イーロン・マスク氏は2022年11月、ツイッターの全従業員に対し、「極度にハードコア」な働き方を受け入れるか、会社を去るか、究極の判断を迫っている。その帰結は…。
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イーロン・マスク氏による買収後の「新生」ツイッター(Twitter)社内は、文字通りカオス状態のようだ。
マスク氏の意向一つで新たなプロジェクトが即座に立ち上がり、唐突に終わる。従業員たちはこの先自分に仕事は回ってくるのか、上司は誰になるのか、日々不安を募らせている。マスク氏直属の幹部たちでさえも、そうした不安から逃れることはできない。
2022年10月下旬の買収から数週間のうちに、ツイッターでは約20人のリーダー人材がマスク氏直属の幹部(本記事で言う「幹部」とは、組織の中心的役割を担う人材を指し、必ずしも経営判断に関与する役職者を意味しない)に据えられた。
匿名を条件に取材に応じた内情に詳しい関係者2人の証言によると、これらのリーダーの中には、マスク氏が別途経営する電気自動車大手テスラ(Tesla)や宇宙開発大手スペースX(SpaceX)、トンネル掘削会社ボーリング・カンパニー(The Boring Company)から引っ張ってきた人材もいる。
ところが、マスク氏を支えるはずのリーダー20人のおよそ半分が、ここ数週間のうちに退社したり、解雇されたりした。
プロダクトマネジメント部門の責任者を務めたエスター・クロフォードのように、マスク氏による買収や大量解雇を当初から支持していた従業員もそこに含まれる。
リードエンジニアのビーナム・レザエイも、マスクが直属の部下に引き立てた一人だったが、ツイッターが運営する主要データセンター3拠点のうち米カリフォルニア州サクラメント拠点を閉鎖するというマスク氏の突然の決断を経て、1月上旬に退職している。
そうやって生まれた直属幹部の欠員を、マスク氏は社外から新しい人材を迎え入れることで(全てではないにせよ)補った。
新たに加わった幹部の一人が、グーグル(Google)傘下のAI開発企業ディープマインド(DeepMind)のシニアリサーチエンジニアを経て、現在ツイッターでエンジニアリング担当シニアディレクターを務めるイゴール・バブシュキンだ。
テクノロジー専門メディアのインフォメーション(The Information、2月27日付)によれば、バブシュキンは2月末にマスク氏とAI関連の新たなプロジェクト(具体的には対話型AI「ChatGPT」のライバル開発や大規模言語モデルに関する取り組み)について対話の機会を持ったものの、新製品の開発計画や彼自身のチーム参画など具体的な話はなかったという。
ソフトウェアエンジニアリング担当シニアディレクターに就任したマニュエル・クロイスも新たに参画した幹部人材で、バブシュキンと同じくディープマインドで働いていた。
マスク氏と彼が経営する会社の熱烈なファンだというユニークな経歴の人物もいる。
ツイッターにHR(人事)アナリストとして入社したジョナ・クリンダーは、普段からマスク氏に関するツイートが多く、マスク氏がフォローする181のツイッターアカウントの一つは彼女のものだ。
クリンダーは2022年、宝石とジュエリー製作に特化したポッドキャスト番組でマスク氏にインタビューしている。
ダニエル・エレバートも、2月にツイッターの収益戦略およびオペレーション担当のマネージャーとして入社したばかりだ。直前まで、動画共有アプリのティックトック(TikTok)のオペレーション分析スペシャリストを務めていた。
内情に詳しい複数の関係者によると、マスク氏はこのほか新たに6人ほどのコンサルタントを迎え入れたが、彼ら彼女らがツイッター社内でいま何をしているのか、マスク氏とどのような関わりがあるのかは分からないという。
なお、ツイッターの社内向け従業員名簿は、マスク氏による買収直後から閲覧できなくなっている。
何をしているかは判然としないものの、新たに採用されたコンサルタントは今後幅広い権限を持つ可能性がある。
米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)出身で、マスク氏のファミリーオフィス(家族含む資産運用を担当する会社)「エクセッション(Excession)」を率いるジャレド・バーチャルは、ツイッターでもリーダーの一人と目されている。
サンフランシスコにあるツイッター本社オフィスに泊まり込んで仕事をすることも多く、現在の肩書きはコンサルタントとなっている模様だ。
ボーリング・カンパニーのスティーブ・デイビス最高経営責任者(CEO)も、ツイッターのコンサルタントを務める。前出のインフォメーション(2022年12月23日付)は、デイビス氏は買収後間もない時期のマスク氏を補佐するため、新生児、産後間もない配偶者とともにツイッター本社オフィスに寝泊まりする日々を過ごしたと報じている。
マスクは2023年末までにツイッターの経営トップを退く意向を示しているが、仮にCEO交代が実現した場合、後任の有力候補の一人がデイビスだと噂される。
Insiderが過去に報じたように、マスク氏はツイッター買収後、自分のいとこや著名ジャーナリストのバリ・ワイスを従業員名簿に加えたり、マスク氏を支持するエンジニアを「インターン」として採用したりといった奇妙な採用を行ってきた。
一方、レイオフ(一時解雇)あるいは解雇、オフィス閉鎖を矢継ぎ早に実施、買収前の従業員総数の4分の3以上を削減して、その数は現在すでに2000人(エンジニアは約500人)を下回っている。それでもなお人員削減の動きが止まる気配はない。
こうしたマスク流の「豪腕」社内改革がどこにたどり着くのかは、現時点ではおそらく誰にも分からない。マスク氏本人が何らかの確信を持っているのかすら不明だ。
2018年に破産危機を迎えていた時期のテスラでマスク氏と働いた経験を持つ複数の従業員たちは、「これほどひどい状態の彼は見たことがない。彼は明らかにストレスを抱えている」と率直な感想を口にする。
また、同社の内情に詳しい別の人物は、しばらく前にInsiderの取材に匿名で応じ、「毎日、これが最後かもしれないと思いながら出社していますが、それでいいと思うしかありません」と語っている。
兎にも角にもいま言えることは、マスク氏は直属の幹部を何人か手放したものの、新たに加わった人材を含めてまだ多くの部下が彼を支えているということだ。
以下は、すでに退社した人物を含め、マスク氏が直属のリーダー人材として重要ポジションに据えた幹部人材の全リストだ。
なお、ツイッターは本稿に関するコメント要請に応じなかった。
【現職の直属幹部】
- TJ アデショラ(TJ Adeshola)/パートナーシップ・ソリューション責任者
- リジー・パルンボ(Lizzie Palumbo)/レベニュー・ファイナンス責任者
- ジャスティン・ローダミルク(Justin Lowdermilk)/インフラ&エンジニアリング・ファイナンス担当
- フェイ・チョウ(Fai Cheung)/コーポレートコントローラー
- キース・コールマン(Keith Coleman)/バイスプレジデント(プロダクト担当)
- マイケル・マクゴニグル(Michael McGonigle)/マーケティング・ファイナンス
- サナズ・モタハリ(Sanaz Motahari)/新製品部門プロジェクトマネジメント
- マーティン・オニール(Martin O'Neill)/調達部門ストラテジックソーシング
- エラ・アーウィン(Ella Irwin)/トラスト&セーフティリード
- ティム・ヒューズ(Tim Hughes)/法務責任者。SpaceXのシニアバイスプレジデント兼務
- クリストファー・スタンリー(Christopher Stanley)/データプライバシー・セキュリティ責任者。SpaceXのプリンシパルセキュリティエンジニア兼務
- ジョシュア・アーセンバック(Joshua Ursenbach)/IT部門責任者。SpaceXのIT部門シニアディレクター兼務。
- ジェーン・バラジャディア(Jehn Balajadia)/チーフ・オブ・スタッフ。ボーリング・カンパニーのオペレーションチーフ兼務
【退社済みの直属幹部】
- クリス・リーディ(Chris Riedy)/クライアントソリューション責任者
- シネアド・マクスウィーニー(Sinéad McSweeney)/公共政策責任者
- ケイティ・マルコット(Katie Marcotte)/HR(人事)責任者
- アリソン・アレン(Allison Allen)/人材採用担当
- ネルソン・アブラムソン(Nelson Abramson)/ソフトウェアエンジニアリング
- エスター・クロフォード(Esther Crawford)/プロジェクトマネジメント、ブルーおよびペイメント担当
- ビーナム・レザエイ(Behnam Rezaei)/ソフトウェアエンジニアリング