ドイツのフランクフルトへ向かう途中、激しい乱気流に遭遇したルフトハンザ469便の機内の様子。
Dr. Rolanda Schmidt
- 今後、飛行機に乗る際は乱気流に遭遇することが多くなるかもしれない。大西洋を横断するルートは特に、だ。
- 気候変動の影響でジェット気流が変化し、予測不能な晴天乱気流が増えている。
- 安全な空の旅のために、シートベルト着用ランプが点灯している時は席に座り、常にシートベルトを締めておくよう専門家はアドバイスしている。
離陸後しばらくして緊急着陸を余儀なくされたルフトハンザ469便は、乱気流の凄まじさを示す1つの例に過ぎない。
パイロットたちは毎年、アメリカ上空での激しい乱気流との遭遇を平均して5500回報告している。そしてこの数字は近年、増加している。気候変動の影響だ。
こうした乱気流は2023年に入ってからだけでもすでに何度も発生している。サウスウエスト航空のフライトでは激しい乱気流のせいでパイロットが着陸を断念しなければならなかったし、ハワイアン航空のフライトでは激しい乱気流のせいで25人が負傷した。ルフトハンザ航空のフライトでも複数の乗客が負傷した。
乱気流によって死者が出るのは非常にまれだが、3月4日にはビジネスジェット機の乗客が激しい乱気流に遭遇し、死亡した。
世界各地で厳しい天候が続く中、専門家は今後こうした激しい乱気流が増えるかもしれないと考えている。
乱気流はなぜ激しさを増しているのか?
激しい乱気流は乗客にとっても客室乗務員にとっても危険。
Joe Justice/Scrum Inc
乱気流とは飛行機の高度や動きに影響を及ぼす、不規則で予想外な空気の動きの変化を指す。
ちょっとした揺れで済むこともあれば、前後左右に激しく揺さぶられて吐き気をもよおしたり、座席に頭を打ち付けるなどして負傷することもある。
民間ジェット機や旅客機にとって、乱気流の主な原因は嵐や気圧、ジェット気流などだ。
パイロットは基本的に自分たちの目やレーダー、他の飛行機からの報告をもとに飛行機が揺れ始める前に嵐やその他の乱気流のサインに気付くことができる。そのおかげでパイロットたちは事前に「シートベルト着用」ランプを点灯させたり、乗客に着席を指示することができる。
ただ、パイロットは晴天乱気流とも戦わなければならない。その原因は目には見えない。
晴天乱気流はパイロットが警告を発する前に飛行機をガタガタ揺らしたり、激しく揺さぶることもあるため特に危険だ —— そして、このタイプの乱気流が気候変動の影響で増加している。
気候変動と晴天乱気流のつながり
怪我をして搬送される乗客(2019年3月9日、ニューヨーク)。
WNBC-TV News 4 New York via Associated Press
晴天乱気流の主な原因は風速や風向が急激に変化する「ウィンドシア」で、特にジェット気流の中で発生する。
「高度3万フィートで西から時速100マイルの風が吹いていて、高度2万フィートもしくは真下で北から時速30マイルしか風が吹いていない場合、この2つの高度の間を移動する飛行機はかなり乱れる可能性があります」とアメリカ気象学会のCommittee on Financial Weather and Climate Riskの委員長で、Demex Groupの共同創設者兼チーフ・クライメート・オフィサーのスティーブン・ベネット(Stephen Bennett)氏は話している。
一言で言うと、ウィンドシアが強いとジェット気流が不安定になり、風が速くなる。
その両方が晴天乱気流に大きく影響し、世界各地の気温の変化はすでに、1979年以来ウィンドシアを15%増加させている。
加えて、晴天乱気流は飛行機がよく飛んでいる上層ジェット気流の周辺で発生する傾向がある。こうした流れの速い風の"帯"は地球温暖化で強化されていると、気象学者でレディング大学の博士課程の学生でもあり、北大西洋上空の晴天乱気流の傾向をまとめた2023年の論文の筆頭著者のイザベル・スミス(Isabel Smith)氏は話している。
スミス氏は現在、気候変動による晴天乱気流の変化を研究している。
同氏によると、温室効果ガスの増加によって地表に最も近い大気の層「対流圏」に熱が閉じ込められてしまう —— ただ、この熱は本来、対流圏の上の「成層圏」に放出されるべきものだ。その結果、世界全体で対流圏は暖かくなり、成層圏は急速に冷え込んでいる。
「これにより、2つの大気の層の間の温度勾配が大きくなり、ジェット気流が強まり、風の流れがさらに不安定になって、晴天乱気流が増加しています」とスミス氏は語った。
研究者らは晴天乱気流が2050年までに2倍に増えると見ていて、中でも激しい乱気流が最も増加するという。
ベネット氏は「北大西洋上空の高高度飛行では、激しい乱気流が最も顕著に増加するでしょう」と話している。
乱気流を避けるために航空会社は
乱気流を避けるために迂回すると、コストが上がる可能性も。
Instagram / Alan Cross
フライト中の天候関連の事故の多くは、晴天乱気流が原因だ。そして、客室乗務員の怪我の主な原因は乱気流だ。
ただ、専門家は気候変動の影響で状況は悪化する一方だと見ているものの、わたしたちが乱気流の増加を心配する必要はなさそうだ。
「気候変動のせいで飛行機に乗るのが危険になるように思えるかもしれませんが、そう単純な話ではありません」とベネット氏は話している —— ルーティングのシステムが適応し、飛行機が乱気流の激しいエリアを避けられるようになる可能性が高いからだ。
「数十年後には、新しい技術によって晴天乱気流が今よりもっと見つけやすくなっているでしょう」ともベネット氏は話している。
「気候変動の影響を考慮しても、フライトはより危険なものではなく、時間とともにより安全なものになる可能性が高いです」
スミス氏も激しい乱気流が一般的になることはないと話している。
「例えばニューヨークからロンドンまで大西洋を飛行機で横断する場合、大気の3%に軽い乱気流が存在する可能性があります。中程度の乱気流はわずか1%、激しい乱気流は0.2~0.3%です」
「この確率が上がっているので、今後、わたしたちが乱気流に遭遇することも増えるかもしれません。ただ、遭遇する乱気流は軽いものである可能性が高く、大きな怪我につながることはないでしょう」
ただ、航空会社は常に、できるだけ乱気流を避けようとしているとスミス氏は付け加えた。そのため、乱気流の増加は"より複雑なルート"につながり、飛行時間や待機時間が伸びたり、燃料の消費量や二酸化炭素の排出量が増える可能性もある。
実際、乱気流を回避するためには航空会社の燃料費が年間2200万ドル(約29億2400万円)、二酸化炭素の排出量が7000万キログラム増えるかもしれないとスミス氏は指摘している。飛行機が上空で過ごす時間も、年間2000時間増える可能性があるという。
安全な空の旅のために、ベネット氏とスミス氏が送るアドバイスは同じだ。シートベルト着用ランプが"オフ"でも、席に座っている時は常にシートベルトを締めておこう。