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今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
途上国支援など政府系プロジェクトに従事してきた40代の方が、「幅広い経験をしたが、専門性が低い」と悩んでいらっしゃいます。
「多様なステークホルダーとのコーディネーションやプロジェクトマネジメントのスキルは身につけているものの、どう活かせばいいのか」——公共機関・民間企業にかかわらず、このようなお悩みの声はよくお聞きします。
そこで今回は、「公共系キャリアの活かし方」「プロジェクトマネジメントスキルの活かし方」についてお伝えします。
Aさん
約20年近く、政府系機関との契約ベースで海外支援事業を手がけています。開発プロジェクトの発掘や実施、災害緊急支援など、アフリカやアジアを中心に8カ国で活動してきました。
やりがいのある仕事ですが、数年ごとに新しい仕事に応募し、勤務地や職場環境が変わることが最近ストレスになってきました。「日本で腰を落ち着けて仕事ができないか」と考えるようになり、いくつかの転職サイトに登録を試みたのですが、選択する業界・職種が「その他」以外に見当たらず、いつも手が止まってしまいます。求人を見てみても、「営業」や「エンジニア」など、「通常」の職種ごとに分けられており、いずれにも該当しない私はどこを探せばいいのか迷ってしまいます。
私の経験は、農業、保健、行政、難民・移民支援と、よく言えば幅広く、悪く言えば高い専門性を持っていません。セールスポイントを挙げるなら、多様なステークホルダーとのコーディネーション力やプロジェクトマネジメントスキルかと思いますが、通常のビジネス界で即戦力になるかというとちょっと自信がありません。
40代後半なので、新しい業界で若手と同じレベルから再スタートする覚悟もありません。このような規格外のキャリアですが、どのような転職・キャリアパスの可能性があるか、アドバイスをいただけますでしょうか。
(Aさん/40代後半/女性/政府系機関での開発援助)
※お便りの内容を一部要約させていただきました。
Aさんは非常に大変な環境、ときには想像を絶する過酷な環境で重要な任務を果たしてこられたのでしょうね。そのご経歴に敬意を表したいと思います。
さっそくですが、Aさんの今後のキャリアの方向性について考えてみましょう。
国際協力や途上国支援といったAさんのキャリアは、何年か前までは転職先の選択肢が限られていました。公共系出身の方は「民間企業の論理や仕事の進め方を理解していない」「ビジネス感覚が乏しい」といった印象を持たれ、民間企業出身者に比べると選考で不利となるケースが多々見られたのです。
しかし現在は環境ががらりと変わっています。
この数年、世界的に「サステナビリティ」への意識が高まっていることはAさんもご承知でしょう。
この潮流の中、企業によって表現は異なりますが、「サステナビリティ」「SDGs」「ESG」などの施策に注力する企業が増えてきました。
大手企業やコンサルでサステナビリティ推進人材の採用が活発
「経営企画部内に専門チームを設置」「専門部署を新設」など、企業によって組織の位置付けは異なりますが、これら施策を推進する人材のニーズが高まっています。
以前は、SDGsの目標に該当する取り組みは「CSR(企業の社会的責任)」、つまりは「社会貢献」として行われていました。
しかし今ではサステナビリティへの取り組み状況が企業価値の判断に大きく影響し、ひいては投資の獲得も左右します。
そこであらゆる業種の企業が自社と親和性が高いSDGs・ESG目標にフォーカスし、戦略を練っています。そこで、SDGs・ESG関連のテーマの知見・経験を持つ人材を募集しているのです。
しかも、「知識」だけの専門家ではなく、自ら手を動かしてプロジェクトの推進や関係者との折衝を行ってきた人材が求められています。
SDGs・ESGの取り組みにおいては官公庁などとの連携も重要となるため、公的機関との折衝ができることも期待されます。
ですから、Aさんのキャリアはそうしたポジションの求人にぴったりはまる可能性があります。
現在、そのような採用を行っているのは大手企業が中心ですが、一定水準以上の年収・待遇、安定感を求めるなら、その希望がかなう選択肢であるといえます。
また、大手企業でサステナビリティ施策推進の経験を積むと、そのまま在籍して運用やグループ会社への展開を担うほか、大手から遅れて着手する準大手~中堅企業へ転職し、また一からプロジェクト立ち上げ・推進を担うというキャリアプランも想定できます。
ただし、「大手企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)推進担当」のポジションに転職する際は、一つ注意が必要です。
それは、「経営トップの本気度」を見極めることです。サステナビリティを重要な経営課題と捉えて本気で取り組んでいる企業もあれば、「世間の流れに乗って」「世間への体裁上」といった意識レベルで「とりあえず担当を置いてみる」という企業もあります。
後者タイプの企業に入社すると、経営陣の決断力に欠けるため、企画がなかなか前に進まなかったり予算がつかなかったりする……などの憂き目にあう可能性があります。
また、大手企業や以外に、「コンサルタント」という選択肢もあります。
企業がサステナビリティへの取り組みを強化するなか、それを支援するコンサルティング業界でも「サステナビリティコンサルタント」「SDGsコンサルタント」「ESGコンサルタント」といった求人が活発です。
これらの求人で求められる要件にも、Aさんのご経歴はマッチしていると思われます。
コンサル業界であれば高年収も期待できるでしょう。
実際、政府系機関で国際協力プロジェクトなどを手がけてきた方々が、大手企業のサステナビリティ推進室やコンサルティングファームに採用されている事例もあるようです。
大手やコンサルが志向に合わなければスタートアップの道も
大手企業やコンサルティングファームなどへの転職可能性をお伝えしましたが、実はこうした企業に転職したものの、物足りなさを感じて再度転職する人も少なくないことをお伝えしておきます。
大手企業では、「スピード感」に不満を抱く方が多く見られます。
戦略・企画を立てても、「何重もの稟議を重ねなければならない」「ステークホルダーが多いため、調整に時間が必要」など、なかなか動き出さないことにもどかしさを感じているという声をよくお聞きします。
一方、コンサルティングファームでは「戦略・企画を立てるところまでで役割を終える。自分の手で推進し、成果を得て手応えを感じたい」と、事業会社に転職する方が多数いらっしゃいます。
そうした方々の多くは、「スタートアップ」を選択します。
「自身が大きな裁量権を持ち、スピーディに推進できる」「自身の働きが会社の業績や成長に大きなインパクトを与え、貢献を実感できる」——これらがスタートアップの魅力といえます。
また、近年はSDGs・ESGを推進するようなスタートアップに資金が集まり始めており、採用においても大手などと比べて遜色ない水準の報酬額を提示できるケースが増えています。
Aさんが自負する「多様なステークホルダーとのコーディネーション力やプロジェクトマネジメントスキル」は、スタートアップでも歓迎されます。
「40代後半なので、新しい業界で若手と同じレベルから再スタートする覚悟がない」とのことですが、Aさんのご経歴で「若手と同じレベルから」ということはありません。
経営コアメンバーとして迎えられ、上流工程から携わる採用ポジションがありますので、これまでの経験・スキルを活かしてやりがいを感じられるのではないでしょうか。
例えば、まさに「サステナビリティ」を事業テーマの中心に据えたスタートアップがあり、注目を集めています。
サステナブル・ラボ株式会社はSDGs・ESGに特化した企業の非財務情報プラットフォームの提供および非財務を含めた企業価値評価にかかわる研究開発を推進しているスタートアップ企業です。エンタープライズへの営業や事業開発などの人材を求めています。
彼らの取引先は、メガバンクや大手証券会社などの金融機関や行政、大手企業など。SDGs・ESG銘柄であれば、資本力のないスタートアップでも大手企業と対等に対峙できる仕事も実現できます。
ここ最近では、このようなSDGs・ESGに関するビジネスを標榜するスタートアップも多く出現し、転職マーケットでも人気企業群となっています。
Aさんに限らず、転職サイトなどではピタリとはまる職種がないために「マッチする求人情報が見つからない」という方もいらっしゃいます。
そうした場合は、ぜひ転職エージェントに相談することをお勧めします。転職エージェントが扱う求人には「非公開求人」も多く、実は多様な選択肢があるかもしれません。
あるいは「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」などのハイキャリア向け転職支援サービスに登録しておくと、企業の採用担当者あるいは転職エージェントがAさんを見つけ出し、スカウトの声がかかると思いますよ。
これまで築いてこられたご自身のキャリアに、もっと自信を持ってください。キャリアを活かし、さらに発展させられる道が必ずあるはずですから。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第100回は、4月10日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。