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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
相談者は女子大学生。「女性活躍推進」が叫ばれ、女性を積極採用する企業が増えている現状に対し、複雑な気持ちを抱えているそうです。
Aさん
大学生です。付き合っている同級生の彼とは同じ就職先を志望しています。その会社は少し前に「女性の雇用を増やす」と宣言していたのですが、先日彼が酔っ払った時に、もしも自分(彼)じゃなくて私が内定をもらったらモヤモヤする、と言われました。
もともと女性の割合が少なすぎるんだから女性が優先的に採用されるのは当然でしょ、とその時は思ったのですが、よく考えてみたら、その会社にすでに在籍しているベテラン男性に「男性枠」を占められていたら、これから入ってくる若い世代の男性こそ割を食ってしまいますよね。女性を優先的に雇用する企業について、どう考えを整理したらいいのでしょうか。
(Aさん/20代前半/女性/学生)
Aさんが彼氏さんに対して申し訳ない気持ちを抱く必要はまったくありません。
彼氏さんが「女性が得していて男性は損だ。不公平だ」と捉えているとしたら、それは考え違いであることを、まずお伝えしておきましょう。
これまでは、立場が逆でした。女性が損をする立場が長く続き、近年ようやくその不公平が正されつつあるのです。
政府が「女性活躍推進」を打ち出す何年も前、就職先として人気が高い大手企業の経営層の方が、こんなことを仰っていました。
「新卒採用の選考の際、応募学生を優秀な順に並べると、上位8割が女性なんだ。でも女性ばかり採用したら組織のバランスが崩れるから、結果的には男女半々の割合に調整して採用するんだよ」
これはその企業に限った話ではなく、多くの企業から同じような声を聞きました。新卒採用においては、女子学生のほうが高く評価される傾向が強かったのです。
これはつまり、本来なら採用されるべき優秀な女性が落とされ、その枠に「下駄を履かせてもらった」男性が採用されていたということですね。
採用の男女比は、いびつな状態から健全化している
もちろん、長年にわたり男性中心・男性優先の採用が根付いていた企業も多数あります。
しかし近年、世界的に「ダイバーシティ(多様性)」が重視されるようになりました。
加えて、労働人口が減少していく日本においては、中長期的に女性の労働力を活かしていかなければ衰退を免れない状況に直面しています。
そこで、これまで男性中心の組織を築いてきた企業も、慌てて「活躍する女性のロールモデル」を生み出すべく採用を強化し、ダイバーシティの風土へ転換していこうと動き出しているのです。
ですから、Aさんの彼氏さんは「女性というだけで採用枠が増えるなんてずるい」と思っているかもしれませんが、もともと割を食っていたのは女性。それが是正されて健全な状態になりつつあるのが今の状況です。
つまり、「10年前の新卒男性」と比べると不利になっているのは事実ですが、女性に対して不利だと思うのはお門違いですよね。
それに、女性の採用に注力している企業も、結果的には男女半々の採用に落ち着いているケースが多いですよ。
やはり女性は「出産・育児」というライフイベントを迎える時期に制約がかかりますし、女性に多いと言われる「インポスターシンドローム」を懸念する人事担当者も少なくありません。
インポスターシンドロームとは自分を過小評価する心理傾向のことで、これにより管理職昇進を受け入れない女性も少なくないようです。
こうしたことから、女性中心の組織になると、それはそれでマネジメントが機能しなくなるリスクが課題視され、男女のバランスをとった採用・組織編成に決着していることが多いのです。
「ベテラン男性」と席を取り合うことはない
Aさんが考えていることで、もう一つ実情と異なるポイントがあります。
「その会社にすでに在籍しているベテラン男性に『男性枠』を占められていたら、これから入ってくる若い世代の男性こそ割を食ってしまいますよね」
こう仰っていますが、そんなことはありません。むしろ逆。ベテラン男性は社内で居場所を失いつつあります。
大手メーカーに勤務する私の知人男性は、「部長以上に昇進するのは女性ばかり。女性でなければ昇進できないんじゃないかと思う」と嘆いていました。
実際、大手企業では管理職に占める女性比率の向上を目指しているため、マネジメント層にも女性が増えています。
大手企業が、業績好調にもかかわらず早期退職者を募集し、リストラを進めているというニュースを見たことがあるのではないでしょうか。
これらの企業は、中長期視点で若手人材の育成に力を入れたいと考えているのです。優秀な男子学生ならベテラン男性社員の割を食うことはないはずですし、そんな状態に陥っているとしたら、その企業に未来はないでしょう。
本当に「男性が不利」な企業なら、働く価値がある?
さて、採用選考において「女性が有利で男性は損をする」という彼氏さんの言い分が当たっているケースもあることをお伝えしておきましょう。
それは、世間に対する体裁を整えるため、表面的に「女性活躍推進」を打ち出している企業を選んでしまった場合です。
こうした企業は、「とにかく女性の採用数さえ増やしておけばいい」と、正当な評価をせずに選考を行う可能性があります。これでは確かに男性応募者は不利になるでしょう。
Aさん、もし彼氏さんがモヤモヤし続けているようであれば、こう問いかけてみてはいかがでしょうか。
「能力に関係なく、適正な評価もせず、『女性だから採用する』という考え方の企業であなたは働きたいと思う? そんな会社に落とされたからといって、悔しいと思う?」
経営陣が本気で「女性活躍推進」「ダイバーシティ推進」に取り組んでいる企業は、性別にかかわらず1人ひとりの人材を適正評価し、その能力を最大限に活かし伸ばそうと努力しています。
ダイバーシティの風土を実現してこそ、強い組織が築けると考え、経営戦略の重要課題として取り組んでいるのです。
そのような企業のほうが当然ながら成長力もあり、働きがいを感じられると思います。
では、社会人経験がない学生さんが、どのように「本物の」女性活躍推進企業を見極めればいいのでしょうか。
ホームページなどで女性活躍を謳っていても実態が伴っていなかったり、仕事と育児の両立支援制度が設けられていても実際には使われていなかったりする企業もあります。
てっとり早く情報収集ができるのが、厚生労働省が開設した「女性の活躍推進企業データベース」のサイトです。女性活躍推進に取り組む企業について、さまざまな指標(育休取得率、管理職女性比率、男女の賃金差異など)のデータや施策事例が公開されています。
また、「フルフレックス」「リモートワーク」などの制度を自由度高く活用できる企業、つまり柔軟な働き方ができる企業は、多様な人材を活かそうとする意識が高いと考えられます。
なお、欧州に駐在した経歴がある経営者は、女性の活躍が当たり前の環境を経験してきているため、女性の能力や可能性を信じて積極登用する傾向が見られます。
最近は経営者や社員のSNSなどからも、企業の「リアルな姿」をつかむことができます。
Aさんも彼氏さんも、性別に関係なく、自身の強みを活かして成長できる環境・風土があるかどうかに注目して企業を選んでみてはいかがでしょうか。
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※本連載の第98回は、3月13日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。