ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)。
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- 致死的な症状を引き起こす多くのバクテリアは温暖な気候で繁殖する。
- そのうちのひとつ、ビブリオ・バルニフィカスが、気候変動のため、予期せぬ場所で発見された。
- 最近増加しているビブリオ・バルニフィカスによる感染は部位の切断や死に至る可能性がある。
先日発表された研究で、気候変動によって「人食いバクテリア」の一種による感染症がアメリカ東部で増加していることがわかった。
Scientific Reportsに掲載された研究で、アメリカでビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)と呼ばれるバクテリアに感染した患者が、1988年の年間10件から2018年には80件まで増加していることがわかった。
そのバクテリアは温暖な海中で繁殖し、感染症は大西洋沿岸南部に沿って発生する傾向がある。だが、海水温の上昇により、フィラデルフィアのような北部でも繁殖可能になっているという。この論文の著者は、このまま温暖化が続けば、ビブリオ・バルニフィカスは20年から40年でニューヨークまで到達し、年間の感染者数は2倍になると予測している。
「人食いバクテリア」は珍しいが、死に至ることもある
ほとんどの場合、「人食いバクテリア」の感染は汚染された牡蛎を生で食べたときに生じ、ひどい下痢と痙攣を引き起こし、通常なら数日以内におさまる。
しかし、まれなケースでは、バクテリアが虫の刺し傷やピアスの傷などの皮膚の傷口から中に侵入する。この場合は人食いバクテリアによる症状として知られる壊死性筋膜炎を引き起こすこともある。この症状は急速に悪化するので、すぐに治療しなければ死に至る可能性があるとアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は述べている。
CDCによると、「人食い」の初期の兆候は、赤く腫れて熱を持った皮膚、発熱、炎症部位以外での痛みなどがある。症状が進行すると、皮膚に黒い水膨れが現れ、疲労感やめまい、吐き気などが起こる。
この場合には、ただちに抗生物質で治療しなければならない。その間、もしバクテリアが手足の組織を浸食したら、その部分の血流が止まり、医師は壊死した組織を取り除くために手足を切断せざるを得ない。
壊死性筋膜炎の別の合併症には、重度の瘢痕、敗血症、ショック、臓器障害がある。この感染では、最大で5件に1件が死に至る。近年の研究によると感染してから48時間以内に死に至る場合もある。
気候変動により、他の病気も新しい地域に拡大
気候変動によって海水が温まり、世界中でビブリオ・バルニフィカスのような海中で繁殖するバクテリアが到達する可能性が高まっている。気候変動に関連した日和見病原体の動きについての科学者は、これが初めてではないし、これが最後でもないと指摘した。
脳を食べるアメーバとして知られるネグレリア・フォーレリ(Naegleria fowleri)も、水温が温まり、北部へと広がってきている。ネグレリア・フォーレリはビブリオ・バルニフィカスとは異なり、真水にしか生息できないため、通常は夏に川や湖で発見される。脳への感染した場合、ほぼ死に至るが、それは非常にまれだ。
ダニ、蚊、それらが運ぶウイルスやバクテリアは、温暖な気候を好む。それらの虫さされのピークが近年は長くなっており、アメリカ中でウエストナイル熱や新しいダニ媒介性疾患の感染が増えている。