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2023年3月期決算以降の有価証券報告書において、上場企業など約4000社に義務化される「人的資本の情報開示」。対象企業は、男性育休取得率や女性管理職比率、男女間賃金格差などを有価証券報告書で公表することになる。
義務付け開始を目前に控えるなかで、企業の人的資本経営はどんな状況にあるのか。HR総研が3月20日に発表した「人的資本調査2022」の結果で、男性育休取得率は平均38%、女性管理職比率はわずか同10.7%と厳しい現状にあることが分かった。
HR総研の調査は、HRテクノロジーコンソーシアム、MS&ADインターリスク総研と共同で2022年9〜12月に実施。上場企業を中心とする280社が回答した。回答企業の従業員数300名以下〜1万1名以上と幅広い。
【図1】男性の育児休業取得率(平均値、%)。
出典:「人的資本調査2022」(HR総研、HRテクノロジーコンソーシアム、MS&ADインターリスク)
男性育休取得率を業種別に見ると、「金融」が66.2%と突出している(【図1】)。ほかは第2位となった「情報・通信」の36.9%をはじめ4割未満。最も低いのは「運輸・エネルギー」で21.8%だった。
【図2】女性管理職比率(平均値、%)。
出典:「人的資本調査2022」(HR総研、HRテクノロジーコンソーシアム、MS&ADインターリスク)
女性管理職比率については、各業種の中で比較的女性比率の高い「サービス」がトップで24.7%(【図2】)。それでも、国が2020年代の可能な限り早期の達成を目指す「30%程度」には遠く、「メーカー」「運輸・エネルギー」では5%前後と極めて低い水準に留まっていた。
【図3】人材ポートフォリオの具体的計画と目標達成に向けた活動。
出典:「人的資本調査2022」(HR総研、HRテクノロジーコンソーシアム、MS&ADインターリスク)
一方、人的資本経営を進める上での課題について、経営戦略に基づき企業価値の最大化を図るための「人材ポートフォリオ」、つまり適材適所の具体的な計画を立てられていない企業が75%にも上っていること分かった(【図3】)。
具体的には、「人材の現状分析はしたが、必要な人材ポートフォリオを実現するための目標設定や具体的計画は立てられていない」企業は45%、「人材の現状分析や必要とする人材ポートフォリオの明確化ができていない」という“現状分析もできていない”企業は30%を占めた。
この点について、HR総研は「自社の企業価値向上に向けた効果的な人材戦略を策定・推進していく上で、自社にどのような人材がおり、どのような人材を確保・育成する必要があるのか、まずは客観的に現状把握することが効果的な戦略推進の重要なポイント」だとした。
【図4】人材戦略の中で重要視している指標。
出典:「人的資本調査2022」(HR総研、HRテクノロジーコンソーシアム、MS&ADインターリスク)
人材戦略で重視している指標は「育成」が48%とトップを占めているが(【図4】)、その効果を上げる第一歩が、従業員の能力やスキルをしっかり把握することだと言えそうだ。
人的資本経営とは:従業員を企業経営の重要な資本あるいはステークホルダーと捉え、その知識やスキルを最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方を指す。