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- 新たな研究結果は、ある程度裕福になると幸福度が横ばいになるという説を否定している。
- ほとんどの人は幸せはお金で買えると考えていることが分かった。
- しかし、一部の人たちは、所得が10万ドルに到達すると幸福度が「突然」横ばいになる。
新しい研究によれば、大多数の人々はお金で幸福を買うことができると考えている。
だが、所得が上がれば誰もがより幸せを感じるというわけではないと、ペンシルベニア大学ウォートン校のシニア・サイコロジー・フェロー、マシュー・キリングワース(Matthew Killingsworth)、ノーベル賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)、バーバラ・メラーズ(Barbara Mellers)は論文に記している。
そして、幸福度が最も低いグループの人々は、所得が約10万ドル(約1350万円)に到達すると突然幸福度が横ばいになるということが研究結果で明らかになった。
2023年3月1日に『米国科学アカデミー紀要(PNAS:Proceedings of the National Academy of Sciences)』で発表されたこの研究論文は、キリングワースとカーネマンの過去の研究結果の違いを調和しようという試みだった。同じくウォートン校出身のメラーズが仲介役を務めた。
カーネマンとアンガス・ディートン(Angus Deaton)による2010年の研究は、幸福度はあるところまでは所得に応じて安定的に増加するが、その後、横ばいになるということを打ち出して大きな影響を与えた。
所得が6万ドル(約810万円)から9万ドル(約1200万円)までは心の幸福は概して増加し、それ以上では横ばいだったとその研究では結論付けている。この発見は、ギャラップ(Gallup)が2008~2009年に、アメリカ人1000人を対象に行った調査に基づいている。
キリングワースは対照的に、平均的な幸福度は、所得に応じて一貫して増加すると2021年の論文で発表した。つまり、キリングワースは横ばいになることはないとしており、カーネマンの研究とは矛盾する。キリングワースの結論はアメリカ人3万3000人以上がスマホ・アプリで記録した幸福度ランキングに基づいたものだ。
過去の2つの研究データを再分析したところ、横ばいになるのは、幸福度が最も低い約15~20%の人々だけだったことが分かったとキリングワース、カーネマン、メラーズは記した。
彼らの幸福度は低所得の範囲では「急増」し、「10万ドル付近で急に傾きがほぼゼロになる」と研究者らは記した。この時点で「残っている不幸」 、 研究者らの言う失恋、死別、臨床的なうつ病などは「所得が高いからといって軽減されることはない」からだと考えられている。
一方、それ以外の所得層では、所得とともに幸福度は「安定して上がる」ことをキリングワース、カーネマン、メラーズは発見した。幸福度が最も高い30%の人は、10万ドル以上で加速的に上昇する。
「低所得者層では、不幸な人は幸福な人よりも所得の増加から多くを得る」と研究者らは記した。
「言い換えれば、その範囲の所得では、幸福度分布の底辺の人々は、上位よりもはるかに速く幸福度が上昇する。この傾向は、高所得者では逆転し、非常に幸せな人は不幸な人よりも所得の増加から多くを得る」
だが、所得と幸福の関係は「たとえ統計上は強いとしても、弱い」とキリングワース、カーネマン、メラーズは指摘した。
カーネマンとディートンは2010年の論文で、所得における約4倍の違いが幸福度に及ぼす影響は、介護をすることや週末を過ごすことで得られるものとほぼ同じで、結婚していることの2倍、頭痛の3分の1以下だということを発見していた。