セールスフォース(Salesforce)創業者兼最高経営責任者(CEO)のマーク・ベニオフ氏。
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セールスフォース(Salesforce)にアクティビスト投資家が群がり、収益力と株主価値の向上を求める攻勢をかけている。
その圧力に抗しきれず、セールスフォースはわずか半年ほど前に発表した利益率目標を見直し、はるかに高い設定を検討している模様だ。Insiderが入手した内部文書のコピーから明らかになった。
文書は、同社内で「V2MOM」と呼ばれる新会計年度向けの戦略計画の草案で、そこには調整後営業利益率(=売上収益から売上原価および一般管理費を控除)を「いますぐ」「30%台以上」に引き上げる計画が盛り込まれていた。
V2MOMは「ビジョン(Vision)」「価値(Values)」「方法(Methods)」「障害(Obstacles)」「測定(Measurements)」の頭文字を取ったもので、セールスフォースが毎年2月からの会計年度開始に際して、社内全体に共有する戦略計画文書の名称だ。
営業利益率30%台以上という極めて意欲的な目標設定は、2022年10月にセールスフォース株の大量取得が判明した米投資助言会社スターボード・バリュー(Starboard Value)の要求に応じるのが目的とみられる。
セールスフォースは2022年9月、2023会計年度に20%と見込む営業利益率を、2026会計年度に25%まで引き上げる目標を発表したものの、「物言う株主」スターボードを納得させるには十分ではなかった。
2022年10月にニューヨークで開催された投資家サミットのプレゼンテーションで、スターボードはセールスフォースに対し2年間で調整後営業利益率を31.7%まで引き上げ、同業他社に近い成長性と収益性を両立させるよう求めた。
スターボードは試算を示し、30%台を実現できた場合にセールスフォースの株価が2.50ドル上昇すると予測した。
上述の投資家サミットでスターボードは、マイクロソフト(Microsoft)の売上高成長率(前会計年度比の伸び率、以下同)10.9%に対し営業利益率46.6%、オラクル(Oracle)の売上高成長率10.7%に対し調整後利益率43.3%など、同業他社の業績指標と比較するチャートを示した上で、「セールスフォースは業界リーダーとしてのポジションに期待される利益率を実現していない」と指摘した。
セールスフォースが同サミット直前の2022年9月時点で示していた2023会計年度の売上高成長率見通しは17%、調整後営業利益率見通しは20.4%だった。
セールスフォースがスターボードの求める30%台まで営業利益率を引き上げるには、さらなるコスト削減が必要になるとアナリストたちは口を揃える。
実際、Insiderが確認したV2MOMの草案には、30%超の目標を達成する期限は明示されていないものの、「いますぐ」「30%台以上」に引き上げる計画を、「緊急」に「コスト構造」を変えることで達成する意向が、以下のように記されている。
「当社にとって、利益率の向上は売上高伸び率の上昇よりも重要な課題です。我々は、取締役会の監督のもと、実行と説明責任に焦点を当て、明確に定義された変革プログラムを実施することによって緊急にコスト構造を変え、確実な営業利益率の改善と持続可能な成長を推進します」
なお、2023年2月に米証券取引委員会(SEC)に提出された書類(13F、機関投資家による保有株式報告書)によれば、スターボードは2022年末時点でセールスフォースの株式302万株(約4億ドル相当)を保有している。
スターボード・バリュー(Starboard Value)のジェフリー・スミスCEO兼最高投資責任者(CIO)。
Reuters
次なる人員削減はあるのか?
セールスフォースのコスト削減努力はすでに始まっている。
2023年1月、同社は従業員総数の10%(約7000人)のレイオフ(一次解雇)と保有する企業不動産の売却を含むリストラ計画を発表。その前の2022年11月にも営業部門を中心に数百人の従業員の削減を実施した模様だ。
それでもアクティビスト投資家からの圧力は高まるばかりだ。
ここ数カ月の間に、スターボード以外にもエリオット・マネジメント(Elliott Management)、バリューアクト(ValueAct)、インクルーシブ・キャピタル(Inclusive Capital)、サード・ポイント・キャピタル(Third Point Capital)が、セールスフォース株取得を明らかにしている。
セールスフォースは上記の人員整理計画に基づき数千人の従業員に解雇を通知したものの、予定する10%の従業員全員に通知を完了したかどうかはまだ確認されていない。
一方、同社の内部関係者によると、社内では業績目標達成に対する上からの圧力が高まっており、一部の従業員はすでに解雇された者より少ない額の退職金で会社を去るよう迫られているという。
内情に詳しい少なくとも1人の関係者によれば、セールスフォースは1月時点でさらに10%の追加人員削減が必要かどうか社内検討に着手した模様だ。
同社自体は追加削減計画を明らかにしていないものの、米投資銀行ウィリアム・ブレア(William Blair)は2月24日付の調査レポートで「セールスフォースの営業利益率向上への道は、さらなる人員削減によって切り拓かれるだろう」と予測している。
同レポートには以下のような分析がある。
「現時点でセールスフォースの営業・マーケティング費用は同業他社に比べてはるかに高く、その実に3分の2を人員コストが占めています。
当社の現段階での分析には、2023年1月に発表された以上の人員削減は織り込んでいませんが、仮にさらなる人員削減が実施されれば、同社の利益は構造的に上向く可能性があります」
また、カナダ金融大手カナダロイヤル銀行(RBC)や米資産運用大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のアナリストも、セールスフォースに一段と踏み込んだコスト削減が必要とされていることを指摘。
とりわけ前者は1月26日付の顧客向けレポートで、セールスフォースが2020年1月に277億ドルという巨額で買収した(手続き完了は2021年7月)スラック(Slack)を売却またはスピンオフさせる可能性にまで言及している。
セールスフォースは3月1日に2022会計年度第4四半期(2022年11月〜23年1月)の決算を発表。1株当たり利益、売上高ともに市場予想を大きく上回る数字を叩き出した。
同時に、自社株買い計画の規模拡大に触れた上で、大型買収を当面控える方針を発表。さらには2023会計年度について力強い業績見通しまで明らかにし、同社の株価は3月2日に2桁台の急上昇を記録している。
この決算内容にスターボードガ納得したのかどうか、現時点では不明だ。一方で、同じ物言う株主のエリオットは、マネージングパートナーのジェシー・コーン氏が「セールスフォースにはサステナブル(持続可能)なリーダーシッププランが求められています」との声明文をツイッターに投稿している。
セールスフォースとスターボードはいずれも、Insiderからのコメント要請に応じなかった。