2023年1月、ニューヨークのリドビーチに横たわるザトウクジラのオスの死体。
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- ここ数カ月で、アメリカ東海岸で23頭のクジラが死体となって打ち上げられた。
- クジラが貨物船の航路に入り込んでしまうのは、気候変動が一因だと科学者は考えている。
- オンラインショッピングの急増により、貨物船はかつてないほど大型化し、数も多くなっている。
我々のオンラインショッピング中毒が、最近のクジラの死の急増の一因になっていると、ニューヨーク・タイムズ(NYT)が報じている。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)がNYTに提供したデータによると、2022年12月初旬以来、東海岸で23頭のクジラの死体が打ち上げられた。クジラの死因は、環境と人間による干渉の両方が複合的に作用した結果だという。
NOAAは2016年から大西洋岸のザトウクジラの個体群の「異常死亡現象」を追跡している。最近になってミンククジラや、絶滅の危機にあるタイセイヨウセミクジラも含むクジラの死亡が急増しており、1月に行われたNYTの記者との電話取材で、NOAAはその危機について訴えた。
NOAAの広報部長ローレン・ガッチェス(Lauren Gaches)は、クジラの死体打ち上げ数の増加は気候変動が一因であると述べた。海洋温暖化によってクジラのエサとなる魚が岸に寄ってきているからだ。
「さまざまな海洋生物の個体群が、より条件のよい場所に移動することで適応しているのが観察されている」とガッチェスは言う。
「獲物の分布が変わると、それに依存する大型の海洋生物にも影響が及ぶ。一部のクジラの生息地は海岸に近づいていることから、人間との関わりが増加する可能性もある」
これは、クジラが獲物を探しながら貨物船の航路に入り込むことを意味する。しかも貨物船は過去3年間で大型化し、数も増えているのだ。
世界中のクジラにとって、船との衝突は致命傷になりうる
パンデミックの間にオンラインショッピングがかつてないほど増加したことに伴い、海運も急増した。
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パンデミック時に始まったオンラインショッピングの急増により、商品を積んで大西洋を渡り、混雑するニューヨーク・ニュージャージー港に出入りする貨物船が増加した。NYTによると、これらの貨物船は、より多くのコンテナを運ぶために以前よりも大型化しており、渋滞を避けようと新たな航路をとっているという。
ニューヨーク・ニュージャージー港湾局によると、2022年の物流量は2019年の27%増となった。また、空になったコンテナを回収するための船も行き来するようになり、東海岸の交通量が増加したという。
迫ってくる船から逃れるための時間的余裕をクジラが持てるよう、NOAAは船の速度制限を提案しているが、クジラが常に獲物を追いかけるという事実は変わらない。
ニューヨークに拠点を置く調査団体Gotham Whaleのエグゼクティブディレクターであるポール・シースウェルダ(Paul Sieswerda)は「クジラがこの航路にいるときは、衝突がないことを祈るしかない」とNYTに語っている。
クジラは、船に衝突したときの外傷で内臓を傷つけたり、プロペラとの接触で大きな傷を負ったりすることがある。USA Todayが報じたところによると、2月に大西洋岸に打ち上げられた2頭のクジラは、船舶との衝突が死因になったことがわかった。
船舶がクジラの個体数に悪影響を与えていると専門家が警鐘を鳴らすのは、今回が初めてではない。1年前から、科学者たちがスリランカ沖に生息する絶滅危惧種のシロナガスクジラを保護するために、貨物船の航路変更を呼び掛けている。世界最大の海運会社であるMediterranean Shipping Companyはこの要請に応じた。他の企業もこれに追随すれば、船舶への衝突を95%減らすことができると、当時、動物保護団体が述べていた。