ジョナサン・ハートルは、約2兆5000億円の資産を運用している。
Hirtle Callaghan & Co
ここ数年、株式市場が悪い方向に向かい始めると、落ち込むのはあっという間だ。とはいえ、1987年の「ブラックマンデー」のような大暴落とは比べるべくもない。
1987年10月19日、ダウ平均株価は22.6%下落した。これが、減速する経済、米ドルの弱体化、株と先物価格の乖離、そして投資家たちの神経質な反応などと相まって世界的な株式の売りを呼んだ。2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる下落が起こった最悪の日でさえ、下落度合いで言えばブラックマンデーの半分程度だった。
「それは誰も経験したことのない、本当に恐ろしいものでした」と、ジョナサン・ハートル(Jonathan Hirtle)は言う。彼は大暴落の翌年、ハートル・キャラハン・アンド・カンパニー(Hirtle Callaghan & Co)という会社を設立した。同社は現在100人規模となり、2022年末には数多くの富裕層、財団、寄付金から預かった190億ドル(約2兆5000億円、1ドル=131円換算)を運用し、顧客にとっての最高投資責任者的な役割を担っている。
ハートルはInsiderに対し、2023年の銀行破綻は、1987年や2008年の時とはまったく異なると語る。
「2023年の銀行破綻は、1987年の大暴落とはまったく違うもののように感じます。1987年の下落はテクニカルなものであり、取引による下落でした。今回の下落はファンダメンタルなものです」
今回の銀行破綻は、ハイテク産業の行き過ぎと大幅に上昇した金利が組み合わさって起きた。しかし2008年の時とは異なり、世界の金融システムや世界経済が脅かされるような兆しはないとハートルは言う。
ハートルは、長期的視野に立つことを心がけ、他の地域よりアメリカの国内株を好むという。彼の投資対象は、バランスシートが健全で負債が少ない高品質の成長株に集中している。一例を挙げれば、SAP、マイクロソフト(Microsoft)、エアバス(Airbus)、ファイサーブ(Fiserv)、アルファベット(Alphabet)、決済大手のビザ(Visa)やマスターカード(Mastercard)、ユニオンパシフィック(Union Pacific)やカナディアンナショナル(Canadian National)などだ。
「今日、私たちが好むのは市場シェアが拡大しそうな企業で、市場に必要とされており、その事業内容に優位性があるものです。今後、経済が厳しくなっても、顧客にとって必要不可欠なサービスを提供している企業は、市場シェアを獲得する可能性が高いと考えています」
それでも、世界的な分散投資や株式、債券、未公開株への分散投資が長期的には重要だという。ハートルは債券よりも株式を好むそうだが、特に非課税の顧客にとっては現在、米国物価連動国債(TIPS:消費者物価指数の動きに連動して元本が調整される国債)が魅力的だと言う。
「ポートフォリオを安定させるために債券を選択するなら、TIPSがいいでしょう」と彼は言う。
ブラックマンデーから数年が経過すると、投資家たちは長期投資よりも短期取引を重視するようになったとハートルは言う。短期取引では、金融システムが健全であることが重要だ。
「まさにいま銀行で起きているようなことを解決するために、連邦準備制度が設計されたのです。システム的に脅威となるようなことは、まったくありません。単に10年かけて市場が過熱した後、銀行から資金が流出したというだけのことです」
長期的には、いくつかのファンダメンタルを念頭に置いておく必要があるという。一つは、市場のリーダーは常に交代するということ。2010年代のハイテク分野のように、一つの分野がこれからも市場を支配をし続けるということはない。
もう一つは、長期的な上昇は、より緩やかになる傾向があるということだ。2010年代の強気相場では、株価は11年弱で約400%も上昇した。S&Pグローバルによれば、これは1年あたりで換算すると約15%の上昇となる。しかし歴史的に見ると、名目利益は6%程度(インフレ率を考慮すると約4%程度)であり、これが標準的な水準だ。
15%より4%のリターンを狙う方が失敗のハードルは低いし、投資を続けること自体が重要だとハートルは言う。
彼は、ブラックマンデーの暴落を数週間前に予言して的中させたエレーヌ・ガルザレッリ(Elaine Garzarelli)を例に挙げる。市場の予言者としての評判を基盤に、ガルザレッリのファンドには資金が集まるようになった。ただ、彼女が弱気に徹したこともあり、彼女のファンドの成績はその後数年間低迷した。結果的に1987年の暴落から株価が回復するまで4年以上かかったが、たとえブラックマンデーの損失を含めても、投資を続けたほうが弱気であることよりも良い結果を生んだという。
「市場に出たり入ったりするタイミングを計ろうとするのは間違いです。長期的には、楽観主義者が勝つのです」