2017年8月19日、ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所のカフェテリアの外をうろつく野良犬。調査のためにタグが付けられている。
Sean Gallup/Getty Images
- チェルノブイリ発電所の立入禁止区域内で暮らす犬と、そこから離れた場所で暮らす犬の遺伝子構造を比較する研究が行われた。
- その結果、チェルノブイリの犬は「遺伝的に異なる」ことが明らかになった。
- この研究で得られたデータは、長期的な放射線被曝の影響を明らかにするのに役立つ可能性がある。
チェルノブイリ原子力発電所の事故から約40年、ウクライナにある発電所跡地を取り巻く見捨てられた世界には、数百匹の野生化した犬が暮らしている。
これらの犬の個体群を研究することで、放射線のある環境での生活が遺伝子構成にどのような影響を与えるのかについて明らかにできる可能性があるとして注目されている。
発電所周辺とそこから15kmから45km離れた場所に住む3つの「野良犬の個体群」を代表する302匹の犬の遺伝子構造を比較調査した研究論文が、2023年3月3日付で科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された。
遺伝子解析の結果、発電所から30km以内の立入禁止区域に住む犬は、そこから遠く離れた場所に住む犬とは「遺伝的に異なる」ことが明らかになった。
この結果は、遺伝子の違いを引き起こしたのが放射線であることを示すものではないが、調査によって得られたデータは長期的な放射線被曝の影響について理解を深めるのに役立つと考えられる。
遺伝子の変化が放射線によるものなのか、あるいは「その他の影響因子」によるものなのかを区別するのは複雑な作業になるだろう。それでも研究者は「このような過酷な環境で15世代も生き残るにはどうすればよいのだろうか」という問いの答えを探るための「絶好の機会」を得たことになると、論文の共同執筆者で遺伝学者のエレイン・オストランダー(Elaine Ostrander)は述べている。AP通信が伝えた。
2017年8月18日、チェルノブイリ原子力発電所の記念碑の前に立つ野良犬。その背後にある巨大な構築物は、荒廃した4号炉を覆っている。
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犬は人間と生活空間や食事を共有することが多いため、そのDNAサンプルは非常に貴重であるとオストランダーはネイチャーに語っている。
「犬ほど人間を反映する動物を対象に、このような研究をする機会はこれまでなかった」
1986年にチェルノブイリ原子力発電所が爆発したとき、避難した住民はペットを置き去りにしなければならなかった。当時の政府は汚染拡大を防ぐために多くの動物を処分したが、汚染除去作業員に世話をしてもらった犬もいたと、ニューサイエンテイストが報じている。
獣医療を提供するチェルノブイリ・ドッグ・リサーチ・イニシアティブは、この地域で暮らす野良犬の生息数を800匹以上だと推計している。