FIREの達成方法は、数合わせによって決まる。
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- 通常FIREは、3つに分類されることが多い。通常のFIRE、リーンFIRE、ファットFIREだ。最近ではコーストFIREという新カテゴリーも登場した。
- リーンFIREは、平均よりも無駄のない予算でやりくりすること。対照的に、ファットFIREを達成した人は、平均よりも多くお金を使えることになる。
- コーストFIREは、一定の年齢までに目標金額を貯蓄したら、その後は貯蓄を止めて複利運用で最終的な退職基金を作ること指す。
FIRE(経済的自立・早期退職)の達成方法はいくつかあるが、数合わせによって決まるところが大きい。しかし、通常のFIREに至る公式は、いたってシンプルだ。
まず、一般的なFIREに必要な金額というは、現在の1年間に必要な生活費の25倍とされている。それを全額、退職基金などの投資に回すのが第一歩だ。
そのうえで、上下はもちろんあるものの、投資はおしなべて毎年4%ほどの利回り生む。上述の資金の4%は、1年間に必要な生活費と同額になるため、それを毎年引き出しても、資金が目減りすることはない。これが、いわゆる「経済的自立」だ。
つまり、年間支出額の25倍にあたる資金を作れば、生活を維持するために、その他の定期的な給与に頼る必要はない。それが定年よりも早く達成できれば、「早期退職」という自由を手にできる(なお、本記事では便宜上、税金のことを考慮に入れていない。FIREを実行するなら、その点は要注意だ)。
いくつか不確定要素もあるが、この公式で最も重要なのは支出額だ。退職基金として貯めるべき金額は、家族の人数、住んでいる場所、余暇に何をするかなどによって大きく変わるだろう。
たとえば、ニューヨークに住むある女性は、リタイア後は年間10万ドル(約1300万円)で生活したいと思っている一方、中西部の田舎町に住む夫婦は、年間4万ドル(約520万円)の暮らしで満足かもしれない。そのため両者の目標とするFIRE金額はまったく違う。
この違いを説明するために、オンライン上のFIREコミュニティでは、通常のFIREとリーンFIRE(Lean FIRE)、ファットFIRE(Fat FIRE)の3つに分類している。上記の公式に合わせたものが、通常のFIREとすれば、リーンFIREはそれよりも必要な額面は小さくなり、逆にファットFIREは大きくなる。
リーンFIRE vs. ファットFIRE
リーンとは、「痩せぎす」という意味だ。つまり、通常のFIREよりも、資金を減らして達成したのが、リーンFIREとなる。そのためには、さまざまな節約を実施しなくてはいけないが、より早く目標を達成できる。
対照的にファットには、「肥満」という意味がある。つまり、通常のFIREよりも資金を多めに用意してリタイアした状態をファットFIREという。そのため、経済的自立を達成した後も、平均世帯よりもたくさんお金を使える。
前述の例で考えてみよう。ニューヨークに住む女性は、毎年10万ドルで生活しているので、ファットFIRE追求型だろう。最終的に、早期退職後も今と同じ生活水準を維持するためには、退職までに250万ドル(約3億2500万円)が必要になる。
一方、中西部に住む夫婦は、米国の一般家庭よりも少ない金額でやりくりしているので、リーンFIREと言える。この夫婦は早期退職するのに100万ドル(4万ドル×25:約1億3000万円)を貯めれば済む。つまり、この夫婦は質素なのだ。
以前は麻酔科医をしており、43歳でリタイアしたリーフ・ダーレーン氏は、自身のブログ「フィジシャン・オン・ファイヤー(PhysicianOnFIRE)」で、このように書いている。
「ファットFIREは、起業家や高所得の専門職が選ぶ早期退職のパターンだ。早期退職後も、完全に倹約生活に切り替えたり、すでに習慣化している快適な生活を手放したりはしない。ファットFIREは、富裕層の経済的自立なのだ」
「一般的なFIREとリーンFIREでは何を諦めるか、というある種の選択が必要だ(私なら絶対に、これを犠牲とは言わないけれど)」と、ダーレーン氏は続ける。「しかし、ファットFIREでは、ライフスタイル・インフレを経験し、ヘドニック・トレッドミル現象(贅沢慣れ)という時間を過ごした人は、早期退職後もこの生活水準を維持することが可能だ」
それぞれの長所と短所
リーンFIREとファットFIREのどちらにも長所と短所がある。現在いくら使っているかに関わらず、ファットFIREを目指して貯蓄すれば、柔軟性や自由度が高まり、早期退職しても生活を防衛する余裕が生まれると主張する人もいる。ダーレーン氏もその一人だ。
「ファットFIREのポートフォリオを用意しておけば、少なくとも他の人が頻繁に行えないことでも、退職後に行うことが可能だろう」とダーレーン氏は書いている。「予定がそこしか空いていないなら、ハイシーズンであってもファーストクラスで旅行を楽しめる。車だって、欲しければテスラやアキュラ NSX(ホンダ)を選ぶだろう。それを買ったところで、FIRE計画には影響しないからだ」
「それに……」と、ダーレーン氏は続ける。「状況が厳しくなったら、支出を切り詰める余裕もある。景気が荒れ模様になって、株価が下がれば、自由に使える予算を削れるのは誰か? そう、もちろんファットFIREの家族だ」べきだろう
結局のところ、早期退職後にどのようなライフスタイルを送りたいか、いくらお金を使いたいかを決めるのはあなた次第だ。余裕のある生活を送りたいなら、ファットFIREの数字を目指すかもしれない。
できるだけ早く仕事を辞めて、倹約生活を送る心構えができている。あるいは、すでに不労所得を手当てしているなら、早期退職の最短ルートは恐らくリーンFIREになるのだろう。
コーストFIREという新アプローチ
早期退職というコンセプトにあまりこだわらないのなら、コーストFIRE(Coast FIRE)という手もある。
コーストとは「惰力走行する」という意味で、自転車などで漕がなくても進める状態のことを指す。つまり、コーストFIREとは、すでに将来のための貯蓄は確保しつつも、現状の生活費は無理のない範囲の労働で賄っていく、経済的自立のことだ。
ちなみに、厳密には少し異なる意味合いもあるようだが、バリスタFIRE(Barista FIRE)やサイドFIRE(Side FIRE)は、コーストFIREとほぼ同義である。
「ジャスト・スタート・インベスティング(Just Start Investing)」というウェブサイトを運営するケビン・パニッチ氏は、Insiderの記事でこう書いている。
「コーストFIREに到達するということは、退職基金のために貯蓄する必要がなくなる、ということだ。コーストFIREと通常のFIREとの違いは、通常のFIREではFIREに到達したらそれ以降は働かなくてよい。コーストFIREでは、FIREしても支出を賄うために引き続き働かなければならないけれど、退職基金の貯蓄を心配する必要はなくなる」
コーストFIREを達成するためには、退職資金として、いつまでに・いくら必要かを決めなければならない。パニッチ氏は具体的な例を挙げて説明している。65歳で100万ドルが必要と決めたら、そこから逆算するのだ。
つまり、年率5%で運用できるとすれば、30歳までに約20万ドル(2600万円)貯めればよい。この金額まで貯めたら(この時点がコーストFIRE達成といえる)、65歳までの35年間は退職資金のために貯蓄する必要はない。リタイアに向けて緩やかに進めば良いのだ。
この戦略はまた、例えば50歳で仕事を辞めるというような「本当の」早期退職にも使える。だがその結果、若い時に貯めなければならない金額は増えるだろう。