2023年1月3日、電話で話すロシアのプーチン大統領(モスクワで撮影)。
MIKHAIL KLIMENTYEV/SPUTNIK/AFP via Getty Images
2022年、ロシアがウクライナ侵攻を開始したとき、グーグル(Google)と主要ブランドは、ロシア政府のプロパガンダを促進するサイトに広告を表示した。偽情報掲載メディアから広告を守るツールを広告主向けに販売するニュースガード(NewsGuard)の調査によると、侵攻から1年を迎え、大手ブランドの広告から利益を得るこうしたサイトの数は、2022年の27件から2023年は88件へ、3倍に増えたという。
また同調査によれば、グーグル広告を表示するサイトの数は、2022年の18件から2023年には42件と、2倍以上に増えた。ここから明らかなのは、ネット上には偽情報がこれほどはびこっているにもかかわらず、広告業界はその隣に広告を配置しないようにすることがまだ完全にはできていないということだ。
Insiderが複数のブラウザとデバイスを使って確認したところ、プラウダ(Pravda.ru)、ゼロヘッジ(Zero Hedge)、DCニュース(DC News)など偽情報を助長するサイト上に、TGIフライデーズ(TGI Friday's)、エクスペディア(Expedia)、ウェイフェア(Wayfair)、アイベックス(Ibex)などのブランド広告が、グーグルを通して表示されていることが判明した。
また、グーグル以外のクリテオ(Criteo)、トレードデスク(The Trade Desk)といったアドテク企業が、クリプシュ(Klipsch)、カーニバル(Carnival)など大手ブランドの広告を表示させていることも確認した。
グーグルは以下のような公式コメントを公表した。
「過去1年間、当社の各チームはウクライナの破壊的な戦争に対して、迅速な行動をとってきました。例えば当社のプラットフォーム全体で、ロシアの国営メディアの収益化を無効にしたり、センシティブイベント(Sensitive Event)の枠を設定することによって、紛争から利益を得たり、食い物にしようとする膨大な数の広告をブロックしてきました。また、既存のパブリッシャーポリシーの施行範囲も拡大し、戦争を容認するコンテンツから広告を削除しました」
グーグルは、Insiderが有害なコンテンツを表示していると指摘したサイト上で、特定ページへの広告表示を停止したという。また、ウェイフェアも該当する広告を削除したと述べている。
「自社の広告が、有害または不適切なコンテンツと並んで配置されないよう、広告ネットワークには細心の注意を払っています」と、ある企業の広報担当者は語る。
クリテオは、自社の広告が表示されたDCニュースのドメインをすでにブロックしたと話す。それ以外のブランドとトレードデスクについては、本稿掲載時点ではコメントを出していない。
複雑すぎて取り締まれない
しかし、偽情報を含むサイトに広告が表示される問題は広がり続けている。こうしたサイトが、デジタル広告を自動的にオークションでリアルタイムで購入するプログラマティック・バイイング(運用型広告)から利益を得ているためだ。プログラマティック・バイイングの仕組みは複雑かつ専門性が高いため、広告主が広告の表示先を確認するのは難しい。
また、プログラマティック・バイイングの技術では、広告の表示先を追跡できないことがある。広告が合法的なウェブサイトに表示されているとシステムに思い込ませ、実際には偽情報をばらまくサイトに表示させることもある(これは「スプーフィング」と呼ばれる行為だ)。
「あらゆる形態のスプーフィングがより巧妙になっています。スプーフィングは、プログラマティックメディアのサプライチェーンに相当入り込んできています」
そう話すのは、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の元シニア・マーケティング担当者で、現在は自身のコンサルタント会社AJLアドバイザリー(AJL Advisory)を率いるルー・パスカリス(Lou Paskalis)だ。
グーグルをはじめとするアドテク企業が探知能力を高めるにつれ、スプーフィングを行う「スプーファー」による偽装も巧妙化してきているため、偽情報の資金源となる広告の問題は今後も拡大を続けるだろうとパスカリスは言う。
「広告主たちは、この大部分に資金を提供してしまっているのが現実です。広告代理店やプログラマティック・バイイングを機能させている取引、場合によってはパブリッシャーそのものについて、正しい問いかけを怠っているからです」
パスカリスは、デジタル広告をとりまくエコシステムがどれほど複雑であっても、広告がどこに表示され、誰が利益を得ているかを正確に把握する責任は広告主にあると言う。
誰がコストを負担するのか
一方、これに異議を唱え、アドテク企業こそ矢面に立つべきだとする意見も業界内にはある。
広告代理店UMのデジタル&ブランドセーフティ最高責任者ジョシュア・ローコック(Joshua Lowcock)は、2022年にInsiderが取材した際、「偽情報やプロパガンダの発信に資金を供給できるようにしたのは、アドテクのエコシステムです。それなのに、これを取り締まるための負担が広告主にかかるのは不公平です」と述べている。
しかし、広告代理店ノウン(Known)のCEOであるカーン・シレソン(Kern Schireson)の指摘によれば、アドテク企業がプラットフォームを流れるメディア支出の何割かを得るという一般的なビジネスモデルでは、偽情報の隣に広告を表示させないようにするのは難しいという。
「ハッカーやスプーファーが原因で、アドテクプラットフォームが収益を失う状況はいくつかありますが、これはスプーファーによってプラットフォームが収益を獲得しているケースです。ですから、問題解決しなくてもよいと思わせる動機も山のようにあるのです」