米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)によれば、人工知能(AI)が1兆円市場へと成長する日はそう遠くない。
Yuichiro Chino
「現代における最も革新的なテクノロジーの一つ、人工知能(AI)が急速に存在感を増しています。チャットボットや自動運転車、予測分析、不正検知など、AIはすでにビジネスの世界で革命を起こし始めているのです。
より多くの企業がAIの力を活用して業務改善や効率向上、競争力獲得を目指すようになり、AIは今後ビジネスを成功させる上で決定的に重要なけん引役となっていく展開が予想されます」
上記の文章は、米研究団体OpenAI(オープンエーアイ)が2022年11月にリリースして話題沸騰の対話型AI「ChatGPT(チャットジーピーティー)」が作成したものだ。
この大ブレイクの影響で、AI関連の株式銘柄にはお祭り騒ぎと言っていいほどの投資マネーが押し寄せているが、アナリストの中には「AIの急成長フェーズはまだ端緒に就いたばかり」とさらに大きなうねりを予測する向きもある。
米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America、バンカメ)も「AI革命」などと呼ばれる昨今のうねりを本物とみる立場で、投資家はこの流れの中で利益を得られると考えている。
同銀は、グローバルAI市場が今後年平均19%の勢いで成長を遂げ、2026年にはその市場規模が現在から倍増して9000億ドル(約12兆2400億円、1ドル136円換算)に達すると予測する【図表1】。
【図表1】バンク・オブ・アメリカによるグローバルAI市場規模の推移予測。年平均成長率(CAGR)は19%、2026年に9000億ドル。内訳の大半はソフトウェア(濃紺部分)。
Bank of America
バンカメによれば、勃興しつつあるAIブームからは多くの勝者が生まれる。
AIを有効に駆動するには強力な計算処理能力と膨大なデータが必要であり、その文脈では、クラウド分析企業や半導体メーカーがAIの「頭脳」と「腕力・体力」を提供することになる。
一方で、AIに破壊される産業も出てくる。オートメーションやロボティクスが生産現場における作業従事者の仕事を奪ったように、AIはいずれ事務管理など非現業部門労働者の仕事を奪う可能性がある。
ちなみに、バンカメが最も高い消滅リスクを予想するのは、テキスト、画像、動画、音楽を作成するメディア関連の仕事だ。
AIブームの恩恵を受ける20銘柄
バンカメのアナリストは最近、ChatGPTがいわゆる「AIの民主化」を促したと指摘している。言い換えれば、AI自体はかなり前から存在していたが、ChatGPTによってメインストリームに浮上したということで、iPhoneの登場でスマートフォンの普及が進んだのと同じ論理だ。
欧州中東アフリカ地域(EMEA)エクイティリサーチ部門のエリック・ロペス率いるアナリストチームによる2月28日付の顧客向けレポートによれば、AI市場の爆発的成長から最も恩恵を受けるのは20社。
以下で紹介する20銘柄のうち、「中立(ニュートラル)」はアドビ(Adobe)とアップル(Apple)の2社だけで、残る18社は全て「買い(バイ)」の投資判断だ。
アドビ(Adobe)
Markets Insider
[時価総額]1510億ドル[目標株価]400ドル
[ポイント]クリエイティブクラウド(Adobe Creative Cloud)のアプリやサービスをAI機能で強化することでパラダイムシフトを創出できる可能性。
アドバンテスト(Advantest)
Markets Insider
[時価総額]155億ドル[目標株価]1万1500円(東証プライム)
[ポイント]AI向け高速データ処理に不可欠のGPU(画像処理半導体)について、メモリテスタ市場で大きなシェア。
アルチップ・テクノロジーズ(Alchip Technologies)
[時価総額]723億ドル[目標株価]1150台湾ドル
[ポイント]AI向けファブレス半導体チップ設計の需要増、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けも。
アルファベット(Alphabet)
Markets Insider
[時価総額]1兆1600億ドル[目標株価]125ドル
[ポイント]検索、広告、クラウド、自動運転、ヘルスケアなどAI活用の事業領域多数。2016年以降、AIファースト戦略を掲げ機械学習キャパシティへの巨額投資。「グラディエント・ベンチャーズ(Gradient Ventures)」「グーグル・アシスタント・インベストメント・プログラム(Google Assistant Investment Program)」は、AI分野の育成ファンド。
エイピア・グループ(Appier Group)
Markets Insider
[時価総額]1921億ドル[目標株価]2200円(東証プライム)
[ポイント]高度なAI活用マーケティングソリューション。ユーザー獲得、オンサイトコンバージョン、エンゲージメント改善、ユーザー予測の4分野にコア製品。マシンラーニング(ML)・ディープラーニング(DL)がコアコンピデンシー。
アップル(Apple)
Markets Insider
[時価総額]2兆2900億ドル[目標株価]158ドル
[ポイント]iOSのデフォルト検索エンジンにグーグルを採用。(独占的地位を得る)費用としてグーグルから年間200億ドル(2022年、バンカメ試算)の収入あり。ChatGPTの登場でマイクロソフトの検索エンジン「Bing(ビング)」が優位に立ち、今後は状況変化の可能性。
アリスタ・ネットワークス(Arista Networks)
Markets Insider
[時価総額]413億ドル[目標株価]170ドル
[ポイント]データセンターやキャンパス環境に特化したクラウド・ネットワーキング・ソリューション、AIの高負荷ワークロードに求められる処理能力を実現するハイパフォーマンススイッチ。
ASMLホールディング(ASML Holding)
Markets Insider
[時価総額]2443億ドル[目標株価]775ユーロ
[ポイント]アルゴリズム学習用の最先端AIチップ製造に不可欠な極端紫外線(EUV)リソグラフィ(露光)装置の世界最大手メーカー。
バイドゥ(Baidu、百度)
Markets Insider
[時価総額]513億ドル[目標株価]234ドル
[ポイント]中国の検索エンジン最大手。対話型AI「ERNIE Bot(アーニー・ボット、文心一言)」を3月にリリースすると発表。中国の自動車大手などが採用予定。
HOYA(ホーヤ)
Markets Insider
[時価総額]343億ドル[目標株価]1万5400円(東証プライム)
[ポイント]AIチップなど次世代半導体の製造プロセスで使用される極端紫外線(EUV)リソグラフィ対応マスクブランクス(フォトマスク材料の薄膜コート基板)で世界トップシェア。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)
Markets Insider
[時価総額]4495億ドル[目標株価]220ドル
[ポイント]研究用AIスーパーコンピューター構築用途でGPU増強に巨額投資。コンテンツレコメンドに関してユーザーエンゲージメント、ターゲティングをAIで向上させるディスカバリー・エンジンを構築。
マイクロソフト(Microsoft)
Markets Insider
[時価総額]1兆8400億ドル[目標株価]300ドル
[ポイント]自然言語処理AIモデルの構築・管理・収益化を実現する上で不可欠の3要素、すなわち(1)コンピューティング規模(2)データ規模(3)データマネジメント・エンジニアリングに関する専門的知見、を備えた数少ない企業。
ナイス・システムズ(NICE Systems)
Markets Insider
[時価総額]132億ドル[目標株価]285ドル
[ポイント]AI活用で顧客エンゲージメント、規制遵守および金融犯罪ソリューションを提供する世界最大規模のプロバイダー。
エヌビディア(Nvidia)
Markets Insider
[時価総額]5625億ドル[目標株価]275ドル
[ポイント]GPU、ネットワーク、ソフトウェアなどフルスタックのAIソリューションを提供。ジェネレーティブ(生成系)AIをめぐる新たな競争においても独特のポジションを確保。スーパーコンピューター向けGPUでも圧倒的なシェア(2022年にはメタ・プラットフォームズ向けに「NVIDIA A100」最大1万6000基を提供すると発表)。
パランティア(Palantir)
Markets Insider
[時価総額]163億ドル[目標株価]13ドル
[ポイント]AI駆使のデータ解析ソフトウェア市場で独占的な地位。米軍や米中央情報局(CIA)、米同盟国政府を顧客に持つ。
奇安信(Qi An Xin)
Markets Insider
[時価総額]535億ドル[目標株価]92中国元[ポイント]中国のサイバーセキュリティ最大手。2021年の売上高シェアは9.5%。
RELX
Markets Insider
[時価総額]580億ドル[目標株価]35英ポンド
[ポイント]プロフェッショナル・企業顧客向けに情報ベースの分析・意思決定ツールを提供。1万人の技術系従業員、年間16億ドルの技術投資、各セクターに関する深い専門的知見をフル活用。
SAP
Markets Insider
[時価総額]1379億ドル[目標株価]120ユーロ
[ポイント]内部会計・財務・人事・サプライチェーン・製造プロセスから広く収集したデータを活用して顧客企業にインサイトを提供する際、AIを活用。業務・業界別に合わせてカスタマイズもしくは事前にトレーニングされたAIモデルを提供し、顧客企業は簡単にビジネスアプリケーションを機能拡張できる。英調査会社オムディア(Omdia)のAI活用SaaS企業ランキング(2023年)ではアドビ、セールスフォースに続く第3位にランクイン。
シャッターストック(Shutterstock)
Markets Insider
[時価総額]27億ドル[目標株価]88ドル
[ポイント]ジェネレーティブ(生成系)AIが2023年期待の成長分野。1月末にAI画像生成プラットフォームのローンチを発表。2022年10月にChatGPTの開発元OpenAI(オープンエーアイ)と提携、翌11月には韓国LGグループのLG AIリサーチとも提携。さらにメタ・プラットフォームズとは1月に従来の提携関係を拡大すると発表。
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)
Markets Insider
[時価総額]4378億ドル[目標株価]610新台湾ドル
[ポイント]最先端の半導体設計技術を擁するAI分野のイネーブラー型(不可欠のインフラ基盤を提供する)企業。AIチップを含むファウンドリ(受託生産)世界最大手。7nm(ナノメートル)以下プロセスについて、技術力、生産能力、歩留まり、信頼性の高い設計サポートなどいずれも卓越。