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- ウォール街は、アメリカが2023年に景気後退を回避できるかどうかで揺れている。
- アメリカ経済は活況を維持し、景気後退を完全に回避できると言う強気の評論家もいる。
- 今年の経済の行方について、ウォール街の5人の専門家の見解を紹介する。
ウォール街の投資家の間では、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ対策として利上げをしながら、経済をソフトランディングさせることができるかどうかをめぐって意見が分かれている。
昨年来、FRBがインフレ抑制のためにトータル4.5%の積極的な利上げを行った結果、金利は2007年以来の高水準に達し、株式や債券に重くのしかかった。
専門家は、金利の上昇は経済への過度な締め付けとなり、景気後退につながる可能性があると警告している。投資家や評論家は、穏やかな景気後退とインフレの着実な低下(ソフトランディング)を期待する人、より厳しい景気後退(ハードランディング)に備える人、そして「着陸はない」として景気後退することなく活況が続く楽観的なシナリオを支持する人という3つの考え方に分かれている。
2023年のアメリカ経済の行方について、ウォール街の5人の専門家が語っていることを紹介しよう。
JPモルガンCEO、ジェイミー・ダイモン
ジェイミー・ダイモン
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ソフトランディングは可能だが、市場はこの先「恐ろしいこと」に直面すると、JPモルガン(JPMorgan)のジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは考えている。CNBCが2023年2月23日に公開したインタビューで、ダイモンは、力強い労働市場や堅調な個人消費といったポジティブな経済指標は、経済の健全性について限定的な見方しか示していないかもしれないと警告している。
「それがまさに今の状況だが、この先には恐ろしいことが待ち構えているかもしれない。先のことは誰にも分からない。それは普通のことだ」
JPモルガンは穏やかな景気後退が訪れると予測しているが、ダイモンは以前、自身のチームはより厳しい景気後退に備えていると述べていた。彼は2022年の時点で、今後9カ月の間に景気後退が起こり、S&P500が「簡単に」20%も急落する可能性があると警告した。
「シャーク・タンク」の投資家、ケビン・オレアリー
ケビン・オレアリー
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「シャーク・タンク」(アメリカ版「マネーの虎」)の投資家、ケビン・オレアリー(Kevin O'Leary)は2023年の市場について楽観的な見方を崩さず、ソフトランディングの可能性を支持している。
インフレ率は依然として高いものの、労働市場は力強い。1月のアメリカの求人数は51万7000人と、エコノミストの予想のほぼ2倍という驚異的な数字を記録し、個人消費も依然として堅調であるとオレアリーは述べている。
「不可能だと言われ続けてきたこと、つまりソフトランディングが実現するかもしれない。これは私にとって、今年のリターンは8%、つまりキャピタルゲインはおそらく6%で配当利回りは2%ということになる。過去最高の年とは言えないものの、これが今後20%調整されることはないだろう」と、2月22日に行われたFox Businessのインタビューで語っている。
投資家は、FRBがあと2回利上げをすると見込んでいるため、ここ数週間、株価は低迷している。しかし、市場は現在「それに応じて修正」していることから、逆風は今や完全に織り込み済みであることを示唆していると、オレアリーは述べた。
ペンシルベニア大学ウォートン校教授、ジェレミー・シーゲル
ジェレミー・シーゲル
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トップエコノミストでペンシルベニア大学ウォートン校教授のジェレミー・シーゲル(Jeremy Siegel)は、投資家に対してインフレ率の高さに「イライラをぶつける」のをやめるように説き、経済が好調を維持している以上、FRBが景気の後退や減速を回避できる可能性があると述べた。
シーゲルはCNBCとの2月14日のインタビューで「4週間前よりも経済状況は確かによくなっている」とする一方、公式統計ではインフレが誇張されている可能性があると付け加えた。1月の消費者物価指数(CPI)では前年比6.4%上昇したが、住宅価格の上昇といったCPIの主要な要素は、公式の統計には遅れて反映されることがあると彼は言う。一方、より新しい指標では、住宅価格は2022年の最高値から急落している。
そしてこれまでのFRBの引き締め策に耐えてきた強い労働市場を考慮すると、ソフトランディングやハードランディングよりも、「着陸しない」シナリオの可能性の方が高いとシーゲルは述べた。
経済学者、デイビッド・ローゼンバーグ
デイビッド・ローゼンバーグ
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経済学者でRosenberg Research & Associatesの創業者兼プレジデントであるデイビッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)は、CNBCとの2月17日のインタビューで、アメリカが成長を続け、景気の後退や減速を回避できるという考えは「おとぎ話」だとし、「着陸しない」シナリオを望む投資家の期待を否定した。
そして、景気後退の兆候を示すサインについて説明した。例えば、アメリカ国債の2年債と10年債のイールドカーブ(利回り曲線)は、過去40年間で最も激しい「逆イールド」となっている。これは、景気後退が近づいていることを示す、歴史的に信頼できる指標だ。
第4四半期のGDPはエコノミストの予想を上回ったものの、経済活動指数は前月比でわずかにマイナスとなり、アメリカ経済がすでに減速していることを示唆しているとローゼンバーグは言う。
「FRBの引き締めサイクルが最も厳しく、1981年以来最も激しい逆イールドになっている状況下で、経済が何か切り札を持っているとは思えない。我々はまだ利上げショックの負担となる側面を見ていないだけだ」
ダブルラインCEO、ジェフリー・ガンドラック
ジェフリー・ガンドラック
REUTERS/Brendan McDermid
「債権王」として知られるダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック(Jeffrey Gundlach)CEOは、アメリカ経済は景気後退が向かっており、その深刻さに関わらず、投資家は備える必要があると警告した。
「景気後退に突入する以上、ある程度の防御策は必要だ。にわか雨だろうが豪雨だろうが関係ない。どちらの場合にも傘が必要だ」と2月23日に公開されたヤフー・ファイナンスのインタビューで述べている。
ガンドラックは、FRBによる引き締め策にもかかわらず、インフレは頑固に居座り続けるだろうと述べ、「逆イールド」を「今後の景気を示す最高の指標」だと指摘した。
FRBは、労働市場が軟化するまで利上げを行うつもりだと述べており、失業率の目標値を4.6%としている。これは現在の失業率より1ポイントほど高い。0.5ポイント以上の引き上げは、景気後退なしに達成されたことがないとガンドラックは警告した。