セールスフォース共同創業者のマーク・ベニオフ氏(左)とテスラおよびツイッター最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏。
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2022年10月末にツイッター(Twitter)買収を完了させたイーロン・マスク氏は、間髪おかずにコスト削減や人員整理、オフィス閉鎖に着手し、新たなサブスクリプション(月額課金)サービスの導入など収入源の多様化を図るなど、抜本的な社内改革に取り組んできた。
そして、セールスフォース(Salesforce)のマーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)はじめ、テクノロジー業界の経営トップの多くがその成り行きを固唾(かたず)を呑んで見守っている。
ベニオフ氏は3月2日にInsiderのインタビューに応じ、シリコンバレーの全ての経営者たちがイーロン・マスク氏の矢継ぎ早の経営判断を注視しており、「自分の中に潜むイーロン(と同じ一面)を解き放つ必要があるのかどうか、自らに問いかけているところなのです」と語った。
ベニオフ氏はこう続けた。
「どんな役職であれ、企業の経営に関与する全ての人間にとってこの(自身のイーロンを解き放つべきかという)問いは、自らの存在の根幹に関わるものです。
イーロンのやり方を見たら、『うわ、なんて型破りの経営スタイルなんだ』という率直な反応が普通だとは思いますが、それでもいま私が言ったように、(経営者として)イーロンの判断を過小評価することはできないのです」
ベニオフ氏率いるセールスフォースは、同社株式を保有するスターボード・バリュー(Starboard Value)やエリオット・マネジメント(Elliott Management)など複数のアクティビストいわゆる「物言う投資家」からの要求を受け、コスト削減計画の実施に乗り出したところだ。
すでに始まっている従業員総数の10%相当の人員削減策に加え、Insiderが独自に確認した事業計画の草案によれば、同社は利益率30%超の達成を目指す模様だ。
その実現に向けて、従業員総数に上限を設けて人件費を抑制し、一般管理費および営業マーケティング費を削減、企業不動産の圧縮を進めるという。
セールスフォースは同草案の中で、従業員に対して「徹底的な経費節減」と「自分ごととしての経費支出」を求めつつ、効率よりカルチャーを優先したり、カルチャーを言い訳にして変化を直視しようとしないスタンスを批判し、企業カルチャーへの配慮から改革を停滞させることのないよう指示している。
同社は3月1日に2022会計年度第4四半期(2022年11月〜23年1月)の決算を発表。1株当たり利益、売上高ともに市場予想を大きく上回る数字を叩き出した。同時に、自社株買い計画の規模拡大に触れた上で、大型買収を当面控える方針を明らかにした。
経営効率化を重視するベニオフ氏の新たな戦略が、ひとまずは実を結び始めていると評価できる決算内容と言えるだろう。
「踏み込むしかなかった」
11月末の第3四半期決算発表の席で、ベニオフ氏の後継者とも目されたブレット・テイラー共同CEO(ツイッター元会長)の退任を発表した後、ベニオフ氏は経営の細部への関与を深めたという。
インタビューでベニオフ氏はこんなふうに表現している。
「これまでより一歩深く踏み込んで、業績引き上げを実現するしかなかったのです。そしてその結果が、今日ここでご覧いただいているこの(第4四半期決算の)数字です」
予想を上回る好調な業績と自社株買い計画の拡大、さらには2023会計年度について力強い業績見通しまで発表し、同社の株価は3月2日に2桁台の急上昇を記録した。
とは言え、ベニオフ氏は同社株式を数十億ドル規模で保有するアクティビスト投資家、エリオット・マネジメントの厳しい要求にまだ十分応えられていない。
エリオットのマネージングパートナーで、ツイッター創業者のジャック・ドーシー氏をCEOの座から引きずり下ろした実績で知られるジェシー・コーン氏は、今回の決算内容を受けてなお「セールスフォースにはサステナブル(持続可能)なリーダーシッププランが求められています」との声明文をツイッターに投稿している。
ベニオフ氏は1999年、最高技術責任者(CTO)のパーカー・ハリス氏とともにセールスフォースを共同創業し、以降CEOとして成長を最優先に同社をけん引してきた。それゆえに、従業員や内情に詳しい関係者の一部からは、ベニオフ氏がコスト削減を優先する経営に向いていないことを懸念する声が上がっている。
それに対し、Insiderとのインタビューでベニオフ氏は、リーマンショックに端を発する世界金融危機の起きた2008〜09年、危機的な経済状況のもとでセールスフォースが変革を実現できた経緯を引き合いに出し、苦境を乗り切った実績があることを強調した。
「私たちにはいま若干の調整が求められています。それは、企業カルチャーを丸ごと入れ替えるといったことではありません。ビジネスをうまく回さなくてはならない、ただそれだけのことなのです。
そして、それはもちろんビジネスの問題ではあるのですが、私たちにとっては変化を遂げるための最高のプラットフォームにもなり得るのです」