キアヌ・リーブスは左利きだ。
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- 左利きの人は、右利きの人と思考方法が違う可能性があることが、脳のスキャン画像の研究から明らかになった。
- 一部のタスクや機能について、左利きの人は、右利きの人よりも脳の右半分が活性化する傾向が強いという。
- 脳のこうした働き方の違いによって、左利きの人は、創造力がより発揮されやすい可能性があると専門家は述べている。
文字を書く時、食事をする時、あるいは歯を磨く時に左右どちらの手を使うかは、大きな視点で見れば、それほど重要な問題ではないだろう。
だが、科学者たちは100年以上にわたって「人の利き手」について研究を重ねてきた。そしてその研究から、人の脳の働き方の違いに関する多くの知見が得られることを発見した。
創造力は、我々人間の思考の在り方のひとつであり、その活動は脳内で起きている。だとすると、左利きの人がより創造力に富んでいるとしたら、その証拠は、人の神経回路のどこかに潜んでいるはずだ。
左利きの人の脳は、右利きの人とは異なる
大脳は左右の半球に分かれており、それぞれが異なるタスクや機能を担っているという概念は、「脳の側性化」(brain lateralization)と呼ばれる。
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実際、左利きの人の脳は、右利きの人とは異なることが明らかになっている。
特に、左利きの人は、右利きの人と比べて、脳の側性化(brain lateralization)があまり進んでいないことが顕著な相違点だと解説するのは、米ドレクセル大学のエリック・ジルマー(Eric Zillmer)教授(神経心理学)だ。
脳の側性化とは、人間の大脳が左右2つの半球に分かれており、それぞれの半球がそれぞれ異なる機能を担っているという概念だ。
左半球は一般的に、話すことや書くこと、計算、言語、理解を担うとされる。一方、右半球は、代表的なものとしては、創造性や音楽のスキル、芸術的表現などの機能を担うと考えられている。
たとえば、被験者が会話しているときの脳を研究者が機能的磁気共鳴画像法(fMRI)でスキャンすると、(言語との結びつきが強い)左半球が、右半球よりも明るく映るはずだ。
これまでの研究でも、たいていの右利きの人については、言語に関連するタスクを行う際にはこの現象が起き、脳の右側よりも左側のほうが活発に働くことがわかっている。
しかし、左利きの人に関しては、これが当てはまらないことが、科学者たちの研究により判明した。
大半の左利きの人の場合は、言語に関連するタスクを行う際に、むしろ右半球が活発になるという。左利きの人は、脳の左半球に頼る度合いが低いため、前述した脳の側性化があまり進んでいないと考えられると、ジルマー教授は説明する。
このように、左利きと右利きの脳が異なる反応を示すのは、言語だけではない。
利き手と顔の認識をテーマとした2010年のある研究では、左利きの人が顔を観察する際に、脳の左右両方の領域を使っていることが判明した。一方で、この研究に参加した右利きの人の場合は、顔の認識に使われる領域はおおむね右脳に限られていた。
では、こうしたことは、人の創造性の度合いにどう影響してくるのだろうか?
脳の側性化の度合いが違うため、左利きの人は、より常識にとらわれない発想が可能で、ゆえに創造性という意味で優位に立っているのかもしれないと、ジルマー教授は指摘する。
左利きの人は創造性を発揮しやすい?
拡散的思考(divergent thinking)は、脳の右半球が担っていると考えられていることから、こうした種類の創造的な思考は、左利きの人の方がより発揮しやすい可能性がある。
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利き手と創造性を結びつける研究のなかで最も説得力のあるものとしては、「スキゾタイピー(統合失調症的な傾向)」と呼ばれる傾向が強い人を対象とした研究があげられる。スキゾタイピーとは、統合失調症と診断されるほど極端ではないものの、それに似た特徴を示す性格的因子を指す言葉だ。
2000年代初頭に、複数の研究チームが、プロのミュージシャンや映像アーティストなど、創造性の高い人々のあいだで、スキゾタイピーのレベルが高い傾向があることを発見した。
さらに、スキゾタイピー傾向が顕著な人たちでは、脳のタスク分担が通例と異なり、通常はもっぱら左半球が担うとされるタスクであっても、右半球がより活発に働くことが判明した。これは、左利きおよび両利きの人に見られるものと似た傾向だ。
ゆえに、「左右の脳のタスク分担が非標準的であること」と、「スキゾタイピー傾向の強い人における創造性の高さ」のあいだに関連があるとしたら、脳の側性化があまり進んでいない左利きの人も、創造性が高い可能性がある。しかし当然ながら、この関連性をより直接的に裏付けるためには、さらなる研究が必要だ。
ここで注目すべき点は、脳の右半球が、拡散的思考(divergent thinking:ある問題について、いくつかの異なる解決策を生み出すことができる能力)と関わっているということだ。ということは、もし左利きの人に、右脳をより活用する傾向があるのなら、右脳を用いた創造的な問題解決プロセスにもアクセスしやすくなっている可能性があると、ジルマー教授は指摘する。
また、左利きの人がより創造性に富むのは、彼らが、右利き用の人に適した形で作られているこの世界に、常に適応を迫られていることと関連しているのかもしれない。
そのため、左利きの人は想像力を駆使する機会が多く、これが創造性を養うのに役立っている可能性があると語るのは、臨床心理学の研究者で、デイドリーマーズ(Daydreamers)という企業の共同創業者でもあるカティナ・バジャージ(Katina Bajaj)氏だ。
「よく知らない新しい体験をしている時には、我々の脳の創造的な部分が活用される」と、バジャージ氏は指摘する。
「左利きの人は、常に『違う思考』が要求される環境に対応しているため、想像力を駆使する練習をより多くおこなっており、この能力へのアクセスが容易になっていく」
要するに、左利きそのもので創造力が豊かになるわけではなく、右利きが圧倒的多数の社会で脳が発達し適応するなかで、より創造的な思考様式を身につけるということのようだ。
そもそも左利きの人はなぜ存在するのか?
人間の場合、右手が利き手というケースが大半であるのに対し、オウムでは、ほとんどの個体の利き足が左だ。
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左利きの人の割合は全人口のうち10%ほどだが、どうして左利きの人がいるのかについては、科学者の研究でも正確な理由はわかっていない。だが複数の研究から、いつ、どのように利き手が決まるのか、そのプロセスの解明につながるカギが明らかになっている。
ある研究では、子宮の中で胎児が左右どちらの手をさかんに動かすかを観察することで、その子どもの利き手をかなりの確率で予測できることが明らかになった。
さらに、比較的新しい2020年の研究では、利き手には少なくとも部分的には遺伝性があり、遺伝的要素によって決まる可能性があるとしている。
しかし、環境の要素も無視できないと、ジルマー教授は指摘する。たとえば、左利きの親を持つ子どもは、子宮でどちらの手を動かしていたかに関係なく、親のしぐさをまねることによって左利きになる可能性もあるという。
ジルマー教授は「(利き手については)遺伝子の発現である可能性が最も高い」としながらも、「だが、脳の適応性を考えると、ほんの些細に見える要素によっても、利き手が変わることはあり得る」と述べる。
同じことは、創造性についても当てはまる。「一部の研究では、他の人と比べて、生まれつきオープンな心を持った人がいることが示唆されている」とバジャージ氏は述べつつも、こう指摘する。
「私の意見では、創造性の発揮には練習が必要だ。高めようと努力するほど、その可能性は広がっていく」
ということで、もっと創造的になりたいなら「練習」しよう。左手をもっと使いたいのなら、それも練習しよう。十分な意志の力があれば、自分の好きなように脳をかたちづくり、操ることが可能なのだ。