アドビはアメリカ・ラスベガスで「Adobe Summit 2023」を開催した。
撮影:小林優多郎
アドビはマーケターとそれ以外の人の間にある「溝」を埋めようとしている。
アドビがアメリカ・ラスベガスで開催した「Adobe Summit 2023」(3月21日〜23日)では、主役であるデジタルマーケティング製品群「Experience Cloud」の新機能を複数発表している。
目玉は既報の通り、同社肝入りの生成型AI「Adobe Sensei GenAI」およびその一部である「Adobe Firefly」だ。
ただ、生成型AI以外にも新機能は存在する。リリースされているもの以外に現地会場にこっそりと展示されていたものを含め3つの機能を紹介しよう。
未発表の3D機能「Project Sunrise」
Adobe Summit 2023のアドビブースにひっそりと置かれていた「Project Sunrise」の展示。
撮影:小林優多郎
アドビの代名詞と言えば「Photoshop」や「Illustrator」などのクリエイティブ製品だが、同社は今、3Dの領域にも力を入れている。
その代表的な機能が2019年にアドビが買収し、2021年に同社の製品群に加わった「Adobe Substance 3D」だ。
そして、そのSubstanceとExperience Cloudの橋渡し的な存在になるのが「Project Sunrise(サンライズ)」と呼ばれる3Dデータに関するシステム構想だ。
左がSubstance 3D Sampler、右がExperience Cloudのロゴ。真ん中にあるのがProject Sunriseのロゴ。
撮影:小林優多郎
Project Sunriseはリリースやアドビのブログ投稿が存在しないが、今回のSummitで初めて公開され、ホームページも用意されている。
マーケターから見れば、Project SunriseはEC分野のツールに分類される。
スマートフォンで商品である鞄をスキャンしている様子。
撮影:小林優多郎
「Substance 3D Sampler」でスキャンしたデータを編集している点。
撮影:小林優多郎
3Dにすることで高品質な商品画像が量産できる。
撮影:小林優多郎
ECで売る商品の3Dデータがある場合はそれをアップロード、実物はあるが3Dデータはないものはスマホで複数の角度から撮影して3Dデータ化して、アセット(素材)として管理できるようになる。
それらの3Dデータを使って、例えばさまざまな角度の写真や、任意の背景や3D空間に設置して画像を作れる。
Project Sunriseのワークフロー。
撮影:小林優多郎
制作したデータをExperience Cloudにアセットとして登録したり、ShopifyやSAP、WooCommerceなどにプラグインなどを通して展開したりできる。
現状ではSummitの会場でスライド紹介された大まかな概要に触れられた限りだが、3Dデータを扱うクリエイターとマーケターをつなげる内容になっている。
現地担当者によると、Project Sunriseは2023年夏にベータ版としてリリース予定だという。
ブログやWebサイトの編集がWordでできる新機能
WordなどとExperience Managerが連携できるようになる。
撮影:小林優多郎
二つ目の新機能は「Wordを更新するだけでブログやホームページの更新ができる」機能だ。正式な名称はない。
もう少し詳しく言えば、ある程度規模感のあるブログやホームページなどの裏側では、「CMS(Contents Management System)」と呼ばれるソフトが動作している。
例えば、ブログを書く際は、記事に載せたい文章や画像をCMS上に挿入する。CMSの種類にもよるが、それこそ「Wordの操作さえできればできる」と表現されることもある。
左がWordファイル、右が更新対象のサイト。
撮影:小林優多郎
ただし、操作に慣れないユーザーは存在する。それに、普段CMS(アドビで言えば「Experience Manager」)を使っていないユーザーにとっては、CMSへデータを流し込む作業のためにいちいちマーケティングツールにログインしなければいけないのは、やや煩雑とも言える。
「Wordの操作さえできればできる」のであれば「Wordで変更・作成した結果が反映されればいい」という発想が本機能の概要だ。
あらかじめExperience ManagerとSharePoint(Microsoft 365)やGoogle ドライブのフォルダーを関連付けさせ、そのフォルダーにWordやGoogleドキュメントなどをアップロードすると、その内容に合わせてページを更新できる。
ワードファイルには、挿入したいパーツのテンプレートを貼り付けて、編集していく。
撮影:小林優多郎
デモではSharePointに配置したWordファイルを編集することで、リアルタイムにウェブサイトを更新する様を確認できた。
単に文字が入るというだけではなく、あらかじめ用意してある構造化データをコピー&ペーストすることで、カルーセル(横並びにスクロールするコンテンツ)などの少し複雑なレイアウトの更新も可能になっている。
本機能は既にアドビの公式ブログなどでも採用されているものの、一般向けの提供は「年内の早いタイミング」の展開が予定されている。
PhotoshopやPremiere Proでタスク管理が可能に
Creative Cloudとの連携も強化される。
撮影:小林優多郎
最後は、クリエイティブ製品群「Creative Cloud」との連携機能だ。いわば、クリエイターとマーケターの架け橋になる機能だといえる。
この機能はプロジェクト管理ができる「Workfront」のアップデートで実装される(時期未定)。更新されたWorkfrontでは、個々のタスクやアセットを紐づけることができる。
Photoshopに入るWorkfrontプラグインのイメージ。
撮影:小林優多郎
ただ、前述のWordの機能と同じように、クリエイターがマーケティングツールを使うことは向き不向きがある。
そこで使い慣れたツール上でWorkfrontにあるタスクを確認できればいいのでは……ということでCreative Cloudのツールにプラグインという形でWorkfrontのデータを参照し、ステータス変更やコメントなどが可能になる。
Premiere Proに表示されたWorkfrontプラグイン。動画アセットのステータスやアサイン者などが確認できる。
撮影:小林優多郎
3月21日の基調講演では、2D関連で「Photoshop」「Illustrator」「InDesign」、動画関連では「Premiere Pro」「AfterEffects」での対応が示された。
特にPremiere Proについては、アドビが2021年8月に買収を発表した動画編集のコラボサービス「Frame.io(フレーム・アイオー)」のコメント機能もあわせたデモも公開されていた。
制作・実行フローを整理することが成果につながる
冒頭で述べたように、いずれの機能もマーケターとそれ以外の人を結ぶ機能になっている。
より多くの人がプロジェクトに関わったり、自社サイト、SNS、動画サイトなど多彩なチャンネルにアウトプットしていったりする際、どうしてもそのフローは複雑になっていく。
そのフローを整理し、効率化を図ることが、より大規模で収益などの成果につながる、というのがアドビの狙いだ。