セールスフォース(Salesforce)の2023会計年度事業計画草案から、巨額買収したスラック(Slack)やタブロー(Tabreau)などの処遇が見えてきた。
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セールスフォース(Salesforce)が会計年度ごとに作成している事業計画草案が流出。
相次ぐ大型買収に批判的な声が株主から高まる中、傘下のスラック(Slack)やタブロー(Tableau)、ミュールソフト(MuleSoft)を、セールスクラウド(Sales Cloud)などから成る主力製品群により深く統合する社内議論が進んでいる模様だ。
Insiderが独自ルートで確認した事業計画草案によれば、セールスフォースは上記3社の買収に数百億ドルという巨額資金を投入しながら、それらがいまだ密接に絡み合った企業戦略として統合されていないことを認めている。
この社内向け文書は「ビジョン(Vision)」「価値(Values)」「方法(Methods)」「障害(Obstacles)」「測定(Measurements)」の頭文字を取って「V2MOM」と呼ばれ、毎年2月からの会計年度開始に際して戦略計画として社内全体に共有されるもの。
2023会計年度の製品計画について、同文書は「優先事項とその実施の順序が部門ごとにバラバラ」で、「M&A(合併・買収)後の統合プロセスに遅延が発生している」ために、中核をなす顧客関係管理(CRM)製品の「増強」につながっていないどころか、買収を通じて手に入れた全てのテクノロジーを統合したアプリケーション群をいまだに展開できずにいると現状を分析する。
例えば、ある元管理職従業員の証言によれば、スラックはセールスフォースの他の製品ラインナップとの整合性が薄く、その買収には「パンデミックの終えんへと向かう社会の流れに逆行する反動的な動き」との評価があったという。
セールスフォースは2020年12月にスラックを277億ドル(約2兆9000億円、当時)で買収。21年7月の買収手続き完了後も、スチュワート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)を留任させ、実質的に独立した事業として運営してきた。
「スラックの改善に取り組んだり、既存製品に組み込んだりする意図がないなら、なぜスラックを買収するのでしょうか。市場ではセールスフォースはイノベーションを生み出す企業とは認識されていないのが現実です」(元管理職従業員)
「物言う株主」へのアピールポイント
草案の内容や最近の表立った動きを見ていると、セールスフォースとしてはそうした(パンデミック期に逆行という)市場の認識を修正したいと考えているようだ。
マーク・ベニオフCEOは3月1日の第4四半期(2022年11月〜23年1月)決算説明会で、大型買収の原動力となってきた社内組織のM&A委員会を「解散」したことを発表しているし、今回流出した事業計画草案も「スラック、タブロー、ミュールソフトを(主要製品である)セールスフォースに密接に統合」する方法の概要から記載が始まっている。
スラックやタブロー、ミュールソフト、さらにそのセールスクラウドなど主要製品群への統合は、営業利益率30%超を達成する道筋を検討する上で極めて重要なファクターだ。
同社を包囲するアクティビスト投資家の一角、スターボード・バリュー(Starboard Value)は2022年10月開催の投資家サミットで、2年以内に調整後営業利益率を31.7%まで引き上げ、同業他社並みの成長と収益性の水準を実現するようセールスフォースに求めている。
事業計画原案は、3400万人のユーザーを抱えるスラックの強みを活用してセールスフォースの中核機能と密着統合することにより、「将来にわたって競争力を確保」する戦略を強調。マイクロソフト(Microsoft)の競合製品であるチームズ(Teams)との「厳しい競争環境」を踏まえ、対抗戦力としてスラックの重要性が増すと指摘する。
セールスフォースが業績の底上げを意図してスラックを売却すると予測する専門家も少なくないが、事業計画原案を読む限りではその気配は感じられず、むしろスラックを他の製品とより深く統合するためにリソースを割く展開のほうが可能性が高いようにも感じられる。
そうした統合の具体例として、同原案の記載によれば、スラックが3月後半に計画中の大規模アップデートに請求書作成機能が盛り込まれる模様だ。
そのほか、スラックやタブローの統合を通じて特定の業界に特化した製品をリリースする計画も議論されている。顧客データ管理プラットフォーム「Customer 360(カスタマー・スリーシックスティー)」の新バージョンや、特定業界向けのスラックがそれに相当する。
後者については、第1四半期(2〜4月)が「スラック・フォー・サービス」、第2四半期(5〜7月)に「スラック・フォー・セールス」、第3四半期(8〜10月)および第4四半期(11〜2024年1月)はそれぞれ「スラック・フォー・マーケティング」「スラック・フォー・ヘルス」を試験提供する計画。
また、セールスフォースは社内で利用中のSNSツール「チャター(Chatter)」をスラックに置き換えるという。
さらに、事業計画原案の記載に従えば、セールスフォースは「完全統合された顧客関係管理(CRM)スイート」を目指し、新たな次世代クラウドデータプラットフォームのリリースを準備している。
スイート実現のカギを握るのは、2019年8月に157億ドル(約1兆7000億円、当時)で買収したデータ分析ツールのタブロー、その前の2019年3月に65億ドル(約6800億円、同)で買収したデータ統合プラットフォームのミュールソフトだ。
9月12〜14日に開催予定の年次イベント「ドリームフォース(Dreamforce)」では、この新たなクラウドデータプラットフォームが早くも発表される模様。ベニオフCEOも3月1日の決算説明会で何度かこのプラットフォームに言及している。