VRはもうひとつの社会。3Dクリエイターmioさんに聞く「VRクリエイターエコノミー」の世界

mioさんと岩佐さん

Business Insider Japanでは初めて、VRChatからの中継をしながらのトークセッションを実施した。

画像:番組よりスクリーンショット

2023年1月26日、27日の2日間にわたってお送りしたBusiness Insider Japan主催のイベント「BEYOND MILLENNIALS 2023」。

そのスピンオフ回として、3Dクリエイターのmioさんと、Shiftall(シフトール)CEOで本イベントのアドバイザリーボードの一人でもある岩佐琢磨さんが登壇し、VRクリエイターエコノミーの世界を紐解いた。

当日の様子はYouTubeでご視聴いただけます。

撮影:Business Insider Japan

── 「BEYOND MILLENNIALS 2023」の受賞者を決める審査会の中でmioさんの名前が挙がった時、岩佐さんより「VRアバターは究極のダイバーシティだ」という話がありました。改めて、どういうことか解説をお願いします。

岩佐琢磨さん(以下、岩佐):VR(Virtual Reality)空間では、アバターになることで実社会の性別や年齢は関係なくなります。

現実世界では外見にコンプレックスがあったり、コミュニケーションにハードルを感じている方でも、VR空間の中で生き生きと楽しんでいる姿を見てきました。

そうしたことから、VR空間は全員が平等であり究極のダイバーシティを実現できる空間だと思っています。

配信の様子

「VRアバターは究極のダイバーシティだ」と語るShiftall 代表取締役 CEOの岩佐琢磨さんは、自身のアバターの姿(写真左)で登壇した。

画像:番組よりスクリーンショット

Webエンジニア・デザイナーからアバターの3Dクリエイターに

── mioさんは、3Dクリエイターになる前はどんなキャリアを歩んでこられたのですか?

mioさん(以下、mio):3年ほど前まではWebエンジニア兼Webデザイナーでした。「Blender」※1のバージョン2.8 がリリースされた際に、操作性が大きく変わって使いやすくなったため、3Dを扱えるようになればWebデザインの仕事の幅も広がると考えたのがきっかけでした。

※1 Blender(ブレンダー):3DCGアニメーションを作成するソフト。オープンソースのフリーウェアでオランダ拠点の非営利団体が開発している。

配信の様子

自身の経歴について語る3Dクリエイターのmioさん(写真右)。

画像:番組よりスクリーンショット

── 最初は仕事の裾野を広げるためだったのですね。

mio:3Dの勉強する中で、すがきれもんさんのアバター「プリシエナ」をTwitterで見かけて、「こんなイラストのような3Dが作成できるんだ」と衝撃を受けました。そしてこういったモデルをつくりたいと思い、アバター制作を始めました。

他のアバターを見るために、VRヘッドマウントディスプレイを初めて購入して、「バーチャルマーケット」というイベントにも参加しました。

── mioさんが制作したキャラで有名なものは?

岩佐:薄荷(はっか)ちゃんですね。ほかには杏里(あんり)君でしょうか。

BOOTHのスクリーンショット

mioさんが制作したアバター「薄荷」。

画像:番組よりスクリーンショット

BOOTHのスクリーンショット

mioさんが制作したアバター「杏里」。

画像:番組よりスクリーンショット

岩佐:mioさんは、いわゆる「イケメンアバター」が流行るきっかけの1つをつくった方で、流行る前はイケメンアバターはほとんどなかったですよね。

mio:いくつかありましたが、使うユーザーは限られていましたね。

── mioさんとしては、薄荷ちゃんが多くのユーザーに使っていただけた、「手応えのあるキャラクター」ですか?

mio:そうですね。私の作品というと薄荷ちゃんが最初に挙げられると思います。薄荷ちゃんがいなければ、今の立場もなかったと思います。

── 岩佐さんから見て、人気になった理由は何だと考えますか?

岩佐:薄荷ちゃんが中性的でボーイッシュなのは、人気の理由の一つだと思います。そういったことをイメージして作られたんですよね。

mio:カジュアルで馴染みやすい感じを考えて作りました。

── ファッションでもジェンダーレスがキーワードですし、現実世界の人の感性が影響している部分もあるかもしれないですね。

岩佐:ほかには、mioさんのアバターが早い時期にQuest版に対応したことも要因にあると思います。

バーチャル空間内でコミュニケーションできる「VRChat」には、PC版とヘッドマウントディスプレイ(Meta Quest※2)を被ってプレイするQuest版がありますが、当時のQuest版はアバターに制限があり、ハイポリゴンのものは使用できませんでした。

※2 Meta Quest:Meta(旧Facebook)の開発するスタンドアローン型のVRゴーグル。現行機はQuest 2とQuest Pro。

── Questで動くようにアバターのポリゴン数を調節したということですよね。大変な作業だったと思いますが、なぜ制作しようと思ったのでしょうか。

mio:面倒と言われていたため、逆にやってみたいなとチャレンジしました。ただ、1回制作したら、もう懲り懲りだと思いました(笑)。

岩佐:だから、最近はQuest対応ではないと。

mio:やはり大変ですね。

アバターの海外販売比率はすでに「約半数」に

── mioさんはBOOTH ※3でアバターを販売していますが、国内の購入者が多いのでしょうか。

mio:日本と韓国が同程度の比率であわせて70%前後、10%程がアメリカ、残りは30カ国ほどのユーザーに購入いただいています。

※3 BOOTH(ブース):ピクシブが運営する「創作物の総合マーケット」。基本料無料で簡単にショップを作成できる。

── 例えばスタートアップ企業の目線で考えると、このような海外比率を誇るのはすごい話ですよね。

岩佐:そう思います。さまざまな国に売るのは本当に大変です。ちなみに「VRChat」のユーザーはアメリカが圧倒的に多いため、そういう意味では、mioさんはまだまだポテンシャルがありそうですよね。

mio:最近は海外も意識して制作しています。

── 海外のユーザーにヒットしそうなキャラクターを考えるということですか?

mio:それもありますが、逆に海外のアバターに刺激を受けています。こういう系統を作ってみたい、という気持ちが出てきています。

ポテンシャルという意味では、最近は女性ユーザーも増えていて、ショップの解析だと購入いただいた方の35%が女性です。

岩佐:アバターは、メイクやファッション、アクセサリーのカスタマイズなど女性が楽しめる要素が多いと思います。

バーチャル空間内はある種一つの「社会」なので、いわゆる男性的な人、女性的な人、さまざまな方がいて、mioさんはその中で女性的な視点でアバターを制作していますし、そうではなく、男性的な視点で制作する方もいると思います。

こうしてダイバーシティが進むことで空間が良くなっていく、そういったポテンシャルも感じますよね。

すでに「社会」として成り立っているVRの世界

── VRの世界は自分もキャラクターになれるし、相手もキャラクターとして存在します。1つの社会になりそうですが、岩佐さんはどう考えますか?

岩佐:すでに社会ですね。

VRに慣れていない方からすると、アバターを見てアニメ、ゲーム的と感じるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。

例えば、映画であれば実写に限らず、ジブリや新海誠作品を始めとして2次元映画でも人は泣いたり感動する。

バーチャル空間はそれに近い感覚です。なので、これから社会になるのではなくてすでに社会である、と理解をしています。

── VRの世界には、3Dクリエイターだけでなく他にも職業を持つ方がいると伺っていますが、紹介していただけますか?

mio:例えば、「バーチャルフォトグラファー」という職業があります。現実の写真のように、お金を払ってでも撮ってほしいと思うくらい綺麗な写真を撮影してくださることから、職業として成り立っています。

岩佐:VRの中でも、良い絵を撮るにはカメラマンは必要になると思います。他にも空間内で踊ってほしいとなったら、ダンサーに入ってもらうこともあります。

mioさんのワールド

配信の会場ともなったmioさんのワールド。

画像:番組よりスクリーンショット

── mioさんがいるワールドも、仕事として依頼して制作してもらったのですか?

mio:はい。制作者のえこちんさんの作品を拝見して、こんな素晴らしいワールドを作ってほしいと思い、依頼しました。

── 対価が発生しているということは、社会であると同時にビジネスの場としても機能し始めていますね。“VRの空間が社会の何を変えていくのか”というテーマの中で「clustert※4」で実施された勉強会のリアクションが面白かったとのことですが、何があったのでしょうか。

※4 cluster(クラスター):日本のスタートアップ・クラスター社が開発するメタバースプラットフォーム。スマホやPC、VR機器などで集まれる。

mio:リアルの勉強会では、日本の方は恥ずかしがってしまうことも多いため最後に拍手するくらいなんですよね。

それが、この勉強会では、面白いところや盛り上がるところで「いいね」など、さまざまなリアクションが入ったのが印象的でした。余計なバイアスなどがかからないことがすごく良いと思いました。

── あまり感情を表に出さないことが日本のカルチャーなのかもしれませんが、それを解き放てる良さがVRにはあるかもしれないということですね。

mio:そうですね。

── 社会をより拡張していく可能性もありそうですね。最後に一言お願いします。

mio:この番組に出られたのもアバターがあったからこそで、この体があって良かったと思います。アバターは人型に関わらず、好きな姿になれます。

いつも使ってくださっている皆さんには本当に感謝していて、これからも可愛い・かっこいいアバターを作っていこうと思います。

岩佐:現実世界とは全く違う楽しみ方ができる、もう1つの空間があると理解してもらえたらと思います。

単に姿を変えるという話ではなく、精神的にも充実したり、他者と全く新しい関係を築ける空間があります。VR空間はひとつの社会だと考え、思い思いに来ていただけると、一緒に楽しめると思います。

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