ニューヨークの街でベビーカーを押す女性。
Alexi Rosenfeld/Getty Images
- 2021年の米国では、1年を通じてフルタイムで働く女性の賃金中央値は、男性のおよそ84%だった。
- アメリカ勢調査局のデータによれば、この数字は1960~2021年で最高だった。だが、比率の上昇は足踏み状態になっている。
- 家族の世話や子育てが、男女賃金差の原因になっている可能性がある。
アメリカにおける男女の賃金差は、長年にわたって根強く残っている。その大きな理由は、アメリカ人の子育ての仕方にありそうだ。
2023年のアメリカの「イコール・ペイ・デイ(EPD)」は3月14日だった。EPDとは、「男性が2022年の1年間で稼いだのと同じ額」を女性が稼ごうとする場合、女性は2023年に追加でいつまで働かなければならないかを示すものだ。これは、男女の賃金差を考えるわかりやすい指標になる。
ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は、イコール・ペイ・デイにあたって声明文を発表し、そのなかでこう述べている。
「我々はこの日に、こうした不平等と賃金格差に注意を向けるよう促したい。この格差は、生涯全体で見ると、積もり積もって数十万ドルもの収入損失につながり、全米の女性や家族の経済的安定を蝕んでいるのだ」
男性の賃金に対する女性の賃金の比率は、1960年と比べれば上昇しているが、女性の賃金はいまだに、男性の賃金と同額(100%)には到達していない。しかも、ここ数十年でその上昇は足踏みしている。2021年には、1年を通じてフルタイムで働いている女性の賃金の中央値は、男性の約84%だった。
また、全米女性法律センター(NWLC)によれば、パートタイム労働者を含めたすべての男女で見た場合、女性の賃金は男性の77%になる。つまり、より多くの労働者を考慮に入れた場合、100%からさらに遠くなることが示唆されているのだ。
ピュー・リサーチ・センター(PRC)も経時的な賃金差を調査しており、足踏み状態だとの見解を示している。PRCの公開した記事では、2002年には女性の賃金は男性の80%だったが、2022年になっても男性の82%までしか上昇していないことが指摘されている。
PRCのシニアリサーチャー、ラケシュ・コッチャー(Rakesh Kochhar)はInsiderに、「いわゆる男女賃金差の解消に関しては、2つの動きがはっきりと見てとれる。1982年から2002年までは、極めて着実に進歩し、男女の賃金差はかなり解消された」と述べる。
だが、そのあとは「ごくわずかな進展しかない」とコッチャーは指摘する。
「その理由の一部は、推進力に関係している。言うなれば、1980年代と1990代にある程度活発に働いていた力が使い尽くされてしまった。その力とは、女性の労働市場への進出、女性が仕事に費やす時間の増加などを意味する。たとえば、パートタイムからフルタイムへの移行が進み、出世の階段から離れている時間が短くなるというようなことだ。80年代と90年代には、こうした要素は男性に関して減少の方向へ進んだ。もうひとつ、80年代と90年代に減少したのが、男性と女性が就く職業の違いだ」
そうした推進力が「教育の向上とともに、80年代と90年代に男女の賃金差の解消にかなり貢献していた」とコッチャーは言う。
だが、それ以降、進展がはかばかしくない現状は、「職場(や労働市場)の外にある要因を示す」ものであり、それが「男女の賃金差に、天井のようなものをかぶせている」とコッチャーは話す。
コッチャーによれば、要因のひとつは子育てだという。たとえば、パトリシア・コルテス(Patricia Cortés)とジェシカ・パン(Jessica Pan)による研究論文では、「2010年代までに、子どもに関連する賃金格差は、アメリカにおける男女の賃金格差全体の3分の2近くを占めるようになった」と指摘されている。また、全米女性法律センターのファクトシートによれば、父親と母親の間にも賃金差が存在しているという。
ブルック・ルパージュ(Brooke LePage)とジャスミン・タッカー(Jasmine Tucker)によるこのファクトシートでは「雇用主が持つ時代遅れな母親観が、母親の職と給料の展望に害をおよぼしている」が、「母親の賃金は、子育ての責任が女性に偏っており、さらに支援が欠如していることにも影響を受けている」と指摘している。
「子育てに関する犠牲の大きさと、有給休暇の欠如により、子育ての責任を負う女性が職場にとどまることができる可能性が低くなっている」とファクトシートは続けている。
PRCの調査では、アメリカの成人に対して、なぜ賃金格差がしつこく残っているのかを尋ねている。
PRCのブログ記事では、「家庭と仕事のバランスをどうとるかに関する女性の選択が、賃金差の大きな理由になっていると答える人は、家庭内に18歳未満の子どもがいる親の方が、そうした子どもがいない親に比べて多かった(前者48%に対して後者40%)」と書かれている。
「この質問に関しては、男性でも女性でも、子育て状況によって明らかな違いが見られた」
「子育て」以外にコッチャーが指摘している要因としては、職業や大学の専攻をめぐる「ジェンダーのステレオタイプ」のほか、「誰が家族の世話をするかについての社会文化的規範」がある。
さらに、差別も要因になっているとコッチャーは述べている。PRCがアメリカの成人を対象に実施した10月の調査では、女性の賃金が平均を下回っている主な理由もしくは副次的な理由として、「女性が雇用主から(男性とは)違う扱いを受けているから」を挙げる人が80%に上った。なお、これを主要な理由だとする人の割合は、男女でおよそ20ポイントの差があり、女性が61%だったのに対し、男性では37%だった。
そのほか、背後にある要因として、男性よりも女性が就くことの多い職業の種類も考えられる。
女性政策研究所(IWPR)の暫定所長兼CEOのデイジー・チンロー(Daisy Chin-Lor)は声明の中で、「当研究所の調査では、1963年の平等賃金法から60年が経ってもなお、女性は、雇用と収入という点で公正な扱いを受けられていないことがわかっており、女性が就くことの多い職でさえそうした状況にある」と述べている。
「そうした職に就く女性の賃金の低さが、全体的な賃金差を広げる一因となっているだけでなく、女性の健康と福祉に影響をおよぼし、家庭や経済全体に貢献する女性の能力を損ねている」
「連邦政府や州レベルの政治家は、女性のために公正な雇用創出を後押しし、女性を職場での差別やハラスメントから守り、賃金の平等を確保するため、幅広い政策を積極的に検討しなければならない」とチンローは述べている。