日東石油が運営する、江戸川区にある東瑞江サービスステーション。バイオ燃料を給油できる。
撮影:三ツ村崇志
ユーグレナ(和名:ミドリムシ)などを使ったバイオ燃料の開発で知られるバイオベンチャー・ユーグレナが、3月6日から下旬にかけて、都内2カ所のガソリンスタンドで次世代バイオディーゼル燃料を一般向けに販売する。
3月6日、給油式に登場したユーグレナの出雲充社長は、
「(今までは)お子さんが学校でSDGsの授業を受けて、『バイオ燃料を使ってみたい』と言っても給油できる選択肢がなかった。このサービスステーションで、1カ月間いつ来ていただいても(バイオ燃料を)給油できるということはすごく大きい。実際にバイオ燃料を使ったことがある子どもたち・ユーザーを増やしていく取り組みが、日本はここからスタートするんです」
とその意義を語る。
※バイオ燃料は、使い捨ての食用油や微細藻類などを原料に製造された燃料。燃焼時に二酸化炭素が生じるものの、バイオマスが成長する過程で二酸化炭素を吸収するため、二酸化炭素の排出量は実質ゼロだとされる。
普及の課題はコスト。販売価格は「一般の軽油と同じ」
ユーグレナの次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」。
撮影:三ツ村崇志
今回の取り組みでは、ユーグレナの次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を石油由来の軽油(ディーゼル燃料)に20%混合して販売する。給油できるのは、東京都江戸川区にある東瑞江サービスステーションと、葛飾区にある「セルフかつしか6号店」の2店舗。販売価格は、東京都の補助を受けて「一般的な軽油の価格と同じ」(出雲社長)だ。
ユーグレナが製造する次世代バイオディーゼル燃料は、本来、石油由来の軽油と混合せずに100%でも軽油の代わりとして使用できる。今回の一般販売でユーグレナがバイオ燃料の混合割合を20%にとどめているのは「コスト」の問題からだ。
出雲社長は、「あまり(補助をしてくれる)東京都に迷惑はかけられませんから」と話す一方で、国の規格で従来のバイオディーゼル燃料の混合割合が5%までに定められていることを考えると、
「(今回供給する)バイオ燃料は4倍濃い。日本は二酸化炭素の排出量を2013年比で当初は26%削減、今は46%削減するという目標を立てています。そこに向かって、(バイオ燃料の使用率を)上げていくことができるという見通しをお示ししたい」
と、今回の取り組みには大きな意味があると語る。
バイオ燃料の普及に向けて、コストは一つの壁だ。
ユーグレナは2022年6月から愛知県の給油所でサステオが20%含まれた軽油を継続販売している。そこでの販売価格は「1リットルあたり300円」(出雲社長)だという。給油式に参加した丸紅エネルギーの本郷孝博社長も、他のサービスステーションへの展開を問われると、
「コストの部分でどれだけ一般経営と近づいてくるのか。お客様がどれだけバイオ燃料と一般軽油のバリューの差を感じて『その値段なら払ってもいい』となっていただけるか。 そういうタイミングが来れば、いつでも供給できるように、準備していきたい」
と、補助なしでバイオ燃料を普及させるにはその価値がユーザーに浸透する必要性があると語る。
ユーグレナが2025年に完成を目指している商業プラントが本格稼働すれば、「製造コスト」自体は低下することが期待される。ただ、「販売価格」がどう推移するのかは今後も読みにくい。
出雲社長も、
「販売価格は私が決めるものではなく、お客様が買ってくださるかどうかです。その時に300円でも買っていただけるのであれば300円になると思います。もちろん企業努力で使いやすい価格にすることは当然やっていきます。ただ、最終的にどの価格帯に落ち着くのかはまだ本当に難しい。私も分かりません」
と語る。
商業プラント稼働「前」から供給先を拡充する理由
「今まではボリュームが少なすぎて、3日で終わりでした。もちろん安定供給が大事ですので、こういう取り組みをすると、1年やもっと長い期間をという話になります。ただ、我々はスタートアップですから。ちょっとずつ、ちょっとずつ良くしていきます。今回、丸紅さんといっしょに1カ月間実施して、『バイオ燃料っていいね』と、どんどんみなさんに買いに来てもらって、期間を伸ばし、生産量を増やしいくことを地道にやっていきます」(出雲社長)
ユーグレナの出雲充社長。東京都には、2010年のベンチャー技術大賞をもらったころから応援してもらっていると話す。
撮影:三ツ村崇志
実はユーグレナでは、2021年4月に葛飾区にある「セルフかつしか6号店」において3日間限定でサステオの一般販売を実施している。今回は供給体制の整備が進んできたことで、約1カ月に期間を延ばすことができたと出雲社長は語る。ユーグレナ広報によると、その背景には「海外協力企業との取引量が増えた」ことが関係しているという。
先述した通り、ユーグレナは2022年6月から愛知県にある給油所で、今回の取り組みと同じくサステオが20%含まれた軽油を継続販売している。名古屋に供給しているバイオ燃料には、ユーグレナが横浜市鶴見区に保有している実証プラントで製造した燃料に加えて、海外協力会社(社名非公開)が製造したものも含まれていた。実は、今回の東京都との取り組みで販売するバイオディーゼル燃料も、一部は海外協力会社が製造したものだ。
ユーグレナがわざわざ他社と取引をしてまで供給先を広げようとしているのにはわけがある。
ユーグレナは現在、マレーシアの石油大手のペトロナス社やイタリアのエニ社らと、バイオ燃料の商業プラント建設に向けた協議を進めている。
商業プラント建設候補地に隣接する、Pengerang Integrated Complexの様子。
画像:ペトロナス
すでに稼働しているユーグレナの実証プラントの生産量は年間で125キロリットル。商業プラントが本格稼働する2026年には、生産量は2000倍を超える年間25万キロリットル以上になる計画だ。
ただしいくら生産量が増えても、販売先や供給網が整備されていなければ「絵に描いた餅」状態だ。そのため、ユーグレナが本当に国内のバイオ燃料供給を担う存在になるためには、商業プラントが本格稼働するまでに、ある程度国内でバイオ燃料が利用しやすい環境を整備しておく必要がある。
実際、2022年6月に愛知県の給油所で継続販売をスタートさせた際に、ユーグレナはBusiness Insider Japanの取材に対して、「2025年商業化開始に向けたマーケティング活動の一環で、バイオ燃料を気軽に給油してもらうための場を提供することが目的となります」と回答している。
給油式で丸紅エネルギーと組んだ理由を問われた出雲社長も、
「業界にはいろいろなプレイヤーの方がいらっしゃいます。まずはその方々に手を挙げていただいて、使ってみて問題がなかったということを知っていただく。そういう仲間作りをしている状況でございます」
とバイオ燃料の利用が当たり前になる環境作りの重要性を語っていた。
東京都もバイオ燃料事業に「2億円」の予算
今回のユーグレナと都によるバイオディーゼル燃料の一般販売は、2022年10月に東京都とユーグレナとの間で締結した「バイオ燃料導入促進事業に係る協定」に基づくものだ。それ以降、ユーグレナと東京都は、2022年11月の「TOKYO LIGHTS 2022」の電源供給車や、屋形船への燃料供給(期間限定)、2023年1月末から実施していた都営バス58台へのバイオ燃料の供給など、バイオ燃料の使用実績を積み重ねている。
東京都の予算案を見ると、この事業には令和4年度9月の補正予算で1億円が計上されている。令和5年度の予算案でも2億円が計上されていることからも、都によるバイオ燃料の活用事例は来年度以降も続きそうだ。