REUTERS/Mike Segar/File Photo
シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻が、ファースト・リパブリック銀行(First Republic)にも影響を及ぼしている。同行は預金保険制度でカバーされない預金を多く抱えているため、その資金繰りに対する不安が広がっていた。
そんなファースト・リパブリックを助けるべくホワイトナイトが登場した。その数、実に11人だ。
JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)を含むアメリカの最大手銀行のコンソーシアムは、ファースト・リパブリックに合計300億ドル(約3兆9600億円、1ドル=132円換算)を預金する。3月16日午後の発表によると、この預金は少なくとも120日間、同行に留め置くことが義務付けられており、預金保険の対象にはならない。
サンフランシスコを拠点とするファースト・リパブリックは、今回の資金注入によって顧客の信頼を回復し、預金者が逃げ出して先週先ごろ破綻したSVBのような運命を回避したいと考えている。
しかし、ファースト・リパブリックの株価は3月17日に10%近く上昇したものの、問題の解決にはほど遠い。この300億ドルの緊急支援は、投資家や預金者を安心させるほどのものではなく、売却が本格化するまでの一時しのぎとなる可能性がある。
「信頼と買い手どちらが先か、という問題だ」と語るのは、ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネスで金融が専門のサンディープ・ダヒーヤ(Sandeep Dahiya)准教授だ。「信頼が戻らなければ、厄介なことになる」
SVBよりマシだが財務状態は深刻
ファースト・リパブリックとSVBにはいくつかの類似点がある。どちらもベイエリアの金融機関であり、シリコンバレーの豊かな顧客を抱えている。しかし、顧客基盤はファースト・リパブリックのほうがはるかに多様で、ハイテク分野へのエクスポージャーは9%に過ぎないと説明している。
SVBは、ベンチャーキャピタル(VC)業界から選ばれる銀行だった。ファースト・リパブリックのほうは、はっきり言ってあまり芳しくない。
匿名を条件にInsiderの取材に応じたウォール街の銀行のプライベートバンク担当の幹部は、次のように語る。
「ちょっと堅苦しいんですよね。支店に行くと、いまだに木製の羽目板があるんです。昔ながらのスタイルですね」
しかし、財務上の問題を抱えているのはファースト・リパブリックもSVBも同じだ。2022年末時点で保険対象外の預金の割合が高く、SVBは93.8%、ファースト・リパブリックは67.4%だった。また、SVBは約160億ドル(約2兆1100億円)、ファースト・リパブリックは48億ドル(約6300億円)超の満期保有債券と4億7100万ドル(約550億円)の売却可能債券の含み損を抱え、深刻な事態に陥っている。
ファースト・リパブリックの不動産担保住宅ローンは、そのほとんどが固定金利であり、通期決算を見ると193億ドル(約2兆5500億円)の債務超過に陥っている。
SVBの破綻により、さらなる銀行破綻の懸念が投資家の間に広がり、多額の保険対象外預金を持つ金融機関に売りが集まった。
3月12日に連邦準備制度理事会(FRB)とJPモルガン・チェースから700億ドル(約9兆2400億円)の追加資金を受け取ったにもかかわらず、ファースト・リパブリックの株価は下落を続けた。
同行の株価は3月13日の週に5日間で約50%急落している。3月15日、格付け会社のS&Pグローバル(S&P Global)とフィッチ(Fitch)は、預金者が資金を引き揚げ続ける可能性があるとの懸念から、ファースト・リパブリックを投資不適格に引き下げた。ムーディーズ(Moody's)も同行の格下げを検討中だ。
預金注入は万能薬ではない
ジャネイ(Janney)のマネージング・ディレクターであるティム・コフィ(Tim Coffey)はInsiderの取材に対し、預金注入をしたからといってファースト・リパブリックの問題すべてが解決するわけではないと語る。また、SVB破綻に対する規制当局の対応次第では、銀行がさらに何十億もの資本を調達せざるを得なくなる可能性もあるという。
「規制当局が突如、含み損や満期保有のポートフォリオに注目した新たな規制体制を導入する可能性があり、ファースト・リパブリックの場合、その損失は48億ドル(約6300億円)にのぼります」(コフィ)
ファースト・リパブリックは預金流出の規模を公表していない。ホワイトナイトが現れたからといって、預金者が同行を再び信頼して戻ってくるかどうかは不明だ。3月12日に発表されたJPモルガンからの700億ドルの緊急支援も、投資家の懸念を払拭するものではなかった、とダヒーヤ准教授は指摘する。
「経済性ではなくセンチメントが今の市場を動かしています」
売却に頼るしかないのか
ファースト・リパブリックは売却を検討していると報じられている(同行はコメントを拒否)。ダヒーヤ准教授によれば、預金注入でしばらくの猶予を得たが、株価が急落し続ければ、同行がとれる選択肢はほとんどなくなる。
「株価がこのまま下がり続けるなら、時間はありません。落ちるナイフを掴もうとするようなものです」(ダヒーヤ准教授)
ファースト・リパブリックの株価は年初来で80%下落しており、その代償はあまりに大きい。
JPモルガン・チェースは最強のバランスシートを有しているので吸収するのは簡単だが、ダヒーヤ准教授はその可能性は低いと見ている。
「JPモルガンが参入すると断言するのはやや憚られます。JPモルガンは前回、このような銀行をすべて買収しましたが、自分たちは支持されなかったと感じていると思います」(ダヒーヤ准教授)
JPモルガンのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは、2008年の金融危機の最中にベアー・スターンズ(Bear Stearns)を救済したことについて後悔の念を表明している。また、同年後半には、史上最大の破綻を引き起こしたワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)を買収している。
買収企業にとって、ファースト・リパブリックのプライベート・ウェルス・マネジメント事業は魅力的だろう。アドバイザーハブ(AdvisorHub)の記事によれば、オデオン・キャピタル・グループ(Odeon Capital Group)のチーフ・ファイナンシャル・ストラテジストであるディック・ボブ(Dick Bove)は最有力候補としてカナダロイヤル銀行(Royal Bank of Canada)の名前を挙げている。
ホワイトナイトが登場したことで、ファースト・リパブリックには代替となる資金調達手段があることが示された、とコフィは語る。しかし、同行は預金者を呼び戻さなければならない。
「売却の必要があるかどうかは分かりませんが、自分たちの将来を考える必要があるのは確かです」(コフィ)