ニューヨーク、ブルックリンのPaul Robeson School for Business and Technologyに併設されたP-TECHスクール。
Hollis Johnson/Business Insider
- 大学卒業資格のない何千万人ものアメリカ人は高収入の仕事から締め出されてきた。
- しかし、労働力不足が続く中、採用にあたって大卒の学歴条件を撤廃する企業が増えている。
- その動きの先頭を走るハイテク、金融、航空業界の7社を紹介する。
アメリカでは以前とは異なり、今では採用にあたって大学卒業の資格を条件としない企業もある。
2017年の報告書によると、グレート・リセッションの後、アメリカの労働者の3分の2近くが、大卒資格がないという理由で高収入の仕事から締め出されたが、実際にはそれらの仕事に4年制大学の教育は必要ではなかった。その結果、白人労働者に比べて大卒率が低い黒人やラテン系の労働者の多くが取り残されてしまった。
テスラ(Tesla)のイーロン・マスク(Elon Musk)CEOやアップル(Apple)のティム・クック(Tim Cook)CEOなどは大卒資格の必要性を疑問視している。また、人手不足がすぐには解消されないという状況の中、大卒にこだわっていると人材プールが縮小し、「競争上不利」になることに気がつく企業が増えている。2023年2月現在、アメリカの高校卒業者の失業率は5.8%であるのに対し、4年制大学卒業者の失業率は2.9%だ。この差は、大卒でなくてもすばらしい仕事をする可能性のある労働者が数千万人もいることを示している。
現在、雇用の可能性を広げ、労働者の多様化を推進するために、多くの企業が大卒の学歴条件を撤廃している。2017年から2019年にかけて、ミドルスキルの46%、ハイスキルの31%の職種で大卒の学歴条件が撤廃された。これは金融、経営管理、エンジニアリング、ヘルスケアといった職種において顕著に見られると、シンクタンクのBurning Glass Instituteは2022年の報告書に記している。こうした「大卒リセット」の傾向は、永続的に続くと予想されている。
これらの企業が目をつけているのが、コミュニティカレッジ、兵役、ブートキャンプ(新兵訓練)、就職など、4年制大学以外でスキルや経験を積んだ労働者だ。労働力開発を行う非営利団体Opportunity@Workによると、このような労働者は全米に7000万人以上いると推計している。
大卒の学歴条件を撤廃する企業が増えるにつれ、今後5年間でさらに140万件の雇用の門戸がこれらの労働者に開かれるとBurning Glass Instituteは推計している。
ここでは、大卒の学歴条件を取り払い、スキルベースの採用で就職市場の大きな変化をリードしている企業7社を紹介する。
IBM
IBMのアルビンド・クリシュナ(Arvind Krishna)CEO。
Brian Ach / Stringer / Via Getty
2016年、IBMは、大卒資格の代わりになるスキルがあることを要件とする職種を「ニューカラー(new collar)」と名付けた。2020年には新規採用者の15%がニューカラーで、アプリケーション開発、システム管理、ソフトウェア開発、サイバーセキュリティといった職種に従事している。
2021年、IBMはアメリカでの募集人員の半数以上から大卒要件を取り払ったことを発表した。
さらに、人材を育成するためのP-TECHプログラムを実施し、十分なサービスを受けていないコミュニティの学生が実践的なテクノロジースキルを身につけ、IBMの有給インターンシップに参加できるようにした。
Burning Glass Instituteがテック企業の職種ごとに、大卒資格を要するポジションの比率を調査したところ、IBMのソフトウェアQAエンジニアとネットワーク管理者に関しては、全米平均よりも低く、ソフトウェア開発者/エンジニアに関しては31%と他の競合する大手テック企業の中で最も低い水準となった。
アクセンチュア
アクセンチュアのジュリー・スウィート(Julie Sweet)CEO。
Scott Halleran/Getty Images
情報技術サービスやコンサルティングでIBMと競合するアクセンチュア(Accenture)は、2016年に実習プログラムを開始した。すると2022年4月時点で採用者1200人のうち80%が大卒以外になったとCNBCが報じている。同社は、アプリケーション開発、サイバーセキュリティ、クラウドおよびプラットフォーム・エンジニアリングなど、アメリカの大卒レベルの職種の20%を実習生が担うようになることを目指している。
前述のBurning Glass Instituteの調査によると、アクセンチュアのソフトウェアQAエンジニアで大卒資格を要するポジションの比率はわずか26%で、競合する大手テック企業の中で最も低い。コンピュータサポートスペシャリスト、ソフトウェア開発者/エンジニア、ネットワーク管理者についても、大卒資格を要するポジションの比率は、全米の平均よりも低い。
オクタ
オクタのトッド・マキノン( Todd McKinnon )CEO。
Okta
2021年、認証情報サービスを提供するオクタ(Okta)は、成長目標の達成と労働者の多様化を推進するために、営業職の多くで大卒の学歴条件を撤廃し、スキルや将来性に基づいて採用するビジネス開発アソシエイトプログラムを発展させたとウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
デル
デルのノートパソコン。
Andrew Kelly/Reuters
コンピューターメーカーのデル(Dell)は、2021年にコミュニティカレッジの卒業生に焦点を当てたプログラムを開始し、サイバーセキュリティ、エンジニアリング、技術サポート、技術営業、マーケティングなどの職種で採用したと、CNBCが伝えている。
バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカのATM。
Justin Sullivan/Getty Images
2018年、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)はパスウェイ・プログラムを開始した。これは営業、オペレーション、ソフトウェア開発などの職種に低所得者層の人材を採用するというもので、2025年までにこのプログラムを通した採用を2万人にすることを目指しているとCNBCが報じた。同社は、大半の大卒レベルの職種について、大卒の学歴条件を撤廃したという。
グーグル
グーグルのサンダー・ピチャイ( Sundar Pichai )CEO。
Anna Moneymaker/Getty Images
2022年、グーグル(Google)では、いくつかの職種の学歴要件が引き下げられたほか、同社のオンライン訓練プログラムの修了者は大卒同等と見なされ、同社の大卒レベルの職種に応募できるようになったとウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。また、大卒資格を要するポジションは、2017年の93%から2021年には77%に減少したことが、Burning Glass Instituteの調査で明らかになった。
デルタ航空
ボーイング767型機「スピリット・オブ・デルタ」。
Delta Air Lines
2022年1月、デルタ航空(Delta Airlines)は、副操縦士の採用にあたって、大卒の学歴条件を撤廃したと、航空学校のNorth Central Instituteが伝えている。この動きは競合するサウスウエスト航空(Southwest Airlines)、ユナイテッド航空(United Airlines)、アメリカン航空(American Airlines)に続くものとなる。航空業界は人手不足に直面し、高額な給与で新たなパイロットを採用したり、近距離便を廃止したりしなければならなくなっている。
デルタ航空は、2019年に募集した4000件のポジションのうち、90%で大卒の学歴条件を撤廃したと、The Center Squareが報じている。