大手テック企業やテック系スタートアップの間でリストラの嵐が吹き荒れる中、不意にやって来た人工知能(AI)ブームは「一縷の希望」的な存在となり、投資マネーが集中している。
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2022年11月に対話型人工知能(AI)「ChatGPT(チャットジーティーピー)」がリリースされて以降、AIとその社会への潜在的な影響をめぐる関心は着実に高まっている。
また同時に、急成長の想定される市場でどの企業が他を圧倒するプレーヤーとして君臨するのか、さまざまな情報や見方が飛び交うようになっており、投資関係者も実相を見極めようと目を凝らしている。
米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のアナリスト、エドワード・スタンレー氏は最近の顧客向けレポートで足元の状況をこう分析する。
「近年、ミーム株から大麻、Web3まで、いくつもの投資ブームを私たちは目の当たりにしてきました。しかし、今回のAIブームはそれらとまた違って真剣に検討すべき面があり……それはプロダクトマーケットフィット(製品・サービスの市場適合性)です。
結果として、ChatGPTは100万ユーザー、1億ページビューに最速で到達したプラットフォームとなりました」
また、スイス金融大手UBSの富裕層向け資産運用部門グローバル・ウェルス・マネジメント(Global Wealth Management)のソリタ・マルチェリ北南米部門最高投資責任者(CIO)は顧客向けレポートで次のような展望を示す。
「IT専門調査会社IDCと投資情報サービスのブルームバーグ・インテリジェンス(Bloomberg Intelligence)のデータによれば、広義のAIハードウェアおよびサービス市場規模は2020年に約360億ドルでした。
当社としては、この市場が年平均成長率20%の勢いで拡大し、2025年には900億ドル規模に達すると予想しています。この数字でも、後で見れば保守的すぎたという話になるかもしれません」
スイス金融大手クレディ・スイス(Credit Suisse)もAIについては強気スタンスだ。同社は3月2日付の顧客向けメールで、AI分野への参入が株価に好影響をもたらすと予想される企業を、トップピック銘柄として紹介している。
注目の人工知能関連「推奨6銘柄」
クレディ・スイスがトップピックに挙げた6銘柄のうち米企業が2社、マイクロソフト(Microsoft)とエヌビディア(NVidia)だ。
マイクロソフトについては、AIが同社の売上高を20%成長させる機会を生み出すという。
サミ・バドリ氏率いるクレディ・スイスのアナリストチームはこう指摘する。
「『Microsoft 365』のようなオフィススイート製品やGPT技術を統合したプレミアム製品を通じて(出資先である)OpenAIの技術をマネタイズすることで、マイクロソフトは大幅な業績向上を図ることが可能です。
1年間に追加される売上高は最大400億ドル(2022会計年度比で最大20%増)、1株当たり利益は2ドル以上増加(同20%超増)、それが5年以上わたって続く可能性(売上高、1株当たり利益ともに年最大3〜5%増)があります」
バドリ氏はマイクロソフトの12カ月後目標株価を285ドルと設定しており、現在の水準から14%のアップサイド(上振れ余地)を期待する。
また、エヌビディアはAIトレーニング(学習)用のGPU(画像処理半導体)市場で95~100%という圧倒的シェアを占める。ビデオゲームや画像生成AI用途でも使われている。AI普及の加速により、同社製GPUには最大3万基の需要が発生するとクレディ・スイスは試算している。
クリス・カソ率いるクレディ・スイスの別のアナリストチームはこう分析する。
「投資家はエヌビディアの市場における優位性を脅かす競合の登場を懸念してきましたが、実際にはまだそうした深刻な脅威は出現していません。
エヌビディアはソフトウェアに多大な投資を行ってきました。それは同社の優位性を担保する競争力の源泉となっています。しかも、そうやって投資を続けてきたソフトウェアのマネタイズはまだ端緒についたばかりで、これから新たな(ビジネスを生み出す)触媒として機能するでしょう。
そんなわけで、エヌビディアはAI分野で今後も大きな収益を得る機会を抱えており、米半導体セクターのトップピック銘柄であり続けると思われます」
カソが設定するエヌビディアの12カ月後目標株価は275ドル、18%のアップサイドを想定する。
アジアのハイテク銘柄も熱い
クレディ・スイスはAI分野の主要プレーヤーへの成長が予想されるアジアのハイテク4銘柄にも注目する。
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)、アクトン・テクノロジー(Accton Technology)、ウィーウィン(Wiwynn)、バイドゥ(Baidu、百度)がそれだ。
AIのユースケース拡大は、TSMCとそのハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)事業にとって追い風となる。同事業の売上規模は2016年比ですでに倍増を果たしている。
クレディ・スイスのアナリスト、ランディ・エイブラムス氏はTSMCの目標株価を580新台湾ドルとし、13.5%のアップサイドを想定する。
また、ネットワーク機器メーカーのアクトン・テクノロジーについては、新型の液浸冷却式アダプターやスイッチへの需要急増が想定される。
クレディ・スイスの12カ月後目標株価は330ドル、16%のアップサイドがある(なお、アクトンの独立社外取締役には伊藤忠商事の小林栄三特別理事が名を連ねる)。
アクトン同様にネットワーク機器を手がけるウィウィンの主要顧客リストには、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)、アマゾン(Amazon)、マイクロソフトら巨大テック企業がずらりと並ぶ。
同社アナリストのハービー・チョウ氏はこう分析する。
「とりわけ、メタがインフラ戦略を転換してAIに特化・最適化されたアーキテクチャを採用したことや、マイクロソフトがジェネレーティブ(生成系)AI分野で競合を引き離す現在の展開は、ウィーウィンにとって売上拡大に直接寄与する追い風となるでしょう」
チョウ氏はウィーウィンの目標株価を1100新台湾ドルに設定、13.5%のアップサイドを想定している。
バイドゥについては、3月16日に対話型AI「Ernie Bot(アーニー・ボット)」のリリースが予定され、それ以外にもAI関連の多種多様な分野に進出する可能性がある。
クレディ・スイスのアナリスト、ケネス・フォンは以下のように分析する。
「バイドゥはフルスタックのAIプラットフォームを擁し、中国ベースのデータセット、ユーザーのコンタクトを安定的に期待できることから、いわゆる「フライホイール効果」による自律持続的な成長が予想され、また検索広告やAIクラウド事業にまでおよぶ影響が想定されます。
そのポテンシャルを踏まえると、ジェネレーティブAI技術の進歩を活用した新たな競争の時代にあって、同社は中国のインターネット事業者の中で最も良いポジションにつけていると考えられます」
フォンは同社の株価目標を171香港ドルに設定、26.9%のアップサイドを想定している。
なお、TSMCはニューヨーク証券取引所(NYSE)、バイドゥはナスダック(NASDAQ)市場にそれぞれ上場。アクトンとウィーウィンは台湾証券取引所(TWSE)で取引されている。