ロシア軍の侵攻から1年。ウクライナ大使、岸田首相の訪問に期待「日本はとても重要な友人」

アメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

アメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)。

撮影:吉川慧

ロシアがウクライナに侵攻してから1年 —— 。

東京・千代田区の日本外国特派員協会では2月24日、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使、アメリカのラーム・エマニュエル駐日大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使が記者会見した。

コルスンスキー氏は日本の人道支援に感謝の言葉を述べた。また、岸田首相のウクライナ訪問の可能性について「日本はとても重要な国であり、友人でもあるので、ぜひ実現してほしい」と期待を語った。

日本は今年のG7サミット(仏・米・英・独・日・伊・加の主要7カ国及びEU)の議長国でもあり、岸田首相がウクライナの現状を「自分の目で見ることは、とても重要なことだ」とも述べた。

ウクライナ大使「日本はとても重要な友人」—— 岸田首相の訪問を期待

日本外国特派員協会で会見するアメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

日本外国特派員協会で会見するアメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)。

撮影:吉川慧

コルスンスキー氏は「開戦前に何が起こっていたのかを思い出してほしい」と切り出し、ロシアがウクライナとの国境に兵力を集中させながら、「ウクライナを攻撃する意図はまったくない」と表明していたことに言及。

アメリカなどが「ロシアの攻撃が差し迫っている」と警戒していた中、「(ウクライナへの侵略が)起こり得るかどうか、完全に確信が持てなかった。21世紀に人口4000万人の国を攻撃し、その国を乗っ取るなどということは、絶対にあり得ないことだった」と1年前を回顧した。

「朝の5時、ウクライナの上空をミサイルや飛行機が飛び、地上には大規模な部隊。何百、何千ものテントが張られていた。つまり、あれは大規模な全面軍事攻撃だった。彼(プーチン大統領)が“特別軍事作戦”と言ったもの、これこそ本当の戦争の始まりだったのだ」


「ロシア軍は私の両親が住んでいる家から 1キロほど離れた場所で止まった。(ロシア軍がキーウ近郊にまで侵攻した戦争初期は)ウクライナにとって本当に脅威だった。それでもロシアのラブロフ外相は、ウクライナのクレーバ外相と会ったとき“我々はウクライナを攻撃していない”と言っていた」


「(和平交渉の)すべての試みはロシアによって阻止された。なぜなら、彼らにとっての唯一の平和とはウクライナの完全な降伏だからだ」

また、1年前の2月25日、ロシア軍がウクライナに侵攻したことを受けて、コルスンスキー氏とロシアのガルージン大使(当時)が、それぞれ日本外国特派員協会で会見を開いたことにも言及した。

コルスンスキー氏は「皆さんの多くが覚えていると思う。(ロシアはウクライナを攻撃しないと発言していたが)彼は嘘をついた」と非難した。

※編注:ロシアのガルージン駐日大使(当時)は2022年2月25日の会見で、「ウクライナでのことは『(自称)ドネツク人民共和国』『(自称)ルガンスク人民共和国』の住民、ロシア系住民をウクライナ政府の大量虐殺から守るため、プーチン大統領が決めた特別軍事作戦だ」と述べ、「侵攻」ではないという見解を示し、軍事行動を正当化した。

その上で「大量虐殺を西側は無視している」「不幸にもウクライナ政府はナチ化している」とも述べ、プーチン氏の侵攻決定時の演説をなぞるような主張を展開した。

ウクライナやアメリカは、プーチン氏やロシア政府が主張するウクライナによる「大量虐殺」を否定。アメリカ国務省はかねてより、プーチン氏が「ロシア系住民の保護」などを侵略を正当化するための口実にするだろうと指摘。偽旗作戦への注意を呼びかけていた。

アメリカのエマニュエル大使は当時の会見で、ロシアのウクライナ侵攻はプーチン大統領が国際秩序を壊したと批判。プーチン氏の「ウクライナ政府がナチ化」という主張には「彼(ゼレンスキー大統領)はユダヤ人だ」とロシアの主張を批判した。

日本外国特派員協会で会見するアメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

日本外国特派員協会で会見するアメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)。

撮影:吉川慧

コルスンスキー氏はキーウ近郊のブチャなどで市民が虐殺されたことに触れつつ、自らが2022年12月にキーウなどで撮影した写真を紹介。ロシア軍が「意図的にエネルギー、水、病院、大学、学校などインフラ施設を破壊している」と訴えた。

「テレビや新聞など、メディアで(ウクライナで起こっている悲劇を)目にすることは心理的な負担を感じる。だが、現場を近くで見て、現地の人たちと話したり、(ロシア軍が)何をしたかを見ることは、メディアを通じて知ることとはまた違うのだ」


「ウクライナ国内には600万人の避難民がおり、これは第二次世界大戦後で最大の難民危機だ。難民たちはウクライナ東部から多少なりとも安全な西部や中部に移動しなければならなかった」

コルスンスキー氏はウクライナ難民の受け入れなど日本のウクライナ支援に対し、感謝を述べた。

質疑応答では、岸田首相がG7首脳で唯一ウクライナを訪問していないことについて問われると、2月20日にアメリカのバイデン大統領がキーウを訪問したことに言及。

「イタリアやスペインの首相をはじめ、多くの首脳がウクライナを訪問している。安全な方法で(岸田首相はウクライナを)訪問できると確信している。日本はとても重要な国であり、友人でもあるので、ぜひ実現してほしい」と、期待を語った。

また、日本は今年のG7サミット(仏・米・英・独・日・伊・加の主要7カ国及びEU)の議長国でもあり、岸田首相がウクライナの現状を「自分の目で見ることは、とても重要なことだ」とも指摘した。

5月に開催されるG7広島サミットにゼレンスキー大統領が出席する可能性についても、報道陣から質問があった。

コルスンスキー氏は、核兵器の問題などロシアとウクライナの二カ国間にとどまらない課題があると述べ、「ゼレンスキー大統領が参加することは、とても重要なことだと思う」とした。

一方で、日本への渡航は「非常に慎重に考える」「もし招待があれば、日本の当局と徹底的に議論することになる」と述べるにとどめた。

アメリカ大使「彼らは平気で嘘を繰り返す」

日本外国特派員協会で会見するアメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

日本外国特派員協会で会見する様子。左から、アメリカのラーム・エマニュエル大使、ウクライナのセルギー・コルスンスキー大使、EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使(2023年2月24日、日本外国特派員協会)。

撮影:吉川慧

会見に先立つこと数時間前、国連総会ではロシアに対しウクライナから軍を完全に撤退するよう改めて要求する決議案が採択され、141カ国が賛成した。

アメリカのエマニュエル大使はこの決議に触れ、「ラテンアメリカの83%、アフリカ諸国は75%、アジアでは80%」が賛成したと話した。

さらにエマニュエル氏は、2022年2月にロシアがウクライナ東部地域の“独立”を承認したことを受けて、ケニアのキマニ国連大使が「(帝国主義時代の列強によって国境を線引きされた)アフリカの国々の歴史と重なる」として、国連安保理でロシアを非難したスピーチを引用した。

「私たちは、(植民地時代から)受け継いでしまった国境を受け入れた。その上で、アフリカ大陸の政治的、経済的、法的統合を目指すことに同意した。

私たちは、危険なノスタルジアで歴史を振り返るような国をつくるのではなく、まだ多くの国家や民族、誰もが知らなかった偉大な道に期待することを選んだ。

私たちは、アフリカ統一機構と国連憲章のルールに従うことを選んだ。それは国境で満足したからではなく、平和のうちに築かれる、より偉大なものを求めたからだ」

また「NATOの拡大が戦争の理由」など、ロシア側が主張する戦争の大義について「神話」だと非難。「彼らは平気で嘘を繰り返す」「“神話”を調べて、真実にたどり着くことが、私たちの責任であり、皆さんの責任だ」と述べた。

EU臨時代理大使「ヨーロッパや西側だけの問題ではない」

アメリカ大使、ウクライナ大使、EU臨時代理大使の会見には、イギリスのヘレン・スミス臨時代理大使(首席公使)、リトアニアのオーレリウス・ジーカス大使、スウェーデンのペールエリック・ヘーグベリ大使も訪れた。(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

アメリカ大使、ウクライナ大使、EU臨時代理大使の会見には、イギリスのヘレン・スミス臨時代理大使(首席公使)、リトアニアのオーレリウス・ジーカス大使、スウェーデンのペールエリック・ヘーグベリ大使も訪れた。(2023年2月24日、日本外国特派員協会)

撮影:吉川慧

EU(欧州連合)のハイツェ・ジーメルス臨時代理大使は、「私たちに共通する根本的なメッセージは、私たちはウクライナと共にあるということだ」とした上で、以下のように語った。

「ロシアによるウクライナへの違法、無謀、残酷、犯罪的な侵略から1年経った今日、このような記者会見を開かなければならないのは悲しいことだ」

「この侵略は国際法上完全に違法であり、国連憲章の原則を台無しにし、さらに安保理のメンバーによって実行された」

また、国連総会で幾度もロシアの侵略を非難する決議が採択されたことにも触れ、「これは適者生存の問題ではない。私たちの国際的なルールと法律のシステムは、何よりもまず、すべての国が自国の主権を守り、自国の運命を決定し、平和と繁栄の中で自らを築いていく権利のためにある」と述べた。

ジーメルス氏は「EUはこれまでにロシアに対して9つの制裁措置がとっており、現在も新たな制裁措置を予定している。EUと加盟国は合計で500億ユーロを超える軍事、人道、経済援助を提供している」としたで、ロシアのウクライナ侵攻はヨーロッパや西側だけの問題ではないと指摘した。

「これはヨーロッパだけの問題ではない。西側だけの問題でもない。私たち、みながどのような世界に住みたいかということだ。EUは過去75年近くにわたり、平和のためのプロジェクトを立ち上げてきた」


「これは主権国家の自己決定とルール・秩序、国際法の支配に基づくものだ。今のウクライナ人は、そのために闘っていること。これこそ、私たちが彼らを支援し、今後も支援し続ける理由だ」

会見には、イギリスのヘレン・スミス臨時代理大使(首席公使)、リトアニアのオーレリウス・ジーカス大使、スウェーデンのペールエリック・ヘーグベリ大使も訪れた。

▼開戦までの経緯と開戦直後のタイムラインはこちら

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