手の届く価格の育児サービスが、アメリカ経済に数十億ドルを注ぎ込むかもしれない。
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- アメリカ商務省が半導体プロジェクトによる資金提供のガイドラインを発表した。
- 390億ドルの資金を得ようとする企業は、労働者らの子どもが保育サービスを受けられることを示さなければならない。
- バイデン政権が、法案にこの条件を滑り込ませた。
バイデン政権が「CHIPS法」に基づいて拠出している半導体関連資金390億ドル(約5兆3140億円)の一部を手に入れたいのであれば、企業は従業員に保育サービスを提供しなければならない。
2023年2月28日、アメリカ商務省(Department of Commerce)は、CHIPS法に基づく資金援助を希望する企業のための申請ガイドラインを発表した。企業に向けた要件は、米民主党がこうした事項に関する包括的な法案を可決していないにも関わらず、バイデン政権の最優先事項である保育と公平性が大規模な投資にどのように反映されるかを示している。
アメリカの半導体産業への投資促進を目的とした「CHIPS法」に基づくプロジェクトに、1億5000万ドル(約204億円)以上の直接資金援助を申請する企業は、施設建設に携わる労働者とその施設で働く労働者が保育サービスを受けられる計画を提示しなければならない。現在、アメリカのほぼ全域で育児サービスは手が届きにくいものになっている。
このガイドラインでは、保育が「低中所得世帯にも手の届く範囲にある」こと、「労働者のニーズに合った時間帯に」便利な場所で、「労働者が育児に関する予期せぬことで仕事を休む必要がない」こと、そして「家族が信頼できる安全で健康的な環境」であることを定めており、保育料も手頃で労働者が利用しやすいものであることを計画で示す必要がある。
商務省は保育サービスが万能の解決策ではないことを認めているが、保育時間延長の必要性や、需要と供給の問題にどのように対処するかなどを計画に盛り込むべきだとしている。
「労働力を拡大しない限り、CHIPSは成功しない。手頃な価格の保育サービスがなければ不可能だ」とジーナ・レモンド(Gina Raimondo)商務長官はツイッター(Twitter)に投稿した。
「そのため、資金援助を受ける企業には、労働者に手頃な価格の保育サービスを提供する計画を説明するように求めている」
これは、バイデン政権が自分たちの発言力のある分野に、立法上の優先事項を滑り込ませた例だ。有給休暇の保障とともに、保育サービスを安く、利用しやすくするという連邦政府の計画は、民主党保守派によって妨げられてきたが、CHIPSの配分に盛り込まれた条項は、より多くの企業が独自に保育サービスを提供することを選択するきっかけになる可能性がある。
また、資金配分された地域の他のプロジェクトや企業が、労働者を獲得するために独自の保育サービスを提供しなければならない可能性があることも意味するかもしれない。Insiderが報じているように、低価格の保育サービスの提供は、厳しい労働市場において、企業が若い労働者を惹きつけるための確かな方法のひとつだ。今年も50万人以上の労働力が必要とされる建設業界では、労働力不足が依然として続いており、連邦政府のこのプロジェクトで保育サービスが保証されれば、低迷している労働者を呼び込むのに役立つだろう。
「女性は、安定した手頃な価格の保育サービスがなければ、信頼され、利益を生み出す従業員になれないと分かっているため、求人に答えることができない」とレモンド長官は以前Insiderに話している。
「だから彼女たちはこれらの仕事に応募しないのだ」
また、このプロジェクトの下で働く労働者には、一定以上の賃金(prevailing wage)が支払わなければならない。これによって、企業は低額で入札に参加することなく、彼らが働くかもしれない他のプロジェクトと同等の給与を維持することができる。
また、このガイドラインでは、企業が自社の価値を高めるために自社株を買う際、CHIPSからの資金を使うことができないと定めている。こうした行為は企業が給料や従業員のために補助金を使わず、自社の市場価値を優先するのもだとしばしば批判されている。バイデン政権も同じように懐疑的な見方をしているようで、ガイドラインでは審査の一環として、申請者が自社株買いを中止するか制限するかを重視するとしている。