コリーン・フーバーの本は、TikTokのおかげで人気が急上昇し、2022年、売上は661%アップした。
LM Otero / AP/ Simon & Schuster
ティックトック(TikTok)は、音楽、接客、レストランなど、あらゆる業界に革命を起こしているが、特に出版業界には大きな影響を与えている。
「book」と「TikTok」を組み合わせたハッシュタグ「#BookTok」を中心に、熱心な読者のコミュニティが成長し、2023年2月17日時点で1100億回の再生回数を記録している。
Insiderの取材に応じた出版社は、2021年が業界にとってこの20年近くで最も成功した年になった主な要因として、BookTok現象を挙げている。
アメリカのバーンズ&ノーブル(Barnes & Noble)とイギリスのウォーターストーンズ(Waterstones)という書店チェーンのCEOを務めるジェームズ・ダーント(James Daunt)は2022年初め、Insiderの取材対して「私のキャリアの中の何もかもを超える巨大な現象だ」と語っている。
そして今回、アメリカで紙の書籍の売上追跡最大手のNPD BookScanによる新しいデータで、BookTokが2022年も業界にとって有益な存在であったことが明らかになった。
以下、4つの重要なポイントを紹介しよう。
1. 2022年の書籍売上は微減、しかしBookTokの地位向上は続く
2022年は、NPD BookScanがデータをとり始めた2004年以降、アメリカにおける書籍の売上高が2番目に大きい年となった。売上は2021年比5.8%減で、販売部数は前年の8億2800万部に対し、7億8000万部だった。
最も伸びたカテゴリーは大人向けの小説で、14.8%の売上増だった。
NPDの出版業界アナリストであるクリステン・マクリーン(Kristen McLean)氏は、2021年と同水準の売上を上げることは難しかったと述べた。
「2022年の落ち込みは、エベレストに登った後のようなものです」と彼女は言った。
「下降する以外の道はありませんでした。ピークからは下降しましたが、2019年よりはまだ上です。エベレストに例えれば、我々は最初のベースキャンプに戻っただけで、谷に落ち込んだわけではないのです」
NPDは「BookTokで紹介された著者」が書いた本の売上が2021年と比較して66%増加したと述べている。NPDのBookTok著者リストには、「TikTokのBookTokチャンネルで大きく紹介された」100人以上の作家が含まれている。
この2つのグラフは、BookTokが数年間でどれだけ成長したか、そして2022年にどの著者が売上を伸ばしたかを示している。
NPD BookScan
2. この現象を体現するコリーン・フーバー
2022年の出版業界の最大のスターは、小説『It Ends With Us』がニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト・フィクション部門で86週にわたって首位を獲得した作家のコリーン・フーバー(Colleen Hoover)氏だ。
フーバー氏の小説は2021年に188万部を売り上げたが、2022年には実に661%増となる1430万部の売り上げを記録した。
「これは間違いなくBookTokの大きな後押しがあったからです。加えて書店が販売促進をしたことで、BookTokからの読者ではない、まったく別の読者層も付きました。おかげで彼女は、ベストセラー作家の上位に入るような知名度にまで飛躍したのです」(マクリーン氏)
他の「BookTok作家」には『The Summer I Turned Pretty』3部作(Amazon Prime Videoでドラマ化された)のジェニー・ハン(Jenny Han)氏、『The Seven Husbands of Evelyn Hugo』や 『Daisy Jones and the Six』 で知られる テイラー・ジェンキンス・リード(Taylor Jenkins Reid)氏がいる。
3. BookTokは、新刊ではなく既刊本の売上増に寄与している
既刊(刊行から1年以上経過した書籍)の売上は、20年前から順調に伸びている。
2022年に販売された本のうち、新刊は30%に過ぎず、70%が既刊本だった。2021年の68%からさらに上昇している。
「既刊本の売上が伸びたのは、大人向けの小説の強力な起爆剤であるBookTokで紹介された本の多くが既刊本だったことも一因です」(マクリーン氏)
マクリーン氏は、この分野の成長を牽引する既刊本の最も顕著な例として、フーバー氏の『It Ends With Us』を挙げている。
4. BookTokのパワーは小説にとどまらない
BookTokで成功を収めているのは、フーバー氏やジェンキンス・リード氏のようなフィクション作家だけではない。
マクリーン氏は、イギリスに拠点を置く出版社、ウェルベック(Welbeck)の例を挙げている。ウェルベックは音楽からファッションまで幅広いテーマを扱ったノンフィクションの『Little Book』シリーズで知られる。TikTokerは、ウェルベックの本に興奮し、それについてのビデオを撮影し、2022年12月の売上を前年同月比で96%成長させた。
一般的なノンフィクションの売上は減少しているにもかかわらず、ビジネスや経済、あるいは心理学やメンタルヘルスといったノンフィクションのカテゴリーも伸びているという。
「BookTokで起きていることは、言葉で表しきれません」(マクリーン氏)