連邦準備制度理事会は金利の引き上げを一旦止める可能性がある。
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- 連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めサイクルが終わりに近づくにつれて、市場は「ポストFed」の世界に入ろうとしている。
- 調査会社のデータトレックによると、その世界では金融政策は市場心理にとってあまり重要でなくなるという。
- データトレックは、この新たな投資環境について、以下に紹介する4つの潜在的な推進力があると見ている。
調査会社のデータトレック・リサーチ(DataTrek Research)によると、連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利上げによるインフレ対策は終わりに近付いており、投資家にとって新たな展望が開けているという。
「市場はFRBが2023年後半に利下げを行うと予想しており、連邦公開市場委員会(FOMC)ですら、現在の金利サイクルは終わりが近いと考えている」と、調査会社データトレック・リサーチの共同創業者、ニコラス・コラス(Nicholas Colas)は2023年3月24日のメモで言及している。
データトレックは、2022年末から2023年初めにかけてFRBが利上げペースを緩めたことで、S&P500のボラティリティが低下したと指摘している。FOMCの政策金利操作に関する確率を分析するCME FedWatchツールによると、世界的な銀行システムへの懸念の中、投資家らは2023年5月に利上げが一旦止まり、早ければ6月には金利の引き下げが行われる可能性があることに賭けているという。
金利の引き下げは株価を上値で支えることができる。しかし、プロスペクト理論(Prospect Theory)という行動経済学の概念から、「投資家が損失の恐怖を過大評価することを思い起こさせる」とコラスは述べている。
「2022年の市場の動きで傷ついた投資家たちは新しい投資のパラダイムに移行しても、臆病なままだろう」
「ポストFed(Federal Reserve Systemの略、連邦準備制度を指す)」の世界では、以下の4つの要因が投資環境を形成する可能性があるとコラスは示唆している。
1. 収益の重要性が増す
FRBが大幅な利上げを続けているにもかかわらず、企業利益は非常に堅調で、S&P500は3000から4000に近づいているとコラスは指摘している。
実際、S&P500は2023年の第1四半期には1株当たり利益は50ドル(約6540円)になると見られており、この値は2018年から2019年の新型コロナウイルスによるパンデミック前の四半期のランレートを22%上回ることになる。
さらにデータトレックによると、年間ではS&P500の利益は10%程度低下し、1株あたりの水準は200ドル(約2万6161円)が予想されるという。
2)セクターと株式の相関性が低くなる
コラスによると、セクターと銘柄はすでに独立して動き始めており、全体的な市場のボラティリティを低下させているという。そのため、ウォール街の恐怖指数と呼ばれるVIX指数(CBOEボラティリティ指数)は長期平均値の20近くまで下がっている。
VIXは26を超えていた2023年のピークを下回っている。VIXが30を超えるとボラティリティが高まり、20を下回ると通常は安定した状態になる。
3)ドル安はアメリカ以外の株にとってプラスに
FRBの金利引き締めサイクルがまもなく終了する可能性があることや、アメリカの利回りが安定しつつあることから、米ドルはライバルである主要通貨に押されている。実際、2023年に入ってから、ドル指数は約0.4%下落している。
「ドルが弱くなっているのは、世界の投資家たちがアメリカ以外の国のほうがよりチャンスが大きいと見ていることを示す強いメッセージだと市場は見ている」とコラスは話している。
ドルが強くなると、海外での売上高をドルに換算すると利益が減少してしまい、アメリカの企業の国際市場での収益を悪化させる傾向がある。
4)より注目されるその他の問題
コラスは、「ポストFed」へ投資環境が移行するのには、少なくともあと数カ月かかるとの見方を示している。その一方で、SPDR S&Pバンク ETFとSPDR S&Pリージョナル・バンキング ETFが2023年3月24日に新安値を更新したことに注目している。
そのため、政府の努力にもかかわらず、シリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank)破綻後のアメリカ銀行界の再編は、投資家が注視する重要な問題となっている。
「イエレン財務長官とパウエルFRB議長が、市場の懸念を抑えるために公私に渡って行っていることは、明らかにうまくいっていない」とコラスは述べている。