テスラはまだ手頃な価格のEVを発表していない。
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- 世界は安価なEVを待ち望んでいるが、テスラはまだ実現する準備ができていない。
- イーロン・マスクのEVメーカーはテキサスで「投資家デー」を開催し、そこには安価なEV以外はすべてそろっていた。
- 競争の激化と需要の変動に悩む同社にとって、この欠落は大きなものだ。
テスラ(Tesla)のファンは、この数カ月間、ジェットコースターのような日々を過ごしてきた。だから、イーロン・マスク(Elon Musk)がツイッター(Twitter)への投稿を中断して、待望の安価なEVを発表してくれることを望んでいたとしても、それは許されることだろう。
しかし、3月1日にテキサスで開催された投資家向けイベントでは、何も得ることはできなかった。
テスラのギガファクトリーで行われたマスクら数名の幹部によるプレゼンテーションでは、高価な同社EVの廉価版が前面に押し出されることが期待されていた。
テスラのマスタープラン第3弾の発表と銘打たれたこのイベントは、サイバートラック、ヒートポンプ、オートパイロットの衝突回数、パワートレインの改良といった虚栄心の強いプロジェクトについて4時間も長々と語る場になった。
確かに、これらはとても興味深いものではあるが、安価なEVが依然として存在しないという事実を覆い隠すことはできない。それは、テスラをクリーンエネルギー輸送への世界的な移行をリードする存在にしようとするマスクが探し求めている聖杯のはずだ。
実際、手頃な価格のEVを提供するという約束は、マスクが最初のマスタープランを打ち出した17年前までさかのぼる。競合他社が低価格のEVの開発に力を注いでいる今、テスラには今すぐにそのようなEVが必要だ。
低価格EVの欠落で不可解なことに
テスラが「次世代プラットフォーム」と呼ぶ手頃な価格のEVは、テスラが直面する2つの重要な圧力、すなわち、低価格のクリーンエネルギー車を求める消費者の要望と、ウォール街からの生産増強への期待に応えることができるだろう。
マスクは消費者に向けて、より安価なテスラを提供すると繰り返し述べている。それはクリーンエネルギーへの移行を加速させるだろう。また、投資家にとっても、低価格のEVはテスラを真のグローバルな存在にするものになるだろう。
「テスラを所有したいという人々の欲求は非常に高いが、それを制限するのはテスラに支払う能力だ」と彼はイベントで語った。しかし、安価なEVの詳細が明らかにされなかったことは、テスラの製品を紹介する場であることを考えると不可解だ。
特に高金利とインフレという経済的背景を考えればそうだろう。S&Pの統計によると、2022年のEV販売台数は36%増加したが、テスラの高価格は消費者の購買意欲を減退させる恐れがある。テスラで最も安いモデル3セダンは、依然として4万3000ドルという高価な車だ。
必然的に、イベント後、投資家から一斉にうめき声が聞こえてきた。テスラの株価は、3月1日の時間外取引で5%下落し、2日のニューヨーク市場の通常取引では約6%下落した。
テスラは2月、アメリカとヨーロッパで一部モデルの価格を20%引き下げたが、手頃なエントリー価格のモデルの投入は、安価なEVを市場に投入しようとしている従来の自動車メーカーとの競争で役立つだろう。
勝敗を決めるのは手頃な価格のEVだ
テスラにおけるマスクの右腕、トム・チュー(Tom Zhu)は、テスラは製造のペースを上げて累計400万台になったと発表した。最初の100万台を作るのに12年かかったが、最後の100万台は7カ月で製造したという。規模を拡大すれば、コストを削減することができるだろう。
しかし、2030年までに年間2000万台という生産目標を達成するためには、間違いなく低価格のモデルが必要になる。
テスラのザック・カークホーン(Zach Kirkhorn)CFOは、コスト削減によって効率を高め、この生産目標を達成するために1500億ドルから1750億ドルを投資すると述べた。テスラがメキシコで新しいギガファクトリーを作ると発表したことで、そのための設備が整ったことは間違いない。
とはいえ、テスラにとって時間は刻々と過ぎており、低価格車の不在が続くと、競争が激化して苦しくなるばかりだ。かつて時価総額1兆ドル以上を記録したEVメーカーが、まるで飛ぶ鳥を落とす勢いのハイテク企業のような株価になっているのは、業界を揺るがすような成果を出すという期待があるからだ(しかし、この1年で株価は35%以上下落し、時価総額は約6000億ドルにまで落ち込んでいる)。
iPhoneのようなユビキタスを確立することこそが、この会社の目的であり、そのためには安価な自動車が必要だ。
それまでは、テスラは他のことはすべて後回しにするべきだろう。