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テクノロジー大手の大量解雇に終わりが見えない。
メタ(Meta)は昨年11月に1万1000人を解雇したが、3月14日にはさらに1万人の削減を発表した。
企業の人員削減について調べているLayoffs.fyiによると、2022年以降、テック業界では推計で20万人以上が解雇されたという。
2022年は金利の上昇や厳しい経済状況を背景に企業の人員削減が続いたが、なかでもツイッター(Twitter)のオーナーであるイーロン・マスク(Elon Musk)が昨年11月に乱暴極まりないやり方で人員削減を行ったことで、解雇の問題はさらに深刻化した。
テクノロジー大手の人員削減はアメリカ国内にとどまらず世界に広がっている。だが海外の従業員の一部は、労働者保護法制が整っているおかげで一方的な解雇に抵抗できることに気づきつつある。
ツイッターのアイルランド法人の副社長であるシニード・マクスウィーニー(Sinead McSweeney)は、人員削減が行われた昨年11月に解雇の差し止め命令を求めて認められ、あと一歩のところで解雇を免れた。
ツイッターは従業員に「ハードコアな」雇用条件をのむか退職のどちらかを選ぶよう求める電子メールを一斉送信したが、マクスウィーニーは自身が一斉メールの送付対象に含まれていなかったことを根拠に、自らの解雇に異議を申し立てた。
高等裁判所から差し止め命令が出たのは、最初の解雇から1カ月後のこと。これによってマクスウィーニーのツイッターにおける雇用は復活した。フォーチュン誌の報道によると、彼女のような「復活」は他に例がないと考えられるという。
アメリカ国内のツイッター従業員も解雇と退職条件を争って訴訟を起こしたが、Insiderが取材した限りでは必ずしも解雇の阻止に効果があったとは言えないようだ。
最近までテクノロジー大手の従業員は、大量解雇についてあまり深刻に考える必要がなかった。これらの企業はたいてい、採用した優秀人材が競合他社に流出するのを防ぐのに必死で、それに従って給与水準も引き上げていた。
しかし解雇の規模が大きかったことで、一般的に給与水準がアメリカより低い欧州で働くことの利点が際立つ結果となった。
法律事務所CMSのパートナーであるクリストファー・ジョーダン(Christopher Jordan)博士によると、解雇に関して、欧州の労働者はアメリカよりはるかに多く法律に守られているという。
「新たに多くのツイッター従業員が今日、職場を去ろうとしている。この愚かで中毒性のあるアプリを使ってきた年月を通して私が見てきた中で#LoveWhereYouWorkedほど悲しいハッシュタグはそうない。このサイトをより良くするために毎日働いてきたすべての人に連帯を」
労働者保護が手厚い欧州のテック大手
「欧州には集合的な状況に適用される法規があり、これはいわゆる大量解雇令と呼ばれる欧州の法律に基づいています」(ジョーダン博士)
欧州企業は基本的に、人員整理の計画がある場合はそれを事前に従業員に知らせなければならない。つまり、従業員が突然社用のPCにログインできなくなるといったショッキングな解雇はほとんど起こらないのだ。
欧州とイギリスにおいては 団体協議と呼ばれるプロセスがあり 、100人を超える人員整理を行う場合には企業は45日以上前に従業員に通知しなければならない。企業側が労働組合の代表と会って解雇の規模を最小化するための方法について議論を尽くす必要もある。
このおかげで欧州において性急な解雇はアメリカと比べ「はるかに複雑で費用のかかる」ものとなっている。
欧州の関連法規は国によって異なるうえ、「企業の規模と削減予定の余剰人員数」によっても変わってくる、と語るのは、フレッシュフィールズ(Freshfields)のパートナーであるデビッド・メンデル(David Mendel)だ。
「アメリカよりも欧州のほうが、従業員や従業員代表に通知したり協議したりする重い責任が(企業に)課せられているんです」(メンデル)
国や地域によるこうした違いがどのような影響を及ぼしているか、いくつか例を挙げてみよう。
ツイッター
ツイッターはここ数カ月にわたり、イーロン・マスクの下で次々にレイオフが行われたが、そのためにアメリカや欧州において訴訟を起こされたり、世間からの批判にさらされた。
マスクは当初、解雇されるアメリカの従業員に対して3カ月分の退職金を約束していたが、CNNが1月に報じたところでは 、実際に従業員に支払われた退職金はたった1カ月分だったという。
労働者調整・再訓練予告法(Worker Adjustment and Retraining Notification Act、略してWARN)はアメリカの企業に対し、従業員を解雇する場合は60日前には通知するよう義務づけている(このためツイッターは、最初に解雇した従業員の一部を雇用し続けることを強いられた)。しかし前出のメンデルによれば、WARN法は最低限の基本給支払いを保障してはいない。
欧州事業のハブとなっているドイツ、スペイン、アイルランド、イギリスなどのツイッター従業員も、それぞれの国の労働法や労働組合の助けを借りて解雇に抵抗した。
ツイッターのスペイン法人が26人の従業員に一斉メールで解雇を通知した際、スペインのヨランダ・ディアス(Yolanda Diaz)労働相は、労働省はツイッターが労働法規を遵守しているか確認にあたっているとツイートしている 。
ジョーダン博士によれば、ドイツでは従業員が解雇を受け入れるに足るほどの魅力的な退職金を会社側が提示する必要がある。
「ドイツをはじめ欧州の何カ国かでは、正当性がない場合、もしくは裁判所がその正当性を認めない場合には解雇は無効となり、雇用関係は継続するという決まりがあります」(ジョーダン博士)
フォーチュン誌が報じたところでは、ドイツのツイッター従業員もまた、統一サービス産業労働組合(Verdi)の協力を得て、退職金のさらなる拡充を求めてツイッターに圧力をかけてきたという。
「欧州でも従業員が労働組合を結成しており、人員整理の計画も労働組合との協議対象になっているところでは、退職金の水準は非常に高くなる可能性があります」(メンデル)
メタ
メタは昨年11月に1万1000人のレイオフを発表し、給与16週間分の退職金を基本提案とする気前のいい解雇条件を決めた。
マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOは、解雇後6カ月間は従業員の家族の健康保険を継続することにも同意した。ザッカーバーグは従業員向けの文書の中で、「当社は外部ベンダーの力を借りて、未公開の求人情報への早期アクセスを含む3カ月のキャリアサポートを提供する」と記している。
この文書では、アメリカにおける契約解除手続きについても詳述している。アメリカ国外の従業員へのサポートに関しては、会社は各国の労働法規に従っているため、それぞれの雇用法規にもよるものの、ほぼ同様のものとなるだろうと述べている。
ニュースサイトのインパクター(Impakter)によると、アイルランドのダブリンでは350人の従業員が解雇された。団体協議が必要とされるEUの制度に従い、メタは解雇日程はアイルランド政府の規制により決まるとの考えを示したという。
フォーチュン誌の記事は、レポーターのマイルズ・ウドランド(Myles Udland)が入手した貸借対照表に触れ、メタは退職金などの手当に9億7500万ドル(約1290億円、1ドル=132円換算)を充てており、これは解雇される従業員1人当たり約8万8000ドル(約1160万円)に相当する。
なお、メタは3月14日に1万人の追加解雇を発表した。
スナップ
スナップチャット(Snapchat)を運営するスナップ(Snap)は、2022年8月に従業員の20%にあたる人員のレイオフを実施。それと時を同じくして、スナップが2017年に買収した位置情報共有アプリのゼンリー(Zenly、本拠はパリ)もサービスを終了した。
しかし、フランスの労働法はカリフォルニア州のものよりも厳しい。ザ・プラグマティック・エンジニア(The Pragmatic Engineer)によると、アメリカで働くスナップの従業員は会社の業務プラットフォームから即刻締め出されたのに対し、フランスの労働当局はスナップに対し、ゼンリーの従業員が求職活動計画を立てるための支援を命じたという。
ここでいう支援には、研修費用や引っ越し費用、フランスと国外の両方で就職面接を受けるための金銭的援助、会社設立資金、就職斡旋企業を使ったサポートが含まれる。
「フランスの法律は従業員の解雇に対して非常に厳格です。少なくとも数カ月は働き続けられると思います」と、サービス終了の第一報が流れた際にゼンリーの従業員はInsiderの取材に答えていた。実際、サービス終了までには5カ月以上かかり、ゼンリーのアプリがアプリストアから姿を消したのは今年2月になってからだ。
その間、退職者に対するスナップの支援は手厚くなったが、ゼンリーの従業員がInsiderに語ったところでは、スナップのストックオプションは付与できないと言われたという。