男性育休取得状況の公表義務化に先立ち、調査結果を公表した記者会見。
撮影:土屋咲花
男性育休取得率の開示が4月から大企業を対象に義務化される。政府は2025年までに取得率30%を目標に掲げるが、「令和3年度雇用均等基本調査」によると、現状の平均取得率は13.97%だ。
報道によると政府は男性育休を推進するため「産後パパ育休」の給付額を引き上げる方針で、改めて男性育休が注目されている。
こうした中、「厚生労働省イクメンプロジェクト」が、ワーク・ライフバランスとNPO法人フローレンスの協力を得て実施した「男性育休取得推進企業実態調査」の結果を公表。15日に記者会見で説明した。
男性育休を推進する先進企業の取り組みから見えてきたのは、育休の取得率の向上は実現できても、本質的な夫婦での子育てにつながる「取得日数」は伸ばしにくいという課題だ。
・調査対象者:男性育休を推進している企業・団体
・回答者数:141社
・調査期間:2022年12月1日~2023年1月31日
・調査手法:インターネット調査
取得率は上昇中。実態は「取るだけ育休」も?
回答企業の2022年度の男性育休取得率は76.9%(※見込みを含む)で、2020年度の52.0%から約25ポイント増加した。
一方、平均取得日数は2020年度の42日に対し2022年度が41日で、横ばいだった。取得率は伸びているものの、取得日数は伸びていないことがわかる。
男性育休取得率と取得日数の推移。
出典:厚生労働省イクメンプロジェクト「男性育休推進企業実態調査2022」
厚生労働省イクメンプロジェクト座長の駒崎弘樹さんは、取得日数について「ここは課題」と指摘。
「取得率が高いから取得日数が長いというわけではなく、数日から約150日と大きなばらつきがある。企業の状況に応じて取得日数もさまざまで、いわば『取るだけ育休』も存在すると思われます」
と分析した。
NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹さん。
撮影:土屋咲花
「働き方改革」実施企業は取得日数が2倍
一方で、働き方改革の実施度合いと育休の取得日数の間には相関が見られた。
働き方改革を「実施している」企業の男性育休取得率は77%で、取得日数は33日だった。「実施していない」と答えた企業は取得日数が18日で、その差は2倍近い。全社的な働き方改革は、育休取得日数に好影響を与えるといえる。
働き方改革と育休取得状況。
出典:厚生労働省イクメンプロジェクト「男性育休推進企業実態調査2022」
また、平均取得日数が14日以上の企業では、当事者以外の社員が男性育休の必要性や制度について学べる仕組みを設けていたり、社内外に向けて取得者の事例を収集・発信したりしている割合が高いことも分かった。
同プロジェクトメンバーでワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは
「働き方改革によって仕事が見える化されている企業は、おのずと有給取得率も高まります。 独身の人も含め、日常的に休暇を取れるようになることで、男性育休を取得する人の肩身の狭さが軽減され、取得日数も十分に申請できるようになるのではないかと思っています」
と分析する。
ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さん。
撮影:土屋咲花
ベネッセコーポレーションの「たまひよ妊娠・出産白書2023」によると、男性育休を取得しなかった理由で最も多いのは「仕事の代替要員がいない」で45%を占める。こうした調査結果からも、働き方改革による業務の脱属人化は重要といえる。
社員150人の企業が平均154日を取得
男性育休の推進は「大企業だからこそできるもの」と思われがちだが、今回の調査では中小企業が取得率、取得日数で「群を抜いていた」という。
優良事例として紹介された新潟県の屋根金具製造「サカタ製作所」は、2018年から5年連続で男性育休の取得率が100%だ。取得日数は2020年度の24日から、2022年度は154日まで6倍以上に伸びた。
同社では、男性育休取得に伴う金銭面での不安を解消するため、シミュレーションシートを活用して総務担当者が社員に育休中の収入などについて個別に説明している。
また、2014年から働き方改革に力を入れ、業務の属人化解消を進めてきたという。取り組みの結果は男性育休の取得率100%という数値だけでなく、残業時間3分、社員の有給取得率は77%という働きやすさにも表れている。
なぜ男性育休が重要なのか?
男性育休はなぜ重要なのか。
国立成育医療研究センターの研究によると、産後1年以内に亡くなった妊産婦の死因1位は自殺だ。
小室氏が大きな原因だ主張するのが産後うつ病で、予防にはまとまった睡眠を取ることや朝日を浴びての散歩、周囲に助けを求めることなどが効果的とされる。
小室さんは「産後うつのリスクが高い2週間から1カ月が、必ず取っていただきたい育休期間。妻と子供2人分の命を守るということに繋がります」と強調した。
政府「産後パパ育休」充実の方針
政府も男性育休の取得を後押しする。
時事通信などの報道によると、子どもの出生後8週間以内に、4週間まで取得可能な育休制度「産後パパ育休」について、政府は給付金の水準を、現行の賃金の67%から80%台に引き上げる方針を固めたという。
制度の変更により「産後パパ育休」中は 、実質、育休前の手取り賃金の100%を得られる仕組みを目指すという。