LINEで使えるChatGPT・AIチャットくんを開発したpiconの山口翔誠さん(左)と渋谷幸人さん(右)
撮影:横山耕太郎
LINEで気軽にChatGPTが使える「AIチャットくん」が話題になっている。
3月2日のリリースから10日間で登録者数は50万人を突破。3月23日現在の登録者数は約77万人と急激にユーザーを獲得している。
ChatGPTのAPIが公開されてから約半日で開発し、その日のうちに公開。スピードで他の類似サービスを圧倒した。
しかも「AIチャットくん」を作ったのは、20代のエンジニアとデザイナーのたった2人の会社だった。
大学生2人で起業
AIチャットくんの画面。質問を打ち込むと30秒ほどで回答がくる。
撮影:横山耕太郎
「あまりの反響の大きさに、発表から2週間は生きた心地がしませんでした」
AIチャットくんを制作したスタートアップpiconの山口翔誠CEO(27)はそう話す。
piconは2016年、当時大学生だったデザイナーの山口さんと、エンジニアの渋谷幸人COO(27)の2人で起業した会社。ベンチャーキャピタルのEast VenturesやANRI、個人投資から出資を受けている。
2017年に発表したYouTubeを見ながら会話を楽しめるアプリ「トークルーム」で注目され、最近はEスポーツ大会を検索できるアプリ「プライザ」は25万ダウンロードを達成している。
またこれまでに「テキスト生成AI・GPT-3」を利用したアプリを発表した実績もある。
「今回のAIチャットくんのヒットで、『ぽっと出でバズったスタートアップ』と思われていますが、実はもっと前からの蓄積があるんです」(山口さん)
会話力向上「LINEで使えたら面白いのでは」
エンジニアの渋谷COO。
撮影:横山耕太郎
ChatGPTを他のアプリなどに組み入れることが可能にする、APIが公開されたのは3月2日のこと(アメリカの現地時間では3月1日)。
渋谷さんは公開当日の朝、API経由で使えるChatGPTを実際に触ってみて、その返答のスピードの速さと会話能力の高さに驚き、「LINEで気軽にAIと話せたら面白いかも」と直感的に感じたという。
着想からわずか半日でAIチャットくんを完成させ、API公開当日にリリースした。
その高速開発を支えたのも、ChatGPTだった。渋谷さんらはこれまでスマホ向けのアプリを制作していたが、LINE上で使うサービス、いわゆるLINE botを作ったことはなかった。
そこで疑問点はChatGPTにすぐに質問。
「LINEへの実装方法」を聞き、手順や必要なコードを教えてもらったという。
「LINEへの実装は初めてだったので、本来はまずはいろいろな機能の名前から調べる必要がありました。でもChatGPTに質問することで、すぐに作業の仕方の8割程度は理解でき、3日くらいかかったかもしれない作業が半日で終わりました」(渋谷さん)
最も利用が多いのは「50歳代」
「ChatGPTをパソコンやスマホのブラウザで使うとなると、頻繁にログインする必要があります。加えて会話文だと、LINEの方が打ちやすいという人もいるなと思っていました。
LINEを開いてさっと会話できるのがAIチャットくんの魅力」(渋谷さん)
半日で完成したAIチャットくんだが、その使い勝手の良さから、急激に利用者が増加した。
ツイッターなどで質問と回答を添付する人が続出したことで、利用が一気に広まったという。現状のユーザーを見ると、意外にも50代のユーザーが最も多く、幅広い年齢層に浸透している。
ただし、うれしい悲鳴の反面、サーバーの管理や不具合への対応などに追われている。実際にAIチャットくんを使ってみると、「現在サーバーが混み合っており、少しの間返信ができなくなっております」という回答が返ってくることもあった。
どうやって稼ぐのか?
REUTERS/Florence Lo/Illustration
一方で、気になるのはどうやって利益をあげていくかだ。
AIチャットくんを運用するコストは主に以下の3つ。
- ChatGPTの利用料に応じた使用料金(API利用料)
- LINEの利用料
- サーバー代
このうちのChatGPTのAPI利用料は、テキスト生成AI・GPT-3に比べると約10分の1になったとはいえ、かなり高額になるという。
「利用者が急増していますが、その分コストがかかっているので、現状ではそこまでおいしいビジネスではない」(山口さん)
現在、AIチャットくんは、1日5回のやりとりまでは無料で利用できるが、無制限で使うためには月額980円の有料契約が必要で、これが主な収入源となる。
API公開後は同様のサービスの参入があったものの、ChatGPT利用料などが課題になったとみられる撤退例もあるという。
無料ユーザーの利用は、コストだけがかかる状況だが、山口さんは「今はとにかく初めて使う人にも広く使ってほしい」と強調する。
「ChatGPTの活用法は本当に多様です。私たちがどんどん使い方を発信していくことで、それが結果的には課金につながるのではないかと思っています」
会話に限らず「AIを身近にしたい」
CEOの山口翔誠さんは「ランチを決めるが面倒なので、いつもAIに聞いている」という。
撮影:横山耕太郎
2022年には画像生成AI・Midjourney、Stable Diffusionが矢継ぎ早に登場し、現時点でも進化を続けている。
ChatGPTのような大規模言語モデル型のAIは、AI研究者でさえ衝撃的と言うほど急速に用途が拡大している。
「次世代のGPT-4は画像を認識しますが、例えば冷蔵庫の写真を送ればレシピを考えてくれるようになるかもしれません。
ChatGPTに限らずみんながいろいろなAIをマスターすれば、みんなハッピーになれると思う。そのために身近に使えるAIサービスを提案していきたい」(山口さん)
現在は2人で会社を運営しているが、サポートメンバーやフルタイムの社員も増やすべく、採用も進めているという。
AIチャットくんに関しては、3月末までに登録者数100万人を目指すという。
「まずは気軽にAIを使ってほしいです。手始めにAIチャットくんに『今日のお昼は牛丼とコンビニ弁当どっちがいいと思う?スティーブ・ジョブズになったつもりでプレゼンして』と質問したりして、遊んでみてください(笑)」