高市早苗・経済安保担当相(2023年3月8日、参院予算委員会)
出典:参議院インターネット審議中継
安倍政権下で首相補佐官と総務省が放送法の「政治的公平」の解釈をめぐって交わしたやり取りに関する文書について、総務省が「行政文書」と認めてから一日。3月8日の参院予算委員会では、一連の行政文書の正確性をめぐる質疑があった。
立憲民主党の小西洋之参院議員は、2015年に国会答弁で放送法の新たな政府解釈を示し、一連の文書に名前が記されていた高市早苗・経済安保担当相(当時総務相)に文書内容を問いただした。総務省幹部にも文書の正確性について質問した。
高市氏は自身の発言として記された4枚の文書(※記事下部に記載)の内容が「捏造」であると改めて主張。「ありもしないことを、あったかのように作ることを『捏造』と言うんじゃないか」「正確なものだということを(小西議員が)立証してください」「事実であれば私は責任を取る」と述べた。
総務省は一連の文書を「行政文書」と認めているが、正確性については「回答を控える」とした。総務省幹部が「正確性については、行政文書であるか否かとは別の概念」「行政文書であったとしても、正確性についてはさまざまな事例がある」と答弁し、審議が一時中断する場面があった。
総務省の「政治的公平に関する文書」とは?
小西洋之参院議員が公表した、放送法の「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書。
撮影:吉川慧
一連の文書は、放送法の「政治的公平」の解釈をめぐり安倍政権当時の首相官邸幹部と総務省幹部が交わしたやり取りとされる内容がまとめられたもの。立憲民主党の小西洋之参院議員が3月2日に公表した。
放送番組の政治的公平性について、政府は長らく「一つの番組ではなく、放送事業者の『番組全体を見て判断する』」としてきた。ところが、安倍政権下では「補充的」な説明として「一つ一つの番組を見て、全体を判断する」という新たな見解が追加された。
文書には、2014年11月〜2015年5月に当時の礒崎陽輔・首相補佐官の働きかけで総務省側が新たな見解の追加を検討する経緯とされる内容が記されていた。
また、当時総務相だった高市氏が総務省幹部から「政治的公平」の新たな見解に関する説明を受け、当時の安倍首相と電話で相談をしていたとされる内容も含まれていた。
2015年5月、当時総務相だった高市氏は「これまでの解釈の補充的な説明」とした上で、一つの番組において一方の主張のみ相当時間繰り返す放送をした場合は「政治的公平」に反する場合があると答弁。放送法の新たな解釈を示した。
総務省は2016年2月、放送法の「政治的公平」に関する政府統一見解を衆院予算委員会に提出。「従来からの解釈については、何ら変更はない」としつつ、「番組全体」を見て判断するとしても「番組全体」は「一つ一つの番組の集合体」であり、「一つ一つの番組を見て、全体を判断することは当然のことである」とした。新たな解釈の追加は、放送番組の「政治的公平」の解釈が事実上変更されたと民放関係者に受けとめられた。
総務省は3月7日に一連の文書について、総務省の「行政文書」であると認めた上で公開した。ただし、記載内容については、「正確性が確認できないもの、作成の経緯が判明しないものがある点にはご留意いただければ」としている。
野党は、礒崎氏が総務省に圧力をかけ、官邸主導で「政治的公平」の解釈が事実上変更された可能性があると主張。高市氏に文書の正確性と事実関係を質問している。
高市氏「正確性は小西議員が立証を」
立憲民主党・小西洋之参院議員(2023年3月8日、参院予算委員会)
出典:参議院インターネット審議中継
高市氏は8日の参院予算委員会で、総務相時代には(一連の文書の)「情報は入っていない」とし、「大臣室に配布がないというのは、非常に意図的なものを感じないか」とも述べた。
また、小西氏が(事実関係の)立証責任は「高市氏にある」と問いかけると、高市氏は「私に立証責任があるという話はおかしくないか。正確なものだということを、反対に委員(小西議員)が立証してください。私はこれは正確じゃないと申し上げている。当事者だ」と不快感を示した。
総務省「正確性は、行政文書か否かとは別概念」
小西氏は総務省に対し、文書に記載されている関係者の証言を明らかにするように求めた。
ただ、総務省側は文書の正確性について「回答を控える」とした。
総務省の小笠原陽一・情報流通行政局長は、「相手方の意向を確認する必要があり、回答は控える」と答弁。「平成29(2017)年の『行政文書の管理に関するガイドライン』改正の前に作成された文書のため、確認が難しい面がある」として、文書の正確性について回答しなかった。
同省の今川拓郎官房長は、「正確性については、行政文書であるか否かとは別の概念」と答えたことで、審議が一時中断した。
その後、末松義規予算委員長が「質問の趣旨は、捏造があったかどうかという端的な尋ね方。あまりありえないと思うが、明確に答弁を」と再度答弁を促した。
さらに今川官房長は、「行政文書であったとしても、正確性についてはさまざまな事例がある」と答弁し、再度審議が中断。
その後、今川官房長は一般論と前置きをした上で「いわゆる捏造というようなものについて、行政文書の中にそういったものがあることは考えにくい」と述べた。ただ、「文書の正確性は別。正確性を確保されたものもあれば、正確性が確保されてないものもあるかと思う」とし、公表された文書の正確性は回答しなかった。
松本総務相も「捏造をするような職員がいないと信じたい」としつつ、「文章についての正確性については精査中」「現時点で正確性が確保されているとは言い難い」と述べるにとどめた。
小西氏の質問と高市氏の答弁の概要
高市早苗・経済安保担当相と立憲民主党・小西洋之参院議員(2023年3月8日、参院予算委員会)
出典:参議院インターネット審議中継
──平成27年2月13日の大臣レクの存在そのものがなかった、それも捏造とお考えか。
高市氏:(文書は)総理補佐官と総務省事務方とのやり取りという内容。私が礒崎補佐官についてその名前もしくは放送行政に興味をお持ちだということを知ったのは、今年の3月になってから。このようなレクを受けたはずもない
──安倍総理との電話も存在しなかったということでよろしいか。
高市氏:そうだ。放送法に関して法解釈などに係ることについて、安倍総理と電話でお話したことはない。
──(4つの文書にある高市氏の発言とされる内容について)一言も決して言ってない、全部捏造であるってことでよろしいか。
高市氏:それで結構。
── 総務大臣は、総務官僚に捏造をする者はいない(と信じたい)と言っている。高市大臣が虚偽を述べているのではないか。
高市氏:足かけ4年にわたり大臣を務めた総務省には愛情も持っており、素晴らしい官僚がいっぱいいると承知をしている。
しかし、今回出た私に関わる4枚の文書は、作成者が不明だったり、内容が全く違っていたり、取扱厳重注意となっている(平成27年)2月13日の文書があるが、私が当事者として名前が出ているのに配布先に事務次官も入ってなきゃ、大臣室も入ってない。確認のしようもない。大臣室からは他局のフォルダは開けない。この時点で確認していたら、こんなやり取りはありないと私は明確に否定ができたはず。大変迷惑している。
礒崎補佐官が何かこの問題に関わってたこと、私は本当に今月に入って小西委員の質問を前に初めて「そういうことがあり得たのか」ということを承知したところ。礒崎さんから私に電話もかかってきたこともないし、大臣室に来られたこともない。
──総務審議官は旧郵政畑による事務次官級では。官房長は大臣官房の責任者では。
高市氏:事務次官は別途いた。そして大臣室に配布がないというのは、非常に意図的なものを感じないか?
──参事官は大臣室担当の官房参事官、課長クラス。かつ大臣秘書官もいるので情報が入ってるのでは。
高市氏:参事官は大臣室長、情報通信関係の秘書官もいたが情報は入っていない。その時点で、そもそも礒崎補佐官が放送法に興味を持っていたとか、そういったことがあったのかと聞いても、彼らも一切名前を聞いてないと言っている。私も同じだ。
──松本総務大臣は明確に総務省の官僚には一般論として、行政文書を捏造するようなものはいない(と信じたい)と言った。ところが高市大臣は4つの文書について、総務官僚が捏造したと言っている。捏造であるかの挙証責任はこの世でただ1人、高市大臣が負うということでよろしいか。
高市氏:先ほど松本大臣は「そのような者がいないことを願っている」とおっしゃった。私も願っている。しかしながら、立証責任が私にあるという小西委員の話はおかしくないか。正確なものだということを反対に委員が立証を。私はこれは正確じゃないと申し上げている当事者だ。
──参事官は高市4文書の平成27年3月9日、高市大臣と安倍総理の電話の模様について局長に報告したとされるが、参事官も当時そのようことは事実としてなかったと高市大臣に言ってるのか。
高市氏:同席したとされるレクのことは確認をした。そのようなことはないという話も聞いた。
しかし、「政治的公平に関する件で高市大臣から総理に電話(日時不明)とか、(安倍首相が)「実際に問題意識を持ってる番組を複数例示?」のような、しかも作者者不明。このような文書について、これが正規なものであったら、私はびっくりする。
このようなことを私が参事官に……。例えば、もし別件で電話したときにいちいち報告しない。ありえない話。
──大臣の発言を参事官なり秘書官なりがメモすること、こういうメモはごく普通にある。文書は本物だと思う。総務省も行政文書と認めている。高市大臣が「捏造」と言うために、私が「関係者に捏造したか」と総務省に質問しても、官僚は答弁拒否している。早く「捏造」という発言が虚偽であることを認めて、大臣と議員を辞職することを求める。見解について答弁を。
高市氏:ありもしないことを、あったかのように作ることを「捏造」と言うんじゃないか。そういう意味では、ありもしないことだったものだから、私は「捏造」と少し強い言葉を使ったかもしれませんが、これが事実であれば私は責任を取る。でも、これは事実じゃない。
──(一連の文書は)高市大臣が、密室の中で作られた放送法の解釈について、それを承知の上で国会で答弁したことを示している。
高市氏:少なくとも私が登場する4枚については事実ではない。これは断言する。
高市氏「内容が不正確だと確信」
一連の文書をめぐり、高市氏は3月3日の参院予算委員会で、文書に記された自身の発言・行動とされる内容について、「信憑性に大いに疑問を持っている」と主張。自身に関する記述は「捏造」だと断じ、資料が捏造されたものではなかった場合、大臣と議員を辞職するか問われて「結構ですよ」と答弁している。
3月6日の参院予算委員会では、公表された資料のうち「捏造」だと認識する箇所について問われ、「私の発言や安倍総理の電話に関わる内容だとされる文書は計4枚。私が読んだのは4枚だけ」と回答。約80ページの資料全体ではなく、自身の名前が記されている箇所について「捏造」と認識しているとの見解を示した。
高市氏は3月7日の会見では、自身に関する4枚の文書について「自らできる範囲のことはきっちりと調べて、4枚については内容が不正確だと確信を持っております」と述べた。
また、「内容が不正確であるということはこの際はっきりと申し上げておく」「私に対して大臣を辞職する、議員を辞職すると迫るのであれば、場合によっては、この4枚の文書は完全に正確なものであると相手様も立証されなければならないのでしょうか」と述べている。
高市氏の発言とされるものが記された4文書
総務省「政治的公平に関する文書」の一部。
出典:総務省「政治的公平に関する文書」
高市大臣レク結果(政治的公平について)
日時 平成27年2月13日(金)15:45〜16:00(*編注:平成27年=2015年)
場所 大臣室
先方 高市大臣(○)、平川参事官、松井秘書官
当方 安藤局長(×)、長塩放送政策課長、西がた(記)
◯)「放送事業者の番組全体で」みるというのはどういう考え方なのか。
×)例えば「総理と語る」や「党首と語る」番組はどの局でもあり得るところ、国民のニーズに応えるものでもあり、これだけをもって政治的公平を欠くとすることは不適当。むしろ、与野党も含め、いろいろな番組を通じて多様な情報提供を期待するもの。
◯)放送番組の編集に係る政治的公平の確保について、これを判断するのは誰?
×)放送番組は放送法による自律の保障のもと放送事業者が自らの責任において編集するものであり、一義的には放送事業者が自ら判断するもの。
◯)「一つの番組」についてはどう考えるのか。
×)(このペーパーでいう「一つの番組」は、)報道ステーションなら報道ステーション、モーニングバードならモーニングバードの1回の番組を指している。
×)大臣のご了解が得られればの話であるが、礒崎補佐官からは、本件を総理に説明し、国会で質問するかどうか、(質問する場合は)いつの時期にするか、等の指示を仰ぎたいと言われている。
◯)そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?どの番組も「極端」な印象。関西の朝日放送は維新一色。維新一色なのは新聞も一緒だが、大阪都構想のとりあげ方も関東と関西では大きく違う。(それでも政治的に公平でないとは言えていない中)「一つの番組の極端な場合」の部分について、この答弁は苦しいのではないか?
×)「極端な場合」については、「殊更に」このような番組編集をした場合は一般論としては政治的公平が確保されていないという答弁案になっている。質問者に上手に質問され、その質問を繰り返す形の答弁を想定しているが、言葉を補う等した上で答弁を用意したい。
◯)苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか。TBSとテレビ朝日よね。実際の答弁については、上手に準備するとともに、(1)(カッコつきでいいので)主語を明確にする、(2)該当条文とその逐条解説を付ける、の2点をお願いする。
◯)官邸には「総務大臣は準備をしておきます」と伝えてください。補佐官が総理に説明した際の総理の回答についてはきちんと情報を取ってください。総理も思いがあるでしょうから、ゴーサインが出るのではないかと思う。
(以上)
総務省「政治的公平に関する文書」の一部。
出典:総務省「政治的公平に関する文書」
大臣レクの結果について安藤局長からのデブリ模様
(平成27年3月6日(金)夕刻)
◯整理ペーパーと「礒崎総理補佐官からの連絡」で大臣にご説明。最初大臣は本件についてあまり記憶がなかった様子で、第一声は「本当にやるの?」。
◯大臣は、最近の自民党からの要請文書やNHK籾井会長の国会審議等を見ていて慎重になっているのかもしれない。整理ペーパーを見ているうちに内容を思い出してきたようで、以下のご発言。
・これから安保法制とかやるのに大丈夫か。
・民放と全面戦争になるのではないか。
・総理が「慎重に」と仰るときはやる気がない場合もある。(前回衆院選の)要請文書のように、背後で動いている人間がいるのだろう。
・一度総理に直接話をしたい。
→平川参事官に今井総理秘書官経由で総理とお話できる時間を確保するようその場で指示。(3/6/金〜3/8/日の間)
◯安藤局長から、総理に連絡する際は、
・今回の整理ペーパーの内容は「事務的にはギリギリの線のものであること」
・礒崎補佐官に対し、一度「(高市大臣から)答弁は準備します」とお伝えしていること、
の2点に留意していただくようご発言。
◯本件大臣レクの結果について桜井総務審議官にはご報告済。
→3/6/金夕刻、礒崎補佐官付(山口氏)に対し、安藤局長から大臣レクの結果をご報告する時間の確保・日程の調整をメールで依頼。
(以上)
総務省「政治的公平に関する文書」の一部。
出典:総務省「政治的公平に関する文書」
高市大臣と総理の電話会談の結果
(平成27年3月9日(月)夕刻)
◯大臣室・平川参事官から安藤局長に対して以下の連絡。
・政治的公平に関する件で高市大臣から総理に電話(日時不明)。
・総理からは、「今までの放送法の解釈がおかしい」旨の発言。実際に問題意識を持っている番組を複数例示?(サンデーモーニング他)
・国会答弁の時期については、総理から、「一連のものが終わってから」とのご発言があったとのこと。
(以上)
総務省「政治的公平に関する文書」の一部。
出典:総務省「政治的公平に関する文書」
山田総理秘書官からの連絡
【政治的公平の件について】
(平成27年3月13日(金)17:45)
・政治的公平に関する国会答弁の件について、高市大臣から総理か今井秘書官かに電話があったようだ。
・総理は「軽く総務委員会で答弁しておいた方が良いのではないか」という反応だったとのこと。
・本件については総理が前向きであり、今井秘書官の指示で、菅官房長官には本件について相談していない。
・本件についてはしばらく「静観」したい。
・礒崎総理補佐官の側で大きな動きがあれば教えて欲しい。
(以上)
※一部表記を改めました。(2023/03/09 0:58)