コンサルから転職し、カスターサクセスにジョブチェンジした3人にインタビュー。
撮影:横山耕太郎
今や超人気の職種となっているコンサル職。
大学生の人気企業ランキングでも、コンサル企業が上位を独占するようになって久しいが、コンサル経験者が事業会社に転職する場合、注目されている職種の一つがCS(カスタマーサクセス)だ。
しかし、なぜコンサル経験者がCS職に転職するのか? 実際にコンサルからSaaS企業のCS職に転職した3人にきいた。
前年比4倍で増えたCS求人
出典:ONE CAREER PLUSのウェブサイト
カスタマーサクセスとは、自社サービスの顧客を成功に導くことで、自社の利益につなげる職種。月契約や年間契約のSaaS(クラウド上のソフトウェア)が増えたことに伴い、顧客が契約を継続することが重要な指標となったことから、CS職の求人が増えている。
エン・ジャパンの求人サービスAMBIによると、「CS職」の求人掲載数は、2021年2月には前年比5.3倍に増え、さらに翌年2022年2月も前年比3.9倍に急増している。
転職情報サイトを運営するワンキャリアによると、CS職への転職として多いパターンは、法人営業など近い業種からの転職、システム導入を請け負うSIerからの転職、そしてコンサルからの転職だという。実際、ボストン・コンサルティンググループや野村総研などからCSへの転職事例もあるという。
アビームからSansanのCS職に転身
Sansanでカスタマーサクセスとして働く新井慧太さん。
撮影:横山耕太郎
「企業から『営業DXを進めたい』とよく相談されますが、そもそも顧客が何をDXと考えていて、どの部分に課題を感じているのか把握は欠かせません。課題をつかみ対策を考える作業は、まさにコンサル的な思考が生きている」
2019年からSansanでカスタマーサクセスを担当している新井慧太さん(32)はそう話す。
新井さんは大学院卒業後、2016年にアビームコンサルティングに入社。国内のメーカーや商社の業務改革プロジェクトに参画し、サプライチェーンにおける販売・物流領域を担当した。
「企業の業務改善を提案するものの、必要なときに参加し、必要なくなったら抜けるのがプロジェクトベースの仕事の仕方です。その後の顧客の成果まで見られないことに、モヤモヤがありました」
新井さんはセカンドキャリアとしてITの事業会社への転職を志望していたが、当時はCSという職種についてはまだ知らなかったという。
「面接で『あなたがやりたいことはCSじゃない?』と提案されて初めて知りました(笑)」
「名刺管理だけじゃない」提案力が勝負
Sansanは名刺管理ツールとして知られているが、営業支援など様々なサービスを展開している。
REUTERS/Sam Nussey
CSとして入社して約3年、感じるのは裁量の大きさだという。
アビーム時代は100人規模のプロジェクトの1人として参加していたが、現在は社員3000人以上の複数の大企業約40社をCSとしては1人で担当する。
顧客のニーズは常に変化するため、顧客の課題を継続的に明らかにすることが大事だという。
「Sansanは名刺管理でしょ、というイメージを持たれますが決してそれだけではありません。100万件以上の企業情報を、顧客情報を営業やマーケティングに活用したり、他の営業支援ツールと連携させてデータの利活用したり、近年はリスクチェックまでできるようになっています」
顧客に契約を継続してもらうため、サービスの活用方法をあの手この手で理解してもらう手腕も求められる。
新井さんは2022年6月、約10人のチームのマネージャー職にも抜擢された。
「解約率などの数字に責任を持っています。カスタマーサクセス全体のチーム設計を考えられるようになるのが今後の目標です」
PwCからモノグサのCS職へ
コンサル職から教育スタートアップ・モノグサに転職した米野聡純さん。
撮影:横山耕太郎
「CS職に転職した当時はコンサルバブルでした。年収が毎年どんどん上がる状況だったのでコンサル職からCS職への転職で年収が下がることは覚悟していました」
PwCコンサルティングから学習プラットフォームを提供するスタートアップ・モノグサに転職した米野聡純さん(33)はそう話す。
モノグサには現在、CS職として25人の社員がいるが、そのうち約3分の1がコンサルからの転職組。米野さんはそのCS職の責任者を任されている。
「顧客の課題の勘所を捉えて、網羅的に論点をとらえるのはコンサルの強み。あえてコンサルを集めているという訳ではありませんが、結果的に元コンサルが集まっています」(米野さん)
モノグサは、ユーザーが記憶したい英単語、漢字、歴史、数式などをインポートすると、記憶定着のために最適な問題を生成するサービス。一人ひとりの学習内容を解析し、知識の定着度合いを可視化でき、問題の難易度・頻度を自動で最適化できるという。
主な顧客は学習塾や学校だが、少子化もあり激しい顧客争奪戦が続く市場だ。CSはどうすれば継続利用してもらえるのか、運用の設計から実際の運用までを担当する。
「塾によっては生徒数を増やすという目標はあるものの、きちんとPDCAを回せていない場合がある。
どの偏差値帯を狙うのか、合格実績を目標にするのか、ターゲットとする学校は適切なのか。四半期ごとに事業計画を立て、何にフォーカスするのかを検討します。基本的には1年更新なので、更新してもらえるかどうかが勝負です」(米野さん)
コンサルから転職「増える可能性」
REUTERS/Wolfgang Rattay/File Photo
米野さんは、新卒でPwCコンサルティングに入社し、約6年間コンサルを経験した。
主に財務・会計系へのコンサルティングを担う部署で、ERP(企業の経営資源を一元管理するシステム)の導入や、大手製造業系のシステムDXを担当した。
転職で年収は「数百万円減った」が、キャリア戦略としてCS職は特にDX導入に関わってきたコンサルにとっては相性のよさを感じている。
米野さんは「この後もコンサル職からCSへの転職は増える」と予想する。
「現状でコンサルが手掛ける案件は、システム更新による“置き換え”が主流です。プロセスの可視化には一定の人数が必要ですが、システム更新が落ち着く数年後には、デジタルを活用し新たなビジネスを作っていく“本来のDX”が求められる。そこでは、顧客を深く理解した昔ながらの少数精鋭なコンサルに戻っていくと感じています。
“置き換え”時期のコンサルニーズが減る一方で、顧客により入り込めるCSというニーズは今後も高まる可能性が高いと思います」
IBMからモノグサへ「CSは総合格闘技」
モノグサの亀井雄太さんは、前職で人事に関するコンサルを担当していた。
撮影:横山耕太郎
「新卒で入ったコンサルはもともと3年目でやめると決めていました」
前出の米野さんと同じく、モノグサでCSを務める亀井雄太さん(29)はそう話す。
亀井さんは日本IBMのコンサル部門に入社し、2020年7月にモノグサに入社した。コンサル時代は人事コンサルを担当し、企業がM&Aで合併した後の組織構成、人事制度設計などを担っていた。
転職先として複数のSaaSスタートアップを検討していたが、モノグサを選んだのは、未経験のCSとして入社できる企業のなかで「最も社員が少なかったから」だという。
「モノグサの13人目の社員として入社しました。来年どうなるのかというハラハラはありますが、大企業では売り上げ2倍の成長とか滅多にできない経験だと感じています」
「若手コンサルあるあるとして、コアスキルは身につくものの、結局何をやったのかと言われると説明しにくいというのが“あるある”です。
その面でCSは、顧客折衝やプロジェクト推進、プロダクトへのフィードバックなど“総合格闘技的”に多様なスキルが求められ、かつ活用率や売り上げといった定量的な目標を持つことになります。現場の前線で戦うイメージで、コンサルに比べて実績を語りやすいと思います」(亀井さん)
「CSの第一人者になりたい」
モノグサのオフィスには、多くのボードゲームがある。入社試験の最終面接ではCEOとボードゲームをするのが恒例だという。
撮影:横山耕太郎
新しい職種だからこそ、新しい挑戦ができる環境でもある。
亀井さんはよりCSのスキル評価・育成の仕組みとして、独自に『CS検定』を作成した。
120分のロールプレイングをこなす試験で、実際のケースやデータを用いながらCSに必要な18個のスキルを測定する。
現在はオンボーディング(入社後の定着支援)の仕組みや、顧客対応をする上での共通の認識として活用されているという。
亀井さんは今後のキャリアについて「CSは3〜4年前からやっと注目されて先駆者が少ない世界。企業内でCSをどう発展させるか、その専門性を深め、第一人者になりたい」と話す。
「将来的には自分で事業を持ちたい。そのためにも顧客にもサービスにも近いCSは魅力的なんです」
コンサルからCSへ。
スキルを生かしながら、より成長分野へとキャリアチェンジした彼らの決断は、戦略的なキャリア選択の結果とも言えそうだ。