グーグル(Google)のサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)。検索エンジン向けの対話型人工知能(AI)開発競争ではマイクロソフト(Microsoft)に出遅れたとの下馬評だが……。
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グーグル(Google)は一般公開前の対話型AI「Bard(バード)」の社内テストを人海戦術で進めている最中だが、従業員たちは試験提供中のバージョンに飽き足らず、上位の「Big Bard(ビッグバード)」に夢中になっている模様だ。
Big Bardは下位バージョンのBardと同様、グーグルが独自に開発した大規模言語モデル「LaMDA(Language Model for Dialogue Applications)」をベースにしているものの、インテリジェンスの向上を図るためパラメータ数が上乗せされている。
Insider編集部は、両バージョンに同じ質問を投げかけた場合のサンプルを独自に確認したが、Big Bardのほうがより深く、幅広く、より人間らしい回答と感じられた。また、より冗舌でカジュアル、悪態をつくことが多い印象も受けた。
グーグルが2月6日にBardの試験提供を発表した際、サンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、当初の(下位)バージョンはLaMDAを簡略化したものをベースに開発したため、必要なコンピューティングパワー(計算能力)も小さいと語った。
一方、Big Bardはパラメータ数が増強されているとのことから、LaMDAもよりスケールの大きいモデルが使われていると想像され、その意味でこれから登場する上位バージョンの対話型AIがどんなものになるのかが予見される一種の「プレビュー」と位置付けていいのかもしれない。
そして、グーグルはもしかしたら、これから一般公開する下位バージョンのBardを「限定版」としてローンチしようとしている可能性もある。
そう言えるのは、同社がコスト上の懸念を抱えているからだ。
親会社アルファベット(Alphabet)のジョン・ヘネシー会長は最近、大規模言語モデルを活用した検索は、従来のキーワード検索に比べて10倍以上のコストが想定されると、ロイター(2月22日付)の取材に答えている。
同じロイター記事では、米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)による試算が示されており、対話型AIを使って(英単語)50語程度で回答する需要が検索の半分を占めた場合、より大きなコンピューティングパワーが必要になることから、グーグルには年間60億ドル程度の追加コストが発生するという。
また、先日のBard発表会見に際して大きな失態を犯し、悪夢のような株価急落を経験したグーグルとしては、不正確な回答やユーザーを困惑させる回答など、メディアが批判的なタイトルで報じるような公の場での「ヘマ」を繰り返したくないはずだ。
その点を考えても、当初は限定的なローンチとすることでリスクを最小化できる。
冒頭で触れたように、従業員はすでに上位バージョンのBig Bardを楽しんでいる状況だが、社内テストを担当する管理職の一部からは、下位バージョンのテストに集中するよう指示が出されている模様だ。
ある現役従業員の証言によれば、上位バージョンへのアクセス時には社内テスト実施中の下位バージョンを使うよう誘導するメッセージが表示されるという。
ちなみに、社内テスト中の下位バージョンはいまや、修行中の初心者を意味する「Apprentice Bard(アプレンティス・バード)」の名で呼ばれている。
グーグルの広報担当に本記事の内容についてコメントを求めたが、回答はなかった。