顔認証改札を設置したJR大阪駅の新改札口「うめきた地下口」。
撮影:小山安博
JR西日本が、大阪駅の一部改札口に顔認証改札機を設置し、3月18日から一般の利用を開始した。
JR西日本としては初めての顔認証改札で、ただ歩いて行くだけで改札を通過できるという新たな体験を実現する。そんなウォークスルー改札の実力をチェックしてきた。
大阪駅で顔認証改札とは何か
かなり派手なデザインの顔認証改札機。
撮影:小山安博
顔認証改札が設置されたのは、JR大阪駅の新たな地下改札口「うめきた地下口」。同時にJR新大阪駅にも簡易顔認証改札機が設置されるが、ウォークスルー改札機としてはこのうめきた地下口のみだ。
現時点では実証実験という位置づけだが、一般の利用もできる。
顔認証改札システムはJR西日本と、大日本印刷(DNP)、JR西日本グループのJR西日本テクシアが共同で開発した。
事前にJR西日本のアプリ「WESTER」で自分の顔情報を撮影し、ICOCA定期券と紐付けをしてサービス利用登録をすれば、誰でも顔認証改札を利用できる。
改札内から見たところ。すれ違える余裕のある幅がある。
撮影:小山安博
ただし、定期券の区間に新大阪と大阪が含まれる人だけが対象だ。また、顔認証で入場した場合は顔認証でしか出場できないため、基本的には普段、新大阪と大阪で乗降する人に限られるだろう。
この仕組みはDNPが構築し、ハードウェアとしての改札機はJR西日本テクシアが開発。登録された顔の特徴量から、実際の顔認証をする部分はパナソニックの技術を利用しているという。
これまで顔認証の実証例はいくつかあり、山万の千葉・ユーカリが丘線、大阪のOsaka Metro(大阪市高速電気軌道)といった例はあるが、関係者のみだったり人数制限をしていたりで、数が少なかった。
今回は対象となる定期券所有者であれば、人数制限なく、誰でも利用可能ということで、これまでよりも大がかりな実証となりそうだ。
顔認証改札を試してみると……
実際の顔認証改札機は、なんとなく「宇宙船の入口」という雰囲気の未来的なデザインのゲートだ。
通常の改札機にあるようなフラップはなく、入場と退場の2列の幅があって大きめのサイズ。入場・出場の派手なデザインのディスプレイや、床に投影された入場・出場サイン、内側の側面に大きく情報を掲示するディスプレイも、ちょっと古典的な未来感という印象はある。一方で、公共交通機関らしからぬ「楽しさ」も感じる。
入場・出場の方向がかなり強調されている。あまり左右を間違える人が多いと、中央にポールが立つなどデザインを損ないかねないという懸念も感じた。このままにしてほしいところではある。
撮影:小山安博
入出場口の側面には、それぞれ交通系ICのリーダーが設置されており、顔認証登録をしていない人でも、交通系ICのタッチで入出場が可能。
通常のIC専用改札としても利用できるので、改札機を通過したい人も自由に試せる。
入場側のカードリーダー(左)と、改札内の出場側リーダー(右)。
撮影:小山安博
未登録の顔もきちんと検出「小走り」でも通れる
というわけで、実際に顔認証改札を通過してみた。
といっても、自分自身は登録できない(定期券を保有していない)ので、侵入してみると内部が赤に変わって警告音声が流れる。
当然だが、きちんと未登録の顔を検出しているということになる。
4カ所、カメラが設置されている。
撮影:小山安博
顔を登録しているモデルが通過すると、緑のランプが点灯して登録済みだと判別され、そのまま通過できた。
ウォークスルーで、途中にさえぎるフラップもないためスムーズだ。改札機にタッチするような動きもなく、バッグやポケットから定期券やスマートフォンを取り出す手間もなく、「ただ歩いて行くだけ」で入出場できる。
ただ歩くだけで通過できる。認証されると通行側のいたるところが緑に変わる。
撮影:小山安博
顔を隠して通過しようとすると赤いランプが点灯して警告音声が流れる。
撮影:小山安博
試しに早足で歩いてもらうと、これも問題なく認証が行われた。
続いてテストのために軽く駆け足になってもらってもきちんと認証されていた(ただし、構内で走るのは避けたい)。
駆け足でも問題なく認証が完了していた。
撮影:小山安博
登録されていない自分が試してみたところ、当然認証ができなかった。
撮影:小山安博
入場と出場で2人が同時にゲートに入っても認証は可能で、連続で人が通過する場合も、通常の改札機を通るぐらいの間隔で連なる程度であれば認証はできるという。
どの程度のスピード、人の間隔で認証が通るかどうかは、実証によってテストしていきたいとJR西日本では話している。
顔パス改札の「センサー」、「データ」の取り扱い
普段のディスプレイには時計などの情報が表示されている。
撮影:小山安博
認証は、ゲートの柱4カ所に設置したカメラを使う。天井部分にはセンサーがあり、こちらも認証に活用しているという。
顔を使った認証は、すでに空港などでも実用化されているが、立ち止まることなくそのままウォークスルーで通過できるほどの認証スピードというのが特徴だ。
一般的に、顔認証はきちんとカメラに正対して適切な光量で顔がきちんとカメラに捉えられることが必要になる。
屋外から光の差し込むような場所だと、時間帯によって光が変わることもあって顔認証には不利な環境だ。
今回、うめきた地下口が「地下改札口」ということで周囲からの光の差し込みがなく、なおかつゲート型という形状によって、顔認証時に通路内に人が入り込むので適切な光量を確保できる。
天井にはライトを配置しており、顔の部分が十分な明るさになるようにしている。
撮影:小山安博
それでも、人によって背の高さは違うし、必ず正面を向いているとも限らない。
子どもも対応できるとしており、マスクやメガネを装着していても認証は可能だが、いずれにしても今回の実証において、どの程度の認識ができるかを検証していく計画だ。
顔認証は、撮影した顔データから特徴量を抽出し、カメラで撮影した画像データと照合する。
認証時の撮影データはその場で破棄し、顔データもJR西日本内のローカルサーバーに保管しているという。
ゲート型でカメラの撮影範囲は限定して周辺の撮影を防ぎつつ、撮影されたくない人が避けやすいような形状となっている。
日本は欧州の鉄道のような信用乗車(駅員や改札などでの乗車券確認を省略する方式)ではないので、駅の入口をウォークスルーで通過できる場面は多くはない。
スマートフォンやカードでタッチもせずに改札を通過できるのは新しい感覚ではあるだろう。
新ホームの開業で増える乗降客数は1万人を超えると見込まれており、対象人数は限られるとはいえ、顔認証改札を使う人の数は一定の規模にはなると想定される。
今のところ、他の駅に顔認証改札を拡大する計画はないが、今後の実証結果によって拡大も検討するという。
JR西日本では、期限を決めずに顔認証改札の実証を継続してデータを集め、今後の実用化の検討につなげていく。
2025年の万博を見据えて開発が進む
うめきた地下口の出口は3階建てになる予定。
撮影:小山安博
今回開業するうめきたエリアは「JR WEST LABO」としてデジタル技術などを駆使した実証場として新たな取り組みを行う。
今回は、うめきたエリアと呼ばれる大阪駅北側一帯の開発とも連動。
2025年には大阪・関西万博が開催され、それに合わせてうめきたエリアの開発も加速する。こうした新たな取り組みで大阪のアピールにもつなげていきたい考えだ。
こちらはうめきたエリアの完成予想図。中央やや右上にあるのがうめきた地下口出口。公園は2024年夏には完成予定で、その後順次ビルが建ち並ぶ計画となっている。
撮影:小山安博
これまで実証を進めていたOsaka Metroは2024年度末までにウォークスルー型の顔認証改札を全駅に導入する予定だ。
現時点で両社は連携していないため、それぞれ個別に顔登録が必要だが、万博に向けて大阪エリアでの顔認証改札が増えることになりそうだ。
これはOsaka Metroで2019年12月に取材した顔認証改札。この実証を経て、さらに進化したウォークスルー型顔認証改札機を導入するという。
撮影:小山安博