日本の学校運営において画期的な仕組みが誕生した。率いるのはSansanの寺田社長だ。
撮影:伊藤有
Sansanの寺田親弘社長が発起人で理事長を務め、2023年4月に開校する「神山まるごと高専」が、100億円超の奨学金基金の組成完了を報告した。これによって長期的な学費無償化を実現できる見込みだ。基金にはすでに発表していた8社に加え、新たにセコム、リコー、そして寺田氏自身が経営するSansanが参画する。
基金の運営を担うのは、後述するスイスの富裕層向けプライベートバンク「ロンバー・オディエ」だ。ロンバー社には世界の名門大学と提携して基金を運用してきた実績があり、今回の決定に至ったという。
ジェンダーギャップも経済格差もない学校へ
神山まるごと高専の奨学金基金の組成について、記者会見をするSansanの寺田親弘社長。
出典:3月9日のオンライン記者会見にて。
「神山まるごと高専」は合格者44人の男女比が50:50というダイバーシティの面で大きな話題を集めたが、この奨学金基金の組成によって「経済的な多様性」の確保にも成功した。
神山まるごと高専の奨学金基金の仕組み。拠出か寄付かで使われる仕組みが異なる。
奨学金基金は民間企業から集めた拠出・寄付金によって成り立っており、その運用益を生徒に奨学金として給付することで実質的な学費無償化を実現する。ハーバード大学やイエール大学など世界の名門大学で導入されてきた仕組みだが、日本では非常に珍しい。
「Sansan社としての拠出には議論あった」
参画企業は10社を集める予定だったが、入学生徒が予定より増えたため、企業も1社追加して計11社に。
出典:3月9日のオンライン記者会見にて。
拠出金は1社10億円。企業にとっては、収益的なリターンのないCSR的な位置付けということもあり、資金集めは難航を極めたという。3月9日に会見を開いた寺田氏は、
「ホッとしました。これで安定的かつ永続的に給付型奨学金を提供できます」
と語り、基金に参画した11社の「経営トップの教育への思い、企業の社会に対する熱意」(寺田氏)に感謝を述べた。
生徒には奨学金基金に拠出した企業との共同研究の機会もあり、将来的には新規事業の創出にもつながって欲しいという。
Sansanは企業と寺田氏それぞれが拠出・寄付を行い、合計10億円を基金に入れる。
「Sansan社として出資することには、社内でも大きな議論がありました。私自身は利害関係者ですので、最終決定の審議には参加していません」(寺田氏)
資産運用はスイスの富裕層向け金融が担当
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100億円超の基金を託すのは、スイスの老舗プライベートバンクで、超富裕層向けの資産運用などを行う「ロンバー・オディエ」だ。
グローバルで活躍する同社だが、近年は地銀からの委託を受けたり、みずほフィナンシャルグループと業務提携を結ぶなど日本での展開にも力を入れてきた。
「ロンバー・オディエは世界中の大学の基金運用を広く手がけている実績があり、本校の運用を任せるのにふさわしいと判断しました。
債券や株などで短期・長期のバランスを取りながら、年5%の運用益が出るようなポートフォリオを組んでやってもらいます。
恐らく日本初となるスキームですが、これから国内で広がってほしいですね」(寺田氏)