを冒す余地はほとんどない。
「深刻なのは、インスタグラムとメタがイノベーションから遠ざかり、中核プロダクトに固執して、売上にばかり目が向いていることです。彼らは何から何まで機会を逸してしまっているのです」
折しもマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)はメタバースの野望に多額の投資をしており、それが収益を圧迫してもいる。
ダールいわく、そもそもショッピングは完全に収益だけを目的とした機能だったわけではなく、エンゲージメントを高め、ユーザーをインスタグラムのアプリに留めておくためのものだったという。
こうした問題に直面しているのは、メタだけではない。このままではどの大企業もこの分野を制することができず、だからといってティックトック(TikTok)に賭けるのもためらう、とダールは考えている。ではその代わりはというと、ソーシャルショッピングのスタートアップであるワットノット(Whatnot)やショップショップス(ShopShops)といった「小さなプレイヤー」に可能性を見出している。
それに、ショッピングの規模縮小は、メタにとっては不幸中の幸いかもしれないとダールは付け加える。
「メタの動きが鈍く、何も破壊しないとしても、撤退戦略も悪くないかもしれません」
プロダクトをテストする時間が増え、PMFが向上するまでそれを続ける忍耐力があれば、メタはブランドと買い物客のニーズを満たすショッピング・エコシステムを構築し続けることができるからだ――焦りは禁物だが。
「見方によっては、長期的にはショッピング事業に資するかもしれません」