対話型人工知能(AI)分野で優位に立ったとみられるマイクロソフト(Microsoft)。広告事業を通じたマネタイズの取り組みも急速に進展している模様だ。
REUTERS/Gonzalo Fuentes
世界の注目を一身に集める対話型人工知能(AI)「ChatGPT(チャットジーピーティー)」の開発元、米OpenAI(オープンエーアイ)が次世代大規模言語モデル「GPT-4」を3月14日に発表した。
同社に数十億ドル規模の追加出資を発表しているマイクロソフト(Microsoft)は、このGPT-4をチャット機能に統合した最新版の検索エンジン「Bing(ビング)」を通じて、広告収入の大幅な積み上げを狙っている。
広告戦略の全容は現時点ではなお不明だが、最新版のBingでは広告がどのように表示されるかといった情報が断片的ながら明らかになってきた。
広告業界関係者に取材したところによると、Microsoft広告(同社の広告配信管理プラットフォーム)は過去1カ月ほどの間、世界各地で広告主や広告代理店向けのロードショー(説明会)を開催し、テスト中の新しいBing広告フォーマットの一部を披露している。
新しいBingは、従来のような単語入力による検索だけでなく、ChatGPTと同じように会話に近いプロンプト(テキストによる指示)を使って検索することもできる。
例えば、「ローマ旅行の計画を手伝って」「3品コースのイチ推しディナーメニューを作成して」と入力すると、対話型AIが簡潔な文章で回答してくれるのと同時に、その下に関連するウェブサイトへのリンクが表示される。
試しに「(スペイン領カナリア諸島の)テネリフェ島とフエルテベントゥーラ島のうち、子どもが楽しめるのはどっち?」と入力してみると、情報の引用元を指すアノテーション(注釈)の付された回答が返ってくる。
Microsoft広告担当部門のミーティングに参加した代理店関係者によれば、クリックするとフライト予約サイトに遷移する仕組みのアノテーションはそれ自体が一つの広告になり得るし、データとして利用するためのラベル付け対象になるという。
Microsoft広告が3月にアムステルダムで主催した広告主・代理店向け説明会でスクリーンに投影されたスライド資料。Bingチャットからのアノテーション付き回答が見える。
Dennis Westerbeek
同代理店関係者によれば、現在のところ、BingのAIチャットに特化した広告メニューは提供されておらず、広告主がキャンペーン(広告予算や配信先の言語・地域など)を設定すると、通常のリスティング広告(検索結果に連動してテキスト形式で表示される広告)と同様に、AIチャットによる回答にも自動的に同じ広告が表示される。
広告の運用データをまとめたレポートも従来通りの形式となっており、AIチャット経由に絞った個別レポートを受け取ることは(現時点では)できないという。
また、別の代理店幹部によれば、テキスト広告、マルチメディア広告(サイドバーの目立つ位置に表示される画像付き広告)、商品広告、バーティカル広告(自動車のリアルタイム在庫表示など、指定したデータから動的に生成される高品質な広告)はすべて、キャンペーンを個別に設定する必要なしにBingのAIチャットにも配信される。
このように、広告フォーマットについては少しずつ明らかになってきているものの、まだ不明な点もある。
その一つが、BingのAIチャットにおける広告ターゲティングの仕組みだ。
ユーザーの検索クエリ(入力した語句)に連動して配信されるのか、ユーザーの属性や履歴データがカギになるのか、それともAIチャット側が生成した回答に基づいて配信されるのか。そのあたりはまだ分からない。
それでも、デジタル広告代理店アドワイズ(Adwise)のデニス・ウェスタービークは新しい検索広告の登場に興奮を隠せない。
オランダ・アムステルダムで開催されたMicrosoft広告の説明会に参加したウェスタービークは、新しいBingのデイリーアクティブユーザー(DAU)が1億人を突破したことを知り、感激したという。
「人々がマイクロソフトの検索エンジンに着実に移行していることを示しています。結果として、広告主はマイクロソフトのプラットフォームを通じてより多くの潜在顧客にリーチするチャンスを得られるわけで、素晴らしいことです」
Insiderは本記事の内容につてマイクロソフトにコメントを求めたが、返答はなかった。
マイクロソフトにとっての検索市場
冒頭でも触れたように、マイクロソフトは2023年に入って早々、OpenAIへの数十億ドル規模の追加投資を発表、さらに同社の大規模言語モデルを採用した新しいBingをリリースし、大きな話題を呼んでいる。注目と興奮の冷めやらぬうちにマネタイズを実現したいはずだ。
1120億ドル規模と巨大な検索市場は、今日なおグーグルがシェア90%以上を占める独壇場だが、逆転とは言わずとも巻き返しに取り組むだけの価値はある。
マイクロソフトのチーフバイスプレジデント(財務担当)フィリップ・オッケンデンは2月7日のアナリスト向け説明会でこう発言している。
「検索広告市場におけるシェアを1ポイント拡大するごとに、当社の広告事業は20億ドルの増収が見込めるのです」
また、マイクロソフトはAI技術によって、よりパーソナライズされた検索結果、それに連動したより適切な広告を表示できるようになれば、広告単価を引き上げることができると考えているようだ。
「(AIチャット経由の検索が増えると)ユーザーが目にする広告の数は減るかもしれませんが、広告主にとってより価値の高い広告を配信できるようになるでしょう」(オッケンデン)
検索エンジンおよび広告市場で文字通り「天下分け目の戦い」に臨むライバルのグーグルは2月6日、「バード(Bard)」と呼ばれる対話型AIを数週間以内に一般公開する方針を明らかにしているが、社内テストが進んでいる現状以外の詳細は分かっていない。