無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


中国EVメーカー日本上陸、それでも日本の自動車産業には「さざ波も立たない」と言える理由

tmb_issue.001

Pond Thananat/Shutterstock

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

中国EVメーカーのBYDが日本での販売を開始しました。となると日本の自動車メーカーも立場が危うくなるのでは……と思いきや、入山先生は意外にも「さざ波も立たないのでは」と言います。その理由とは?

【音声版の試聴はこちら】(再生時間:20分35秒)※クリックすると音声が流れます

BYDが日本進出、勢力図はどう変わる?

こんにちは、入山章栄です。

いま世界中の自動車メーカーが、こぞってEV(電気自動車)の製造に乗り出しています。ガソリン車からEVに切り替わる未来を見据えてのことですが、そんななか、Business Insider Japan編集部の常盤亜由子さんは気になるニュースがあったようです。


ayuko-tokiwa

BIJ編集部・常盤

中国のEV最大手、BYDが今年1月から日本での販売を始めました。自動車産業といえば日本のお家芸とも言われていましたが、このBYDの本格進出によって日本の自動車業界がどう変わっていくのかが気になります。入山先生はどのように予想しますか?


中国のBYDがついに日本に殴り込みをかけたことによって、日本の自動車産業はいよいよ危うくなったのか、ということですね。

これは僕の個人的な予想ですが、結論から言うと、BYDが参入してきたからといって、日本の自動車産業はほとんど変わらないと思います。


ayuko-tokiwa

BIJ編集部・常盤

そうなんですか? なぜでしょうか。


少なくとも大きく、3つ理由があります。

第一に、そもそも自動車産業というのは「民族系」という言葉があるほど、伝統的に自国の会社が強いんです。

例えば日本では、一部の富裕層が外車に乗る人もいるけれど、やはり日本の自動車会社が強いでしょう。ほとんどの方がトヨタやホンダといった国産車に乗っています。

アメリカもいまだになんだかんだ言ってGM、フォード、クライスラーに乗る人は多い。ヨーロッパは、フランスに行けば自国のルノーとプジョーが強いし、ドイツに行けばみんなフォルクスワーゲンかベンツかアウディかBMWに乗っている。スウェーデンに行けばやはりボルボに乗るし、スペインに行けばセアト(SEAT)というクルマに多くの人が乗っている。

なぜかというと、まず母国メーカーの安心感がありますよね。加えて、自動車産業は裾野が広いので、自動車関連の仕事に関わっている人たちはみんな自社のクルマに乗る。だから売れるという理由が一つありますね。

BYDは中国の会社ですので、この中では根本的にハンデがあるわけです。

第二の理由は、さらに重要です。見落としがちなのですが、自動車業界の売れ行きを左右するのは、当たり前だけど販売網なのです。みなさん自動車というとクルマ本体のことしか言わないけれど、実は大事なのはディーラーの存在ですよ。


ayuko-tokiwa

BIJ編集部・常盤

なるほど確かに……クルマを買うときはディーラーから買いますからね。


そう、だからディーラー網を築くのがすごく重要なのです。ところがディーラー網は一朝一夕には築けない。お店を日本各地に配置しなければいけないし、優秀な経営者と販売員がいないと売れない。ディーラー網を日本中に築くのは死ぬほど大変なのです。

例えば日本車は品質が優れていて、トヨタは世界で一番売れている車ですよね。それなのに、実はトヨタは、いまだにヨーロッパの市場には本当の意味で十分な成果を挙げられていません。トヨタはヨーロッパでも生産・販売しているのに、実はマーケットシェアは高くないのです。なぜなら、優れたディーラー網を民族系に押さえられているからです。

これはホンダも同じです。日本企業で欧州で一番シェアが高いのは日産ですが、これはルノーの販売網を使えるからです。つまり販売網を押さえられない会社は勝てないんですよ。

韓国の現代自動車(ヒョンデ)は、韓国では断トツNo.1のメーカーです。同社は過去に何度も日本に入ろうとしてきました。しかしことごとく失敗しています。やはり販売網を持っていないことが大きい。

そう考えると、BYDも日本では販売網をほとんど持っていない。日本の有力なディーラーと組もうとしても、そういうディーラーはすでにトヨタやホンダのクルマを専売で扱っているのでBYDは扱いません。ですから、少し申し訳ない言い方になるのですが、BYDが日本に上陸しても、まず何も起きない可能性が高いと思います。

なぜ日本にベンツがたくさん走っているのか?


ayuko-tokiwa

BIJ編集部・常盤

でもBYDに限らず、外資の、特にEVのメーカーが日本のマーケットを目がけてやってくることは、今後もありそうじゃないですか。それでもやはり、さざ波も立たないのでしょうか。


Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み