Andrii Yalanskyi
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
ベンチャー企業に勤務する40代の方が「管理職になったら年収が減った」と嘆いていらっしゃいます。この方にとってベストな方法を、さまざまな選択肢から考えてみたいと思います。
Aさん
4年前に今のベンチャー企業に転職してきました。もともと忙しい部署だということもあり、月に80時間くらい残業して残業代もそれなりに上乗せされていました。ところが2年前に管理職に昇進し、深夜割増手当だけしかつかなくなって以降、年収が減ってしまいました。
仕事内容自体は管理職前とほぼ同じで、数字に対するコミットがより厳しくなりました。部下はいますが、管理職前から実態としては私が面倒を見ており、そのあたりもあまり変わっていません。
こんなことなら管理職の打診を受けなければよかったなと思っています。せめて給料を上げてほしいですが、会社の業績がよくなくコスト削減などと言い出しているので、それもおそらく期待通りにはいかないと思います。また、現在の担当事業は自分が新規で立ち上げたものなので、拡大に対する責任も感じています。私はどうすればいいのでしょうか?
(Aさん/40代前半/男性/ベンチャー勤務)
管理職手当が残業代より低く、昇進したら年収が減った——あるあるなお話ですね。一昔前の人事制度のままの会社では、このような事象がたびたび見られます。
さて、Aさんのようなケースでは、状況を改善するためにどのような選択肢があるかを挙げてみましょう。
1. 会社に給与アップを交渉する
ダメモトで給与アップを交渉。うまくいけば上げてもらえるかもしれませんが、ハードルはなかなか高いといえるでしょう。
数人~数十人規模の会社であれば、オーナー社長の一存で特別待遇が受けられることもあるでしょうが、ある程度の規模に拡大した組織では、1人の給与額を変えようとすると人事制度の変更が必要になります。それは簡単にはいきません。
頑張って担当事業を成長させ、利益を賞与額に反映してもらうことなら可能でしょう。しかし、Aさんの会社は業績がかんばしくないようですね。経営者の考え方によっては、利益を功労者に還元するよりも、赤字補填などに充てられる可能性もありそうです。
2. 管理職を辞してメンバーに戻れるよう交渉する
一メンバーに戻り、再び残業代を稼ぐ道もあるでしょう。ただしそれが叶ったとしても、元部下との関係がぎくしゃくしたり、居心地の悪さを感じたりしてしまいそうですね。
それに「以前ほどの残業代が支給されるか?」という疑問もあります。
世の中では「働き方改革」が叫ばれ、労働時間削減の方向に動いています。Aさんの会社も世の流れに従い、残業抑制へ舵を切るかもしれません。
しかし、残業時間を制限しても求められる成果は変わらず、結果的にサービス残業でカバーする状況に陥っているケースも見られます。
リモートワーク制度が導入されている場合、勤務時間の柔軟性が高くなっている分、「残業申請がしづらい」という声も聞こえてきています。
3. さらなる昇進・給与アップを目指す
頑張って成果を挙げ、さらに上のポジションへ昇進し、それによって給与アップを目指す道もあるでしょう。
ただし、上のポストに空きがあるのか、成果が正当に評価されて昇進につながるのか、慎重に見極める必要があります。
今のAさんのように、管理職昇進によって給与減となっている事態を良しとしている会社であれば、希望の実現は難しいかもしれません。
4. 本業の勤務時間をコントロールして副業で収入を増やす
収入を増やすことを目的とするなら、「副業」を持ってはいかがでしょうか。管理職であれば、自分の裁量で時間をコントロールできるはず。ムダな残業をせず、副業に時間を費やすのも一つの手です。
ただ、Aさんがおっしゃるには、「数字に対するコミットがより厳しくなった」とのこと。責任感が強いと、数字が未達成の状態で副業に向かうことには抵抗感を抱くかもしれませんね。
5. 転職を検討する
以上、いくつかの選択肢を挙げましたが、どれも希望に沿わない場合、転職を検討してみてはいかがでしょうか。
自社の給与体系に不満を抱いても、そもそもそのような会社を選んだのは自分自身です。
納得できないのであれば、軌道修正を図ってはいかがでしょうか。
転職するかどうか決意しきれていなくても、とりあえず「転職活動」をしてみると、視野が広がります。
「人的資本経営」への意識が高い企業、従業員のエンゲージメント向上を目指す企業などでは、近年、新しい人事制度や評価制度、マネジメントスタイルなどを積極的に導入しています。そのような企業には人材も集まり、成長力が感じられます。
これを機に、さまざまな企業に目を向けてみるのもいいのではないでしょうか。
「ベンチャー企業でのマネジメント経験者」は売り手市場
では、Aさんにはどのような転職のチャンスがありそうでしょうか。
お聞きしている経歴の範囲での判断となりますが、市場価値は高いと考えられます。
転職市場の需給バランスからすると、「40代前半・ベンチャー企業でのマネジメント経験者」は需要のほうが高い状況です。
しかも、Aさんは新規事業の立ち上げ経験もあるとのこと。そのキャリアはプラスの評価を得られます。転職によって年収アップが叶う可能性は十分にあるといえるでしょう。
まずは転職支援サービスなどに登録し、「スカウト」を待ってみるのも一つの手です。
自身のキャリアを開示し(もちろん匿名でOK)、どのようなポジションで、どの程度の年収額でのオファーが来るのか、「自身の市場価値」を探ってみてもいいでしょう。
オファー額の相場よりも現年収が大きく下回るのであれば、現在の会社は人事評価への意識が低いと判断できます。
もしかすると逆に、「今の会社の給与、けっこういいんだな」と気づく可能性だってあるわけです。
また、年収アップにこだわって転職活動をするのであれば、転職エージェントも活用することをお勧めします。
中途採用での給与提示は、基本的に「現年収」が基本となります。選考でキャリアが高く評価されても、いきなり前職を大きく上回る年収提示がされることはそうそうありません。「まずは現職の年収水準を維持。入社後の働きを見て昇給」というケースが多いのです。
しかし、転職エージェントなら、間に入って交渉を任せることも可能です。「この人のキャリアならこれくらいの年収額が妥当」など、相場を踏まえ、客観的視点で交渉してくれますので、うまく活用してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第99回は、3月27日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。