就活サイトを運営するワンキャリアが公開した「DeNAの最終面接動画」がじわりと話題になっている。
撮影:横山耕太郎
DeNAが公開した動画が、就活業界で話題になっている。
「いきなり最終面接、合否の裏側全部見せます」というタイトルのこの動画は、大学3年生の就活生の2人が実際にDeNAの最終面接を受け、その様子を編集したもの。
動画には最終面接でのやりとりに加え、その後のDeNAの選考会議、本人への結果報告までを収録。実名・顔出しで参加した就活生2人の面接結果は、それぞれ再面接して判断する「保留」と「不合格」という厳しい結果に終わる。
動画は3月1日に公開され、15日経過した時点で合計8万2000回以上再生されている。
動画の内容について就活経験者などからは「リアルな空気感が伝わってくる」という評価の声がある一方で、「質問の意図が分かりにくく、合否の評価基準も分かりにくい」という厳しい声も聞かれた。
密室で実施されることが当然の就活面接。DeNAはなぜ最終面接を公開したのだろうか?
ワンキャリア「いきなり最終面接」より
ワンキャリア「いきなり最終面接」より
「面接に受かる」よりも大切なマッチング
DeNA創業者の南場智子氏(左)。DeNAは多くの起業家を輩出していることでも知られている。2022年9月、東京都のイベントで撮影。
撮影:横山耕太郎
「就職活動は『企業にとっても、候補者にとっても、お互いに相手を選ぶ場所です』とは言いつつも、企業が合否をつける以上、どうしても実態として企業が選び、候補者が選ばれると認識されやすい構造になっていると思います。これは美しくないなと、ずっと思っていました」
新卒採用の責任者を務める、ヒューマンリソース本部・人材企画統括部新卒部の小川篤史氏はそう話す。
小川氏は2018年から新卒採用に携わり、現在はビジネス職とデザイナー職での新卒採用の最終面接を担当する。
DeNAはここ数年、ビジネス部門・デザイナー職30人〜40人程度の新卒採用をしているが、小川氏はほぼ全ての最終面接を1人で実施している。
小川氏は就活の課題について、「どうすれば面接に受かるのか、ということばかりを気にしてしまう人が多い」と指摘する。
「就職以外の選択肢も広がっているなかで、自分の人生に求めるものを考えて就職先を選ばないと、候補者にとっても企業にとっても幸せになれないと思っています。面接ではお互いにマッチングしているのかどうかを見ており、その点を伝えたくて動画公開を決めました」
今回の動画では、DeNAの正式な新卒採用とは別に、動画の撮影・公開に同意した就活生に応募してもらい、編集段階では就活生にとってマイナスイメージにならないよう、細部まで確認。
実際の就活生にも協力してもらい、違和感がないかどうか確認したという。
最終面接「根っこにある欲求はなんですか?」
公開された動画。DeNAの最終面接は1時間30分程度続くことが多いという。
「いきなり最終面接」を編集部キャプチャ
公開されている面接動画を見ると、小川氏の面接はかなりシビアだ。
面接ではまずは、小学生の時の話や「何かずっと頭に残っているシーン」など過去の経験についての質問から始まる。
その後も「根っこにある欲求はなんですか?」、「エネルギーの原動力はどこなのかなって聞いてみたいです」、「大げさに言うと何のために生きているんですか?」など、志望動機とは関係のない、性格や価値観に関する質問にかなりの時間をかける。
その上で、仕事に関する質問についても、DeNAの事業理解を問う内容ではなく、就活生の価値観がDeNAとどうマッチするのかを意図した質問が多かった。
「就職して2、3年でどうなっていたいですか?」
「成長できる職場に行きたいということだけど、あなたが期待している成長ってなんですか?」
「ミッション、ビジョンを実現したいということですが、人生のミッションってなんですか?」
「事業家としての力をつけていつか起業したいなら、今起業して力をつけていく道もありませんか?」
小川氏は時に笑顔で、時に視線を天井に視線を外したり、口元に手を当てたりしながら、なぜ?という質問を重ねる。
動画を見ると、繰り返されるなぜ?に対して、就活生が戸惑う様子がはっきりと伝わってくる。
採用会議、何をどう評価したのか?
採用会議では選考理由が語られる。
「いきなり最終面接」を編集部キャプチャ
動画の終盤では、面接をどう評価したのか、採用会議の場面も紹介している。
結果は、1人目の就活生は「不合格」。その理由についてはこう説明した。
「良い・悪いの問題ではなく、何かを不安に感じているようにみえた。安心したいという思いがあるものの、その部分を客観視できていないと感じた。
早く認めてもらって自分の不安を解消してくれる組織に行きたいというベクトルは、DeNAの環境にはマッチしないと感じた」
2人目は「現状では合否を判断せずに、もう一度面接する」という結果だった。
「今日の面接では不合格だと思っています。人生についてと、それに対する選択を十分に考え切れているとは思えなかった。
踏ん張る、努力することに対して美学を持っているのが彼の個性。そこは、ちゃんといかすことができればグッドポイント。ただ懸念としては、プロセスに関係なくユーザーからの反応がシビアに入ってくる世界で、それが足かせにもなるとも思った」
コメントでは、面接の前半の性格面での回答も含め、小川氏がDeNAとのマッチをどのように判断したのか、その見解が示されている。
2人目の判断理由について、その後の取材で小川氏は「今回は撮影があるという特別なスケジュールで、本来の選考のプロセスが短縮されており、不公平な部分が残るため判断した」と説明した。
大学生「プライベートに踏み込む意味は?」
この動画について、就活生からは賛否の声が聞かれた(写真はイメージです)。
撮影:横山耕太郎
2024年卒業の就活生に対して情報解禁となる3月1日に公開されたこの最終面接の動画には、賛否の評価が上がった。
動画について紹介したABEMAニュースでは、コメンテーターが「あんな質問されたらここで働きたくなくなる。面接に不快感を覚えた」と発言。またSNS上には「見て憂鬱になった」という声もあった。
また動画の質問に関して「それぞれの人の人生になぜ一貫性が必要なのか?」などの意見があったという。
すでに就活を終えた2023年卒の大学4年生・女性はBusiness Insider Japanの取材に対し、動画の感想について次のように話す。
「仕事をするための面接なのに、初対面の相手にプライベートや価値観に、ここまで踏み込む必要はあるのか疑問に思いました。
また『何のために生きているのか』などの質問は意図がわかりにくいし、ポテンシャル評価とはいうものの、結局は選考会議の内容をみると結局はフィーリングだと感じてしまいました。登場する就活生・人事担当の計4人が全員男性だった点にも違和感がありました」
一方で、SNSでは「改めて気が引き締まる動画でした」「もっとこういう企画をやってほしい」という声も投稿されたほか、企業の採用担当者らも「参考になる取り組み」と評価する意見もあった。
人材会社から内々定を得ている24年卒の大学3年生・女性も、この動画企画を好意的に見たという。
「私が受けた最終面接とかなり近い印象で、就活生にとっては参考になるリアルな内容だった。出演した2人もいい経験になったと思う。就活をしていると入社が難しい、いわゆる『就職偏差値が高い企業』に価値を感じがちだが、企業側はあくまでマッチングを重視しているということを感じられた」
動画の反響についてDeNAの小川氏は、次のように話す。
「人生が一貫した人間性で成り立っているとは思っていません。また一貫性があることなどは良い・悪いではないと思っています。
どういうストーリーを経て今に至るのか、その過程で何を見聞して、何を感じ、次はどこに向き合って行きたいと思っているのかという部分と、DeNAという会社がどういう会社であり、そしてその人の人生に何ができるのか、ミスマッチが起きないように確認しています」
「賛否の声が上がることは予想していましたが、そこも含めて今の面接のあり方を議論するきっかけになればと思っています」(DeNA・小川氏)
就活生に根強い「面接不安」
ワンキャリアは2月27日から1週間、渋谷駅に広告を掲示した。
提供:ワンキャリア
今回の面接動画を企画したワンキャリアによると、就活生は面接に対して特に不安を強く感じているという。
ワンキャリアが2024年卒の就職生に実施したアンケート(2023年2月にオンラインで実施し、446人が回答)では、就活生に不安について調査した。
調査の結果、就活生の55パーセントが就活に不安を感じており、不安な就活のプロセスについては83%が「最終面接」で最多となった(複数回答)。
また面接が不安な理由(複数回答)については、以下のように実際の面接の様子や評価がわからないことからくるものも、上位に並んだ。
- 「どんな質問を聞かれるのかわからない」…81%
- 「何を見られているかわからない」…73%
- 「選考に落ちた時に、落ちた理由がわからない」…71%
ワンキャリアのエバンジェリスト・寺口浩大氏は、次のように指摘する。
「2024年卒の就活生は入学時点でコロナの影響を受けた世代。対面での面接に不安を感じている就活生も多く、企業側には就活生の不安を和らげるための配慮が求められている。
就活生にとっては企業がどんな質問をして、どんな基準で合否をきめているのかはブラックボックスであり、それが就活生の不安になっている。そして緊張で頭が真っ白になってしまう就活生もおり、その現状を変えていきたいという思いから今回の企画が生まれた」
ワンキャリアではDeNAに加え、サイバーエージェントやバンダイにも協力してもらい、両者については模擬面接という形で最終面接を再現した動画を公開する。
求められる企業側の変化
就活生は「面接の印象が志望度に大きく関わる」と話す。
撮影:横山耕太郎
実際の就活生は、ブラックボックスと指摘される面接をどう感じているのか?
2023年卒で大手メーカーに内定している大学4年生(22)は約15社の面接を受けたが、「志望度の高い業界で、的外れな質問をされて残念だった」と振り返る。
「一生懸命書いたエントリーシートについて、『書き回してないよね?』と聞かれたり、最終面接で、思いつきとしか思えない質問してくる高齢の役員がいたりする会社もありました」
人材企業に内々定を得ている2024年卒の大学3年生(21)は「面接後のフィードバックで企業への志望度が変わった」と話す。
「友人は企業側から応募のリクエストがあって応募したのに、面接で落とされ、フィードバックもなくかなりショックを受けていました。逆に私の内々定先は面接後に評価点と課題を教えてくれ、内定先の会社に入ろうと思えました」
SNSの浸透もあり、ブラックボックスだった就活はあらゆる面で可視化されてきている。
就活生に選ばれるために、企業は「学生が納得できる面接」の形を模索する必要があるだろう。